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田舎の農家のおっさん、Jリーグの名将になる  作者: やしゅまる


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11/16

第11話「監督、生ゴミで堆肥作るんですか?」

竹林整備から数日


福岡ユナイテッドの練習場では、いつものように選手たちが汗を流していた。


 その一方で、古賀誠一は朝から隣町のうきはの農家を訪れていた。


「これ、全部捨てると?」


 古賀が指差したのは、収穫を終えた野菜の葉や、傷がついて出荷できなかった野菜だった。


「そうですね。使い道がなかけん」


「もったいなかねぇ」


 古賀は野菜くずを眺めた。


 その時だった。


「古賀さん、学校のほうでも給食の調理くずが結構出るんですよ」


 地域の関係者から聞いた言葉に、古賀の目が輝いた。


「給食も?」


「はい。もちろん、何でもそのままというわけにはいきませんけど」


「なるほどねぇ……」


 古賀は少し考えた。


 頭に浮かんだのは、この前切り出した竹だった。


「竹もある」


 次に近所のライスセンターにある大量の籾殻を見る。


「籾殻もある」


 そして米ぬか。


「米ぬかもある」


 古賀は笑った。


「……これ、土に戻せるばい」


     ⸻


 数日後。


 福岡ユナイテッドのクラブハウスに、大きな資料を抱えた相川がやってきた。


「監督、本当にやるんですか?」


「やるばい」


「地域の植物性残さや、適切に分別された生ごみを堆肥化するプロジェクトですか」


「そうたい」


 古賀がホワイトボードに書いた。


 福岡ユナイテッド土づくりプロジェクト


「農家の野菜くず。施設や学校から出る調理くず。竹パウダー。籾殻。米ぬか」


 古賀は一つずつ指差す。


「捨てるんじゃなくて、みんなで土に戻す」


 相川が補足する。


「ただし、何でも入れていいわけではありません。肉や魚、油など、管理が難しいものは対象から外します。水分や原料のバランス、発酵温度なども管理する必要があります」


「なら、ちゃんと分ければよか」


「……」


 相川が黙る。


「どうした?」


「監督、こういう時だけ妙に科学的ですね」


「農家やけんね」


     ⸻


 翌週。


 地域の農家、クラブスタッフ、そして福岡ユナイテッドの選手たちが集まった。


 竹パウダー。


 籾殻。


 米ぬか。


 選別された野菜くず。


 それらを順番に混ぜていく。


 白石がスコップを握った。


「これ、結構重いですよ!」


「そうやろ?」


「監督、これもトレーニングですか?」


 古賀は即答した。


「もちろん」


「やっぱり!」


 カルロスが大笑いする。


「センセイ、ナンデモ、トレーニング!」


「鍛えながら地域も助かる。よかろうもん」


 岩永がスコップを持ち直した。


「確かに、普通にきついな」


 選手たちは笑いながら堆肥を混ぜていった。


     ⸻


 数日後。


「今日は切り返しするばい」


 古賀の声に、選手たちが集まる。


 発酵が進んだ堆肥をスコップですくい、反対側へ移していく。


 白石が腕だけで持ち上げようとした。


「重っ!」


「白石」


「はい?」


「腕だけでやったらきつかよ」


「じゃあどうするんです?」


 古賀は実演した。


 足を踏み込む。


 腰を回す。


 身体を安定させる。


 最後に腕で押し出す。


「足から動かすとたい」


 相川が動きを見ていた。


「……これ」


「ん?」


「キックと同じですね」


 古賀が笑う。


「そうたい」


「足だけで蹴ったら、強く蹴れんもんね」


 相川は頷いた。


「下半身から体幹、上半身へ力を伝える」


「難しく言わんでよか」


 古賀はスコップを持ち上げる。


「身体を一緒に動かす。それだけたい」


     ⸻


 午後。


 練習場に大量のボールが並べられた。


「今日は何するんですか?」


 白石が聞く。


 古賀は笑った。


「キックで遊ぼう」


「遊ぶ?」


「そうたい。今日はいっぱい蹴り方を覚えるばい」


 最初はインステップ。


 次はインサイド。


 そしてアウトサイド。


「どれが一番いい?」


 城戸が答える。


「インステップじゃないですか?」


