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田舎の農家のおっさん、Jリーグの名将になる  作者: やしゅまる


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21/22

第21話「監督、ボールが来る前に走るんですか?」

福岡ユナイテッドの練習場。


 選手たちが集まると、古賀はボールを一つ持ってきた。


「今日は、ちょっとした遊びをしようか」


 白石が首をかしげる。


「監督、また何か始まるんですか?」


「うん。次にボールが行く場所を当てる遊びたい」


「ボールが行く場所?」


 城戸も不思議そうに聞き返した。


「そう。ボールが来てから動くんじゃなくて、来る前に動くとよ」


 古賀は選手たちを二つのグループに分けた。


 片方は攻撃側。もう片方は守備側。


「攻撃する人は、自由にパスを回してよかよ。守る人は、次に誰にパスが出るか考えてみて」


 相川が腕を組んだ。


「監督、具体的には何を意識すればいいのでしょうか?」


「うーん。誰がボールを持っとるかだけじゃなくて、その人がどっちを向いとるか、仲間がどこにおるかを見るとよ」


「なるほど……」


「予想が当たったら大成功。外れても、またやればよか」


 練習が始まった。


 攻撃側がテンポよくパスを回す。


 守備側の白石は、ボールを持った選手に勢いよく走り込んだ。


「よし! 奪うぞ!」


 しかし、相手は簡単に横へパスを出す。


「あっ!」


 白石が慌てて追いかける。


 その隙に、別の選手へパスが通った。


「白石、ボールばっかり追いかけとるぞ」


 古賀が笑いながら声をかける。


「だって、ボールを取らないといけないじゃないですか!」


「そうやね。でも、ボールが行ってから走ったら、ちょっと遅かろう?」


 白石は少し考えた。


「じゃあ、どこに行くか先に考えるんですか?」


「そうたい」


 今度は岩永が守備に入った。


 相手がボールを持つ。


 岩永はすぐには飛び出さなかった。


 相手の体の向き、足の位置、味方の立ち位置を見る。


「次は右だな」


 相手が右へパスを出そうとした瞬間、岩永が一歩前に出た。


 パスコースに足を出す。


 ボールが岩永の足に当たって、外へ転がった。


「おおっ!」


 白石が声を上げた。


「今の、読んだんですか?」


「体の向きで何となくな。ボールを蹴る前に、どこへ出したいか見えた」


 古賀は嬉しそうにうなずいた。


「そうそう。相手の顔や体も見てみるとよかね」


 次は神崎が守備に入った。


 攻撃側の選手がボールを持つ。


 神崎はボールだけでなく、周りの選手の動きを見ていた。


 一人が前へ走る。


 もう一人が中央へ寄る。


 神崎はその動きを見て、空いた場所へ先回りした。


 パスが出る。


 神崎がカットした。


「よし!」


 神崎が小さく拳を握る。


 相川はその様子をじっと見ていた。


「……なるほど」


 相川の頭の中で、練習の意味がつながり始めていた。


 ただ相手のパス先を当てるだけではない。


 相手の選択肢を予測し、味方と連動してパスコースを消している。


 これは、チーム全体で相手を特定の場所へ追い込む守備だ。


 相川は思わず古賀に尋ねた。


「監督。これは、相手のパスコースを限定する練習なんですね?」


「ん? まあ、そうなるとかな」


「さらに、ボールを奪う場所をチーム全体で共有することにもつながります」


「へえ。難しい言い方するねえ」


 古賀は笑った。


「みんなで先回りしたら、楽しかろうと思っただけたい」


 最後は、全員での実戦形式になった。


 攻撃側は自由にパスを回す。


 守備側は、誰か一人がボールを追いかけるのではなく、互いの位置を確認しながら動いた。


 岩永が中央をふさぐ。


 神崎が横のパスコースを消す。


 白石が相手の逃げ道を限定する。


 攻撃側の選手が困ったように周囲を見渡した。


「出すところがない!」


 その瞬間、パスが出る。


 神崎が一歩先に動いていた。


「もらった!」


 ボールを奪う。


 神崎はすぐに顔を上げた。


 白石が走り出している。


 相手の守備陣形が整う前に、神崎から鋭いパスが通った。


「白石!」


「よっしゃあ!」


 白石はそのままゴールへ向かい、シュートを放つ。


 ネットが揺れた。


「ナイスゴール!」


 選手たちが拍手する。


 白石は笑顔で神崎のもとへ駆け寄った。


「キャプテン、今の見てました?」


「見てたよ。奪う前から走り出してたな」


「はい! 神崎さんが取ると思ったんで!」


 神崎は笑った。


「俺も、白石が走ると思ってたよ」


 古賀は二人を見て、満足そうにうなずいた。


「よかねえ。みんなで先回りできたけんね」


 練習後、相川が古賀の隣に立った。


「監督……今日の練習、守備だけではありませんでしたね」


「そう?」


「相手のパスを予測して、チーム全体でコースを消す。そして奪った瞬間には、もう攻撃が始まっている。守備と攻撃が一つにつながっていました」


 古賀は少し考えてから答えた。


「え? ボール取ったら攻めるやろ?」


 相川は言葉を失った。


 その横で、神崎が笑っていた。


「先生らしいですね」


 白石も大きくうなずく。


「明日もこの遊び、やりましょうよ!」


「よかよ。でも、今日はもう終わり。早く帰って、ご飯食べて寝らんとね」


 選手たちは笑いながら片づけを始めた。


 福岡ユナイテッドのサッカーに、また一つ新しい武器が加わろうとしていた。


 それは、誰か一人の読みや技術ではない。


 仲間の動きを信じ、次に起こることをみんなで考える力だった。

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