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田舎の農家のおっさん、Jリーグの名将になる  作者: やしゅまる


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17/22

第17話「田主丸から、声援を」

静岡ブルーウェーブ戦から数日後。


 福岡ユナイテッドの練習場。


 練習を終えた選手たちが引き上げていく中、古賀はグラウンドの端でボールを片付けていた。


 そこへ相川がやってくる。


「監督、お疲れさまでした」


「お疲れさん」


 古賀はボールを拾いながら、ふと思い出したように言った。


「なぁ、相川さん」


「はい?」


「次のホームゲーム、田主丸から応援に来る人おると?」


「もちろんいますよ」


「でもさ」


 古賀は少し考える。


「田主丸からここまで来るの、大変な人もおるやろ」


 相川は頷いた。


「そうですね。特に高齢の方は、試合を見たくても移動が難しい方もいます」


「だったらさ」


 古賀が顔を上げた。


「公民館で見られるようにしたらよか」


「……公民館?」


「うん」


 古賀は何でもないことのように続ける。


「大きな画面を置いて、みんなで応援するったい」


 相川が目を丸くする。


「パブリックビューイングですか?」


「それたい」


「でも、先生はスタジアムですよ?」


「そりゃそうたい」


 古賀は笑う。


「俺は仕事やけん、スタジアムにおらんと」


「ですよね」


「でも、応援したい人までスタジアムに来る必要はないやろ」


 相川はしばらく黙った。


 そして、ゆっくり笑った。


「……いいですね」


「やろ?」


「クラブとして、やってみましょう」


     ◆


 数日後。


 田主丸の公民館。


 地域のスタッフや福岡ユナイテッドのスタッフが大きなスクリーンを設置していた。


「こんな大きい画面、初めて見たばい」


「ちゃんと映ると?」


「大丈夫ですよ」


 椅子が並べられていく。


 高齢のサポーター。


 農家のおじちゃん、おばちゃん。


 そして――田主丸FCの子どもたち。


「ここ、俺たち座っていい?」


「もちろん」


「やった!」


 古賀の息子の陽太も友達と一緒にやって来た。


「陽太!」


「ん?」


「今日はお前の父ちゃん見られるぞ!」


「別にいつも見てるし」


 そう言いながらも、陽太の顔は嬉しそうだった。


     ◆


 試合開始。


 スクリーンに福岡ユナイテッドの選手たちが映し出される。


「神崎選手きた!」


「白石!」


「カルロス!」


 田主丸FCの子どもたちは大騒ぎ。


 そして選手紹介が終わる。


 最後にベンチが映った。


 古賀。


 一瞬、子どもたちが静かになる。


「……あ」


「監督おったばい!」


「古賀監督だ!」


「監督ーーー!」


 公民館が一気に沸いた。


 陽太の友達が肩を叩く。


「陽太! お前の父ちゃん映っとるぞ!」


「知っとるって!」


 陽太は照れながらスクリーンを見る。


 そこには、いつもの父親がいた。


 腕を組み、ピッチを見つめている。


「父ちゃん、試合なのに家にいる時の顔しとる」


 陽太が笑う。


     ◆


 一方、スタジアム。


 古賀は当然、公民館のことなど知らない。


「神崎、もう一歩前!」


「白石、今ばい!」


「近い人が助けてあげて!」


 いつものように選手たちへ声をかける。


 その姿がスクリーンに映る。


「監督また立った!」


「走れって言ってる!」


「先生、めっちゃ真剣!」


 田主丸FCの子どもたちは大興奮。


 その中で、一人の少年が呟いた。


「俺も監督みたいになりたい」


 別の子が笑う。


「サッカー選手じゃなくて監督?」


「うん!」


 その言葉を聞いた周りの大人たちが笑った。


     ◆


 前半。


 福岡が先制する。


「入ったーーー!」


 公民館中から歓声が上がった。


 おじいちゃんも立ち上がる。


「よっしゃ!」


 隣のおばあちゃんも拍手する。


「福岡、強かねぇ」


 田主丸FCの子どもたちは飛び跳ねている。


「監督すげー!」


「福岡すげー!」


「俺もプロになる!」


 陽太も笑っていた。


 ふと隣を見る。


 昔から田主丸FCを応援してくれていた地域のおじいちゃんが、嬉しそうにスクリーンを見ている。


「あのちっちゃかった神崎君がこんなに逞しくなって。こうやってまた神崎君を見られるなら、ええな。」


「うん」


 陽太が答える。


「父ちゃんが言い出したんだって」


「古賀監督が?」


「そう」


 おじいちゃんは少し笑った。


「……あいつらしいな」


     ◆


 後半。


 試合は接戦になる。


 福岡が苦しい時間帯。


 スクリーンには古賀が映る。


「近い人が助けて!」


 神崎が走る。


 岩永がカバーする。


 白石が戻る。


 カルロスも守備に入る。


 田主丸FCの子どもたちが叫ぶ。


「先生がいつも言ってるやつだ!」


「みんなで助けてる!」


 そして福岡がボールを奪う。


 カウンター。


 白石が走る。


 スタジアムから歓声。


 公民館からも歓声。


 そして――


 ゴール。


「うおおおおお!」


 公民館が揺れるほどの歓声が上がった。


     ◆


 試合終了。


 福岡ユナイテッドの勝利。


 公民館でも大歓声。


「勝ったー!」


「先生勝った!」


 すると、一人の田主丸FCの子どもが立ち上がった。


「せっかくみんな集まったんだから、あれやろう!」


「何?」


「そろばん踊り!」


「いいね!」


 誰かが音楽を流す。


 最初は子どもたちだけだった。


 しかし、


「わしもやるばい」


 おじいちゃんが立ち上がる。


「私も!」


 おばあちゃんも続く。


 農家のおじちゃんも参加する。


 気がつけば、公民館いっぱいの人が輪になっていた。


 子どもも。


 大人も。


 お年寄りも。


 みんな笑っている。


 久留米名物のそろばん踊りが、公民館いっぱいに広がった。


     ◆


 その頃。


 試合を終えた古賀のスマホに、写真が送られてきた。


「……ん?」


 画面を見る。


 大きなスクリーン。


 そこに映っている自分。


 その前で大騒ぎする田主丸FCの子どもたち。


 そして、その後ろでは――


 みんながそろばん踊りを踊っている。


 古賀は思わず笑った。


「……楽しそうで何よりばい」


 横から相川が覗き込む。


「監督、人気者ですね」


「そう?」


「はい」


 古賀はもう一度写真を見る。


「……田主丸、元気そうでよかった」


 相川は静かに頷いた。


「先生が作ってきた場所ですからね」


「俺じゃなかたい」


「え?」


「みんなが作った場所たい」


 古賀はスマホをポケットにしまった。


     ◆


 公民館では、まだ踊りが続いている。


 陽太が友達と並んで踊っている。


「お前の父ちゃん、すげぇな!」


 陽太は少し照れながら答える。


「……まぁな」


 その顔は、いつもの「普通のおじさん」と思っていた父親を見る目とは、ほんの少しだけ違っていた。


 福岡ユナイテッドは、スタジアムだけにあるクラブではない。


 田主丸の公民館にも。


 地域の人たちの暮らしの中にも。


 そして、古賀が25年間育ててきた子どもたちの心の中にも。


 少しずつ、そのクラブの輪が広がっていた。


 ――田主丸から、声援を。

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