第10話「監督、竹で筋トレするんですか?」
福岡ユナイテッドが3―0で勝利した翌週。
古賀誠一は、久しぶりに田主丸FCの子どもたちと田主丸の山へ来ていた。
山道の脇には、細い竹が密集している。
「監督、竹ってこんなに増えると?」
10歳の田主丸FCの子が、竹林を見上げた。
「増えるよ。放っといたら、どんどん広がるけんね」
古賀は一本の竹に手を当てた。
「でも、竹が悪いわけじゃなかとよ」
「じゃあ、どうすると?」
「使えばよか」
「使う?」
「そうたい」
その時、後ろから声がした。
「先生!」
振り返ると、神崎、白石、城戸、岩永、カルロスが歩いてくる。
「何してるんです?」
「竹切ろうと思って」
「……竹?」
神崎が竹林を見る。
古賀は笑った。
「いっぱいあるけん、いっぱい使おう」
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古賀は選手たちに、地域の竹林が増え、農地や森林の管理にも影響することを説明した。
相川も資料を持ってきていた。
「竹は成長が速いので、放置すると周囲へ広がってしまいます。ただ、適切に伐採して利用できれば、資源として活用できます」
「なら、使えばよか」
「具体的には?」
古賀は竹を見た。
「まず、切る」
「……はい」
「それから考える」
相川は苦笑した。
「順番が逆じゃないですか?」
「竹がいっぱいあるけん、考えることもいっぱいあるとたい」
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竹林整備が始まった。
切り出した竹を運ぶ。
一本、二本。
白石が竹を担いだ。
「……これ、結構重いですね」
岩永も担ぐ。
「普通にトレーニングになるな」
カルロスが竹を持ち上げる。
「センセイ。コレ、筋トレ?」
「そうたい」
「ヤッパリ!」
選手たちが笑った。
古賀は竹を肩に担ぐ。
「農家は重たいもん運ぶけんね」
神崎も竹を担いだ。
「先生、これ本当にいいトレーニングになりますよ」
「そうやろ?」
古賀は何気なく言った。
「鍛えながら地域を助けるって、最高ばい」
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数日後。
練習場に、何本もの竹が並べられていた。
相川が眉をひそめる。
「監督……これは?」
「筋トレ」
「竹で?」
「竹で」
選手たちは竹を担いでスクワットを始めた。
二人一組になって竹を支えながら歩く。
頭上に持ち上げる。
身体をひねる。
さらに、竹を使ってバランスを取りながら片足で立つ。
「きつい!」
白石が声を上げる。
「でも、普通の筋トレと違いますね」
古賀が頷く。
「力いっぱいやらんでよかよ」
「え?」
「身体を一緒に動かすとたい」
古賀は竹を持ち、ゆっくり身体を動かした。
「足だけじゃなくて、腰も、背中も、腕も」
身体全体を連動させる。
「全部一緒たい」
相川がその動きを見ていた。
「……全身の連動性を鍛えてる」
「連動?」
「いえ。監督はそのままでいいです」
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練習後。
白石がボールを持って古賀のところへ来た。
「監督」
「ん?」
「俺、ロングスロー覚えたいです」
「よかね」
「でも、腕だけじゃ全然飛ばないんですよ」
相川が説明する。
「ロングスローは腕の力だけではありません。脚、股関節、体幹、背中、肩、肘、手首まで、身体全体を連動させることが重要です」
古賀が頷く。
「じゃあ、竹でやったらよか」
「また竹ですか?」
白石が苦笑する。
「ただし、竹を投げたり、振り回したりはせんよ」
古賀は竹を地面に置いた。
「安全に身体を鍛えるとたい」
竹を担いで身体をひねる。
踏み込む。
身体を伸ばす。
ゆっくり戻す。
「これで、身体全部を使う感覚を覚える」
白石が真似をする。
「こうですか?」
「そうたい」
何度か繰り返したあと、白石がボールを持った。
助走。
身体を反らす。
踏み込む。
腰を前へ。
胸を起こす。
最後に腕を振る。
「それ!」
ボールが以前より遠くへ飛んだ。
「……飛んだ!」
神崎が驚く。
「マジか!」
白石も目を丸くした。
「監督、今の!」
古賀は笑った。
「身体がうまくつながったね」
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その頃、クラブハウスでは小柳が竹を眺めていた。
「これ……グッズにできません?」
試作品を作る。
竹を加工して作った、観戦用のクラップスティック。
小柳が二本を叩く。
カン!