「違うとたい」


 古賀はボールを指差した。


「その時に使いやすい蹴り方が、一番よか」


 選手たちは次々に蹴り方を変えた。


     ⸻


「次!」


 古賀が小さな四角形を作る。


「鬼ごっこキック!」


 右足だけ。


 左足だけ。


 アウトサイド。


 浮き球。


 指定された場所へボールを届ける。


 失敗したら笑い、成功したら大喜びする。


 カルロスが突然、アウトサイドで鋭いパスを通した。


「うまっ!」


 白石が叫ぶ。


 カルロスは嬉しそうに笑った。


「センセイ! オモシロイ!」


「サッカーは遊びながら覚えるのが一番たい」


     ⸻


 次は、竹で作った低い障害物。


「山を越えろ!」


 城戸がボールを蹴る。


 ふわっ。


 高く上がりすぎた。


「飛びすぎた!」


 古賀が笑う。


「今度はボールの下を、ちょっとだけ触る」


「ちょっとだけ……」


 城戸がもう一度蹴る。


 ふわり。


 ボールが障害物を越え、そのままゴールへ入った。


「入った!」


「よかねぇ!」


 城戸は嬉しそうに笑った。


     ⸻


 さらに、竹で作った人型のボードがゴール前に並べられた。


「今度は、直接狙えんようにする」


 インサイドで曲げる。


 アウトサイドで逆方向へ曲げる。


 城戸がボールを蹴る。


 壁の外側を回り込んでゴールへ。


「これ、試合で使えますね」


 神崎が言った。


 相川も頷く。


「相手の壁や守備位置によって、キックの選択肢を変えられる」


 古賀は頷いた。


「そうたい」


「蹴る場所が一個しかなかったら困るけんね」


     ⸻


 その言葉を聞いた相川が、ふと気づいた。


「……監督」


「ん?」


「これ、セットプレーに使えますよね」


 古賀が笑った。


「そうたい」


 白石が振り返る。


「まさか……」


「フリーキックも練習するばい」


 さらにコーナーキック。


 速いボール。


 高いボール。


 ニア。


 ファー。


 グラウンダー。


 一度戻してからクロス。


 選手たちは何度も蹴り比べた。


「相手が困るように、こっちもいっぱい用意しとこう」


 相川が笑う。


「監督、完全にセットプレーを仕込む気ですね」


「せっかく覚えたけんね」


 白石はボールを抱えた。


「ロングスローもありますし、これ全部組み合わせたら結構怖くないですか?」


 神崎が頷く。


「相手からしたら嫌だろうな」


 古賀は満足そうに笑った。


     ⸻


 数週間後。


 地域の畑に、完成した堆肥が運ばれていた。


 子どもたちやサポーターも集まっている。


 古賀が土を手に取る。


「生ごみだったもんが、土になった」


 神崎が隣で頷いた。


「そして、この土から野菜ができる」


「そうたい」


 小柳が畑を見ながら言った。


「この野菜、スタジアムで販売できません?」


「よかね」


 神崎が笑う。


「子ども食堂にも使えますよ」


 古賀の顔が明るくなる。


「なら、いっぱい作らんといかんね」


 捨てられていたものが土になり。


 土から野菜が育ち。


 その野菜が人の食卓へ届く。


 また一つ、古賀の「みんなで助ける」が地域に根を張り始めていた。


     ⸻


 その日の最後の練習。


 白石がフリーキックの位置に立った。


「いきます!」


 助走。


 右足を振り抜く。


 ボールは壁の上を越え、大きく曲がってゴールへ。


「入った!」


 選手たちから歓声が上がる。


 古賀も笑った。


「よかねぇ」


 相川が聞く。


「監督、次はどんなキックを仕込みます?」


 古賀は腕を組んで考えた。


「うーん……」


 少し間を置いて。


「小柳さんから、お尻ば蹴ってもらおうか?」


「「「できません!!」」」


 練習場に笑い声が響いた。


 古賀は頭をかいて笑う。


「冗談たい」


 堆肥を混ぜる。


 竹を運ぶ。


 ボールを蹴る。


 野菜を育てる。


 古賀にとって、それは全部つながっていた。


 ――身体も、土も、地域も。


 一人で育てるんじゃない。


 みんなで育てる。


 それが、古賀誠一のサッカーだった。

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