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田舎の農家のおっさん、Jリーグの名将になる  作者: やしゅまる


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10/16

第10話「監督、竹で筋トレするんですか?」

福岡ユナイテッドが3―0で勝利した翌週。


 古賀誠一は、久しぶりに田主丸FCの子どもたちと田主丸の山へ来ていた。


 山道の脇には、細い竹が密集している。


「監督、竹ってこんなに増えると?」


 10歳の田主丸FCの子が、竹林を見上げた。


「増えるよ。放っといたら、どんどん広がるけんね」


 古賀は一本の竹に手を当てた。


「でも、竹が悪いわけじゃなかとよ」


「じゃあ、どうすると?」


「使えばよか」


「使う?」


「そうたい」


 その時、後ろから声がした。


「先生!」


 振り返ると、神崎、白石、城戸、岩永、カルロスが歩いてくる。


「何してるんです?」


「竹切ろうと思って」


「……竹?」


 神崎が竹林を見る。


 古賀は笑った。


「いっぱいあるけん、いっぱい使おう」


     ⸻


 古賀は選手たちに、地域の竹林が増え、農地や森林の管理にも影響することを説明した。


 相川も資料を持ってきていた。


「竹は成長が速いので、放置すると周囲へ広がってしまいます。ただ、適切に伐採して利用できれば、資源として活用できます」


「なら、使えばよか」


「具体的には?」


 古賀は竹を見た。


「まず、切る」


「……はい」


「それから考える」


 相川は苦笑した。


「順番が逆じゃないですか?」


「竹がいっぱいあるけん、考えることもいっぱいあるとたい」


     ⸻


 竹林整備が始まった。


 切り出した竹を運ぶ。


 一本、二本。


 白石が竹を担いだ。


「……これ、結構重いですね」


 岩永も担ぐ。


「普通にトレーニングになるな」


 カルロスが竹を持ち上げる。


「センセイ。コレ、筋トレ?」


「そうたい」


「ヤッパリ!」


 選手たちが笑った。


 古賀は竹を肩に担ぐ。


「農家は重たいもん運ぶけんね」


 神崎も竹を担いだ。


「先生、これ本当にいいトレーニングになりますよ」


「そうやろ?」


 古賀は何気なく言った。


「鍛えながら地域を助けるって、最高ばい」


     ⸻


 数日後。


 練習場に、何本もの竹が並べられていた。


 相川が眉をひそめる。


「監督……これは?」


「筋トレ」


「竹で?」


「竹で」


 選手たちは竹を担いでスクワットを始めた。


 二人一組になって竹を支えながら歩く。


 頭上に持ち上げる。


 身体をひねる。


 さらに、竹を使ってバランスを取りながら片足で立つ。


「きつい!」


 白石が声を上げる。


「でも、普通の筋トレと違いますね」


 古賀が頷く。


「力いっぱいやらんでよかよ」


「え?」


「身体を一緒に動かすとたい」


 古賀は竹を持ち、ゆっくり身体を動かした。


「足だけじゃなくて、腰も、背中も、腕も」


 身体全体を連動させる。


「全部一緒たい」


 相川がその動きを見ていた。


「……全身の連動性を鍛えてる」


「連動?」


「いえ。監督はそのままでいいです」


     ⸻


 練習後。


 白石がボールを持って古賀のところへ来た。


「監督」


「ん?」


「俺、ロングスロー覚えたいです」


「よかね」


「でも、腕だけじゃ全然飛ばないんですよ」


 相川が説明する。


「ロングスローは腕の力だけではありません。脚、股関節、体幹、背中、肩、肘、手首まで、身体全体を連動させることが重要です」


 古賀が頷く。


「じゃあ、竹でやったらよか」


「また竹ですか?」


 白石が苦笑する。


「ただし、竹を投げたり、振り回したりはせんよ」


 古賀は竹を地面に置いた。


「安全に身体を鍛えるとたい」


 竹を担いで身体をひねる。


 踏み込む。


 身体を伸ばす。


 ゆっくり戻す。


「これで、身体全部を使う感覚を覚える」


 白石が真似をする。


「こうですか?」


「そうたい」


 何度か繰り返したあと、白石がボールを持った。


 助走。


 身体を反らす。


 踏み込む。


 腰を前へ。


 胸を起こす。


 最後に腕を振る。


「それ!」


 ボールが以前より遠くへ飛んだ。


「……飛んだ!」


 神崎が驚く。


「マジか!」


 白石も目を丸くした。


「監督、今の!」


 古賀は笑った。


「身体がうまくつながったね」


     ⸻


 その頃、クラブハウスでは小柳が竹を眺めていた。


「これ……グッズにできません?」


 試作品を作る。


 竹を加工して作った、観戦用のクラップスティック。


 小柳が二本を叩く。


 カン!