カン!
「いい音!」
神崎が振り返る。
「そろばんに続いて竹ですか……」
「福岡ユナイテッド名物にします!」
スタンドで一斉に鳴らせば、かなりの迫力になりそうだった。
相川が呟く。
「監督……そろばんと竹って、どんどん農村クラブになってません?」
「よかろうもん」
古賀は笑った。
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さらに週末。
クラブは地域の子どもたちを招いて、竹工作教室を開いた。
竹ぽっくり。
竹けん玉。
竹笛。
竹を使ったボール転がし。
子どもたちは夢中になった。
「できた!」
男の子が自分で作った竹のおもちゃを掲げる。
古賀が笑う。
「自分で作ったけん、楽しかろ?」
「うん!」
「いっぱい遊んで、いっぱい寝るとばい」
「はーい!」
選手たちも子どもたちを手伝った。
カルロスは竹笛を吹こうとして、何度も失敗している。
「センセイ……オト、デナイ」
「息を優しく吹いてみ」
「フーッ」
ピーッ。
「オオ!」
子どもたちが拍手する。
カルロスが満面の笑みを浮かべた。
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そして、竹の活用は農業にも広がった。
古賀は切り出した竹を細かく粉砕し、米ぬかなどと組み合わせて発酵・分解させ、土づくりに利用する方法を試していた。
「捨てるしかなかった竹が、土に戻る」
古賀は畑の土を手に取る。
「いい土になってくれたら、また作物が育つ」
相川が聞いた。
「監督、サッカーと農業って、そんなにつながるんですか?」
古賀は少し考えた。
「わからん!でもどっちも一人じゃできんけんね」
「……また、それですか」
「そうたい」
神崎が笑った。
「先生らしいですね」
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竹林整備。
竹の加工。
農家の土づくり。
子どもたちの工作。
スタジアムの竹クラップ。
気がつけば、多くの人が竹を通じて関わるようになっていた。
ある日の練習。
白石がスローインの位置に立つ。
ボールを頭上に構える。
少し下がる。
助走。
身体を大きく使う。
「それ!」
ボールが高く、そして遠くへ飛んだ。
神崎が走り込んで受ける。
「うわ!」
選手たちから歓声が上がる。
白石が古賀のもとへ走ってきた。
「監督!」
「ん?」
「飛びました!」
「飛んだねぇ」
「竹のおかげですか?」
古賀は首を傾げる。
「竹だけじゃないたい」
「じゃあ何です?」
古賀は選手たちを見た。
「みんなで仲良く竹切ったけん」
白石が苦笑する。
「……それ、関係あります?」
「気持ちの問題たい」
相川が呆れたように笑う。
「最後は精神論ですか……」
古賀は竹を指差した。
「精神は大事ばい!それと単純に」
「?」
「重かったけん、身体が強くなったんじゃない?」
「そっちですか!」
選手たちが笑った。
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その日の夜。
小柳がクラブ公式SNSに一本の動画を投稿した。
『福岡ユナイテッド、竹で地域を救う!?』
動画には、竹林を整備する選手たち。
竹を使ってトレーニングする選手たち。
子どもたちの竹工作。
スタンドで竹クラップを鳴らすサポーター。
そして最後に――。
白石のロングスロー。
ボールが大きく飛んでいく。
投稿直後から、コメントが次々に入った。
『なんのクラブなんだよ(笑)』
『でも普通に面白い』
『竹害対策になるならいいな』
『次の試合、竹クラップ持っていく!』
小柳は笑った。
「またバズってる……」
古賀はスマートフォンを覗き込み、嬉しそうに笑った。
「竹、いっぱいあるけんねぇ」
隣にいた神崎が笑う。
「先生……次は何を育てるんですか?」
古賀は少しだけ考えた。
そして、いつものように笑った。
「うーん……」
一拍置いて。
「福岡かな」
神崎も笑った。
竹林から始まった小さな活動は、少しずつ地域を巻き込み始めていた。
鍛える。
作る。
育てる。
助け合う。
古賀にとっては、全部同じことだった。
――困っとるもんがおったら、みんなで助ける。




