↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎の農家のおっさん、Jリーグの名将になる  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/16

第13話「先生、佐伯さんが全然ボール触れません!」

後半開始。


 選手たちがピッチへ戻っていく。


 前半は、福岡ユナイテッドも北九州ヴァルカンFCも譲らなかった。


 スコアは0―0。


 だが、古賀誠一の頭の中には、すでに答えがあった。


「先生、どうします?」


 神崎蓮が聞く。


 古賀は少し考えた。


「ボールば、いっぱい動かそう」


「……それだけですか?」


「うん。それだけたい」


 神崎は笑った。


「分かりました」


 そのやり取りを聞いていた相川真司は、思わず苦笑する。


 しかし、古賀の意図は分かっていた。


 前半、福岡は佐伯との競り合いに対応していた。


 佐伯が競る。


 水野が拾う。


 そこからヴァルカンが前進する。


 ならば――。


 そもそも、その形を作らせなければいい。


     ⸻


 後半開始。


 福岡は、いきなり大きく広がった。


 神崎が中央。


 城戸隼人が右の内側。


 白石健太が右サイドいっぱいに開く。


 カルロス・リマは左へ。


 岩永は後方でボールを受ける。


「広がって!」


 古賀が叫ぶ。


 岩永から神崎。


 神崎から城戸。


 城戸から白石。


 白石から神崎。


 そして一気に逆サイドのカルロスへ。


 ヴァルカンの選手たちが横へ走る。


「寄せろ!」


 高瀬恒一監督が叫ぶ。


 しかし、ボールはもう反対側。


 水野恒一が中央から走ってくる。


 神崎がワンタッチでかわす。


 城戸へ。


 城戸は前を向かず、また神崎へ戻した。


 神崎が左へ。


 カルロスが受ける。


「センセイ、これでいい?」


 古賀は大きく頷いた。


「よか!」


 ボールは止まらない。


 人が動く。


 そして、ヴァルカンの選手たちが動かされる。


     ⸻


 水野の表情が少しずつ険しくなっていった。


 前半までなら、ボールがこぼれれば水野が拾えた。


 しかし、今は違う。


 福岡はボールを失っても、すぐに近くの選手が寄る。


 そして奪った瞬間には、すでに次のパスコースが用意されている。


「くそっ……!」


 水野が神崎へ寄せる。


 神崎はワンタッチで城戸へ。


 城戸が白石へ。


 白石がカルロスへ。


 カルロスが中央へ戻す。


 水野は何度も左右に振られる。


 相川がベンチで呟いた。


「……水野を走らせています」


 古賀はピッチを見ながら、


「困っとるねぇ」


 と笑った。


「監督、狙ってますよね?」


「うん?」


「水野を動かしているんですよね?」


「いやぁ……みんなが空いとるところにおるだけたい」


 相川は頭を抱えた。


「またそれですか……」


     ⸻


 そして、決定的な場面が来た。


 ヴァルカンがようやくボールを奪う。


「前へ!」


 高瀬監督が叫ぶ。


 CBが顔を上げる。


 前方には佐伯がいる。


「佐伯!」


 ロングボールを蹴ろうとする。


 しかし――。


 佐伯の周囲には岩永だけではなかった。


 神崎が戻っている。


 城戸も中央へ絞っている。


 白石も戻っている。


 佐伯が叫ぶ。


「ここだ!」


 しかしCBは蹴れない。


 佐伯へ出しても、その後ろに福岡の選手がいる。


 落としたボールを拾う場所がない。


 その一瞬の迷いを、カルロスが見逃さなかった。


「センセイの言った通り!」


 カルロスが寄せる。


 ボールを奪った。


「よか!」


 古賀が立ち上がる。


 福岡が再び攻撃へ。


     ⸻


 後半15分。


 相川が時計を見る。


「……佐伯が、まだボールにほとんど触っていません」


 スタッフが確認する。


「本当ですね」


「前半とは明らかに違う」


 相川は古賀を見る。


「監督」


「ん?」


「これ、佐伯を抑えているんじゃないですよね?」


「うん」


「ボールを渡していない」


「そうたい」


 相川は思わず笑った。


「……それを、そんなに簡単に」


 ピッチでは佐伯が両手を広げていた。


「ここだ!」


 しかしボールは右へ。


 佐伯が走る。


 今度は左へ。


 また走る。


 そして中央へ戻る。


 それでもボールは来ない。


「早く入れてくれ!」


 佐伯が叫ぶ。


 だが、ヴァルカンは前へ蹴ることができない。


 福岡がボールを持ち続ける。


 佐伯の最大の武器である空中戦。


 その武器を使う機会そのものを、古賀は消していた。


     ⸻


 後半25分。


 福岡が完全に試合の主導権を握った。


 神崎が中央。


 城戸が右。


 白石が外。


 カルロスが左。


 岩永が後ろ。


 ボールの周りに、常に複数の選択肢がある。


「広がって!」


 古賀が叫ぶ。


 城戸が受ける。


 水野が寄せる。


 城戸は神崎へ戻す。


 神崎がカルロスへ。


 カルロスがドリブル。


 白石が裏へ走る。


 スルーパス。


 白石が抜け出した。


「打て!」


 シュート!