 カン!


「いい音!」


 神崎が振り返る。


「そろばんに続いて竹ですか……」


「福岡ユナイテッド名物にします!」


 スタンドで一斉に鳴らせば、かなりの迫力になりそうだった。


 相川が呟く。


「監督……そろばんと竹って、どんどん農村クラブになってません?」


「よかろうもん」


 古賀は笑った。


     ⸻


 さらに週末。


 クラブは地域の子どもたちを招いて、竹工作教室を開いた。


 竹ぽっくり。


 竹けん玉。


 竹笛。


 竹を使ったボール転がし。


 子どもたちは夢中になった。


「できた!」


 男の子が自分で作った竹のおもちゃを掲げる。


 古賀が笑う。


「自分で作ったけん、楽しかろ?」


「うん!」


「いっぱい遊んで、いっぱい寝るとばい」


「はーい!」


 選手たちも子どもたちを手伝った。


 カルロスは竹笛を吹こうとして、何度も失敗している。


「センセイ……オト、デナイ」


「息を優しく吹いてみ」


「フーッ」


 ピーッ。


「オオ!」


 子どもたちが拍手する。


 カルロスが満面の笑みを浮かべた。


     ⸻


 そして、竹の活用は農業にも広がった。


 古賀は切り出した竹を細かく粉砕し、米ぬかなどと組み合わせて発酵・分解させ、土づくりに利用する方法を試していた。


「捨てるしかなかった竹が、土に戻る」


 古賀は畑の土を手に取る。


「いい土になってくれたら、また作物が育つ」


 相川が聞いた。


「監督、サッカーと農業って、そんなにつながるんですか?」


 古賀は少し考えた。


「わからん!でもどっちも一人じゃできんけんね」


「……また、それですか」


「そうたい」


 神崎が笑った。


「先生らしいですね」


     ⸻


 竹林整備。


 竹の加工。


 農家の土づくり。


 子どもたちの工作。


 スタジアムの竹クラップ。


 気がつけば、多くの人が竹を通じて関わるようになっていた。


 ある日の練習。


 白石がスローインの位置に立つ。


 ボールを頭上に構える。


 少し下がる。


 助走。


 身体を大きく使う。


「それ!」


 ボールが高く、そして遠くへ飛んだ。


 神崎が走り込んで受ける。


「うわ!」


 選手たちから歓声が上がる。


 白石が古賀のもとへ走ってきた。


「監督!」


「ん?」


「飛びました!」


「飛んだねぇ」


「竹のおかげですか?」


 古賀は首を傾げる。


「竹だけじゃないたい」


「じゃあ何です?」


 古賀は選手たちを見た。


「みんなで仲良く竹切ったけん」


 白石が苦笑する。


「……それ、関係あります?」


「気持ちの問題たい」


 相川が呆れたように笑う。


「最後は精神論ですか……」


 古賀は竹を指差した。


「精神は大事ばい!それと単純に」


「?」


「重かったけん、身体が強くなったんじゃない?」


「そっちですか!」


 選手たちが笑った。


     ⸻


 その日の夜。


 小柳がクラブ公式SNSに一本の動画を投稿した。


『福岡ユナイテッド、竹で地域を救う!?』


 動画には、竹林を整備する選手たち。


 竹を使ってトレーニングする選手たち。


 子どもたちの竹工作。


 スタンドで竹クラップを鳴らすサポーター。


 そして最後に――。


 白石のロングスロー。


 ボールが大きく飛んでいく。


 投稿直後から、コメントが次々に入った。


『なんのクラブなんだよ(笑)』


『でも普通に面白い』


『竹害対策になるならいいな』


『次の試合、竹クラップ持っていく!』


 小柳は笑った。


「またバズってる……」


 古賀はスマートフォンを覗き込み、嬉しそうに笑った。


「竹、いっぱいあるけんねぇ」


 隣にいた神崎が笑う。


「先生……次は何を育てるんですか?」


 古賀は少しだけ考えた。


 そして、いつものように笑った。


「うーん……」


 一拍置いて。


「福岡かな」


 神崎も笑った。


 竹林から始まった小さな活動は、少しずつ地域を巻き込み始めていた。


 鍛える。


 作る。


 育てる。


 助け合う。


 古賀にとっては、全部同じことだった。


 ――困っとるもんがおったら、みんなで助ける。

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