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田舎の農家のおっさん、Jリーグの名将になる  作者: やしゅまる


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20/22

第20話「監督、人力車で走力アップするんですか?」  

田主丸の空き家には、今日も地元の人たちが集まっていた。


 神崎が作った麹を使った料理を囲みながら、白石は子どもたちとゲームをしている。


 そこへ、一人の男性が訪ねてきた。


「古賀さん、ちょっとお願いがありまして」


 地元の観光関係者だった。


 近々、地域の観光イベントで人力車を使った案内を企画しているらしい。しかし、イベントを盛り上げるための協力者が足りないという。


「人力車ですか?」


 古賀が聞き返す。


「ええ。選手の皆さんにも参加していただけたら、地域の人たちも喜ぶと思いまして」


 古賀は少し考えたあと、笑顔で答えた。


「よかですよ。みんなに聞いてみます」


 その話を聞いていた城戸が、突然顔を上げた。


「監督! 僕、観光案内ならできます!」


「おお、城戸。できるとね?」


「はい! 僕、観光が好きなんです。福岡の名所とか、結構知ってますよ」


 普段は控えめな城戸が、珍しく身を乗り出している。


 古賀は嬉しそうに笑った。


「じゃあ、今日は城戸先生に任せようか」


「先生はやめてくださいよ!」


 周囲から笑い声が起きた。


 


 イベント当日。


 選手たちの姿を見た地元の人たちが歓声を上げた。


「本物の選手やん!」


「福岡ユナイテッドが来てくれたと?」


 選手たちは、クラブのエンブレムが入ったオリジナルの法被を着ていた。背中には大きく福岡ユナイテッドの文字。胸元にはエンブレム、袖には田主丸の文字が入っている。


 小柳も同行し、写真や動画を撮影していた。


「これ、絶対に公式SNSに載せます! チームの宣伝にもなりますよ!」


 白石は法被の裾を引っ張りながら苦笑いした。


「俺たち、サッカー選手ですよね? なんか祭りの人みたいですよ」


「よかたい。似合っとるばい」


 古賀は笑って答えた。


 


 まずは、経験豊富な人力車の担当者から説明を受ける。


 人力車の引き方、乗客への声かけ、曲がるときの注意点。選手たちは真剣に耳を傾けた。


「急に走り出したり、止まったりしないでくださいね。乗っている方が安心できるように、周囲をよく見てください」


 選手たちは担当者の指導のもと、交代で人力車を引くことになった。


 相川はその様子を見ながら考えていた。


「人力車を引く動作は、脚力だけでなく体幹や姿勢の維持にも関係します。ペース配分も必要ですね」


「走力アップにもなるんですね!」


 白石が反応する。


 古賀は選手たちに声をかけた。


「ただ速く走ればよかってもんじゃなかよ。乗っとる人が安心できるように走らんとね」


「でも、走力アップが目的ですよね?」


「そうたい。でも、乗っとる人が怖かったら観光にならんやろ?」


 白石は少し考えた。


 


 最初の乗客を乗せたのは、白石だった。


「よし、行きますよ!」


 勢いよく引き始めた白石に、担当者が声をかける。


「もう少しゆっくり。最初は滑らかに動かしましょう」


「あっ、すみません!」


 白石は速度を落とした。


 その後ろでは、城戸が観光案内を担当していた。


「この辺りは季節によって景色が変わるんですよ。春もきれいですし、秋もおすすめです!」


 乗客から質問が出ると、城戸は嬉しそうに答える。


「それなら、こちらの道もおすすめです。地元の人しか知らない景色が見られるんですよ」


 普段の練習では控えめな城戸が、生き生きと話している。


 白石は人力車を引きながら驚いた。


「城戸って、あんなにしゃべるんだな」


 神崎も笑う。


「サッカー以外にも、得意なことがあったんだな」


 城戸は少し照れながらも、次々と観光客に田主丸の魅力を伝えていった。


 


 何組かの乗客を案内した頃、選手たちも人力車に慣れてきた。


 しかし、古賀は選手たちにもう一つ声をかけた。


「乗っとる人の顔も見てみらんね」


「顔ですか?」


「楽しそうにしとるか、怖がっとらんか。相手のことを考えて動くんたい」


 選手たちは乗客の様子を確認しながら、無理のない速度で進むようになった。


 疲れた選手がいれば、仲間が交代する。案内役も周囲の安全を確認する。


 相川は、その様子を見ていた。


「走力だけじゃない。状況判断、周囲を見る力、仲間との連携も必要になる。これはサッカーにも通じますね」


「そうたい。みんなで助け合ったらよかたい」


 古賀は当たり前のように答えた。


 


 イベントは大盛況だった。


 法被姿の選手たちと人力車の写真は、小柳によって公式SNSに投稿された。


「監督! すごい反響です!」


「そうね?」


「福岡ユナイテッドを知らなかった人からも、試合を見に行きたいってコメントが来ています!」


 小柳は嬉しそうにスマートフォンを見せた。


 観光客の中にも、選手たちに声をかける人がいた。


「今度、試合を見に行くよ!」


「ありがとうございます!」


 城戸も笑顔で頭を下げた。


「また案内したいです。まだ紹介したい場所がたくさんあります!」


 


 イベント終了後。


 選手たちは心地よい疲労を感じながら、空き家の前に集まっていた。


 白石が相川に尋ねる。


「結局、走力は上がったんですか?」


「一度の活動で走力が上がったとは言えない。ただ、脚力や体幹への刺激にはなった。それ以上に、周囲を見る力やペース配分を意識できたのは大きいと思う」


「なるほど……」


 古賀は選手たちを見回した。


「みんな楽しそうやったし、田主丸のことも知ってもらえた。よかったばい」


 城戸が手を挙げる。


「監督、次は別の観光ルートも案内したいです!」


「おお、楽しみやね」


 白石が慌てて口を挟んだ。


「えっ、また人力車引くんですか!?」


 みんなが笑った。


 古賀は法被の背中にあるチーム名を見つめた。


「サッカーも、地域も、みんなで盛り上げていかんとね」


 その言葉に、選手たちは笑顔でうなずいた。


 

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