 GKが弾く。


 惜しい!


 しかし、ヴァルカンはもう後ろへ押し込まれていた。


     ⸻


 その直後、水野がボールを奪った。


「取った!」


 一気に前へ走る。


 神崎が追う。


 水野が身体を入れる。


「来い!」


 神崎も食らいつく。


 二人が並走する。


 水野が笑った。


「お前ら、強いな!」


 神崎も笑う。


「そっちこそ!」


 水野が前へ出ようとした瞬間――。


 城戸が戻ってきた。


「困っとる人がおったら、助ける!」


 城戸が身体を入れる。


 ボールがこぼれた。


 神崎が拾う。


「ナイス、城戸!」


 古賀がベンチから叫んだ。


「それたい!」


     ⸻


 後半30分。


 福岡の攻撃。


 神崎が中央で受ける。


 城戸が右。


 白石がサイド。


 カルロスが左。


 ヴァルカンが左右に揺れる。


 神崎が縦へ。


 城戸が受けた。


 一人かわす。


 カルロスへ。


 カルロスがワンタッチ。


 白石が裏へ抜ける。


「行け!」


 スルーパス。


 白石が抜け出した。


 GKと一対一。


 右足を振り抜く。


 ゴール!


 福岡ユナイテッド、先制!


 1―0。


 白石はそのままベンチへ走った。


「監督!」


 古賀を見る。


「仲間を助けるために走りました!」


 古賀は満面の笑みだった。


「そうたい!」


     ⸻


 しかし、ヴァルカンは諦めない。


「まだ終わってない!」


 高瀬監督が叫ぶ。


 ヴァルカンが前へ出る。


 そして、ようやく佐伯へボールが入った。


「来い!」


 佐伯が身体をぶつける。


 岩永が競る。


 佐伯が頭で落とす。


 だが――。


 その落下地点には神崎がいた。


「またか!」


 佐伯が叫ぶ。


 神崎がボールを奪う。


 佐伯は悔しそうに振り返った。


 古賀は静かに頷いた。


 止めたんじゃない。


 触らせない。


 それが今日の答えだった。


     ⸻


 後半40分。


 福岡が右サイドでFKを獲得。


 相川が古賀を見る。


「監督。セットプレー、行きますか?」


「うん」


 神崎がボールを置く。


 岩永、カルロス、城戸がゴール前へ。


 白石はファーへ。


 古賀は選手たちを見る。


「みんな、練習した通りね」


「はい!」


 神崎が助走に入る。


 キック。


 低いボールがニアへ飛ぶ。


 岩永が飛び込む――。


 と思わせて、触らない。


 ヴァルカンの守備が一瞬乱れた。


 その後ろから城戸が走り込む。


「ここだ!」


 右足を振り抜く。


 ゴール!


 2―0。


 城戸が拳を握った。


「入った……!」


 神崎が抱きつく。


「ナイス!」


 古賀も笑っている。


「練習したけんねぇ」


 相川が頭を抱えた。


「監督、そこはもっと喜びましょうよ!」


「いやぁ、練習した形ができてよかったねぇ」


     ⸻


 そのまま試合終了。


 福岡ユナイテッド、2―0。


 ダービー初勝利。


 そして――。


 佐伯は、ほとんど何もさせてもらえなかった。


 試合後、佐伯が古賀のもとへ歩いてきた。


「監督……」


「ん?」


「次は負けません」


 古賀は笑った。


「いいばい」


 少しだけ間を置く。


「でも、次はお互いJ1に上がって戦うばい」


 佐伯はニヤリと笑った。


「望むところです」


 少し離れたところでは、神崎と水野が笑いながら話している。


「お前ら、本当に強いな」


「そっちこそ。めちゃくちゃ走るな」


 二人は固い握手を交わした。


 高瀬監督も古賀の前に立つ。


「古賀さん。完敗です」


 古賀は慌てて手を振った。


「いやいや。みんなでサッカーしただけですよ」


 相川はその言葉を聞き、静かに笑った。


 佐伯を止めたわけではない。


 水野を潰したわけでもない。


 ただ――。


 佐伯に、ボールを渡さなかった。


 そして最後は、練習してきたセットプレー。


 古賀誠一にとっては、どこまでも「普通」のことだった。


 だがその普通が、また一つ、J2の強豪を攻略した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。