第三部 番外編 王妃の散歩
初夏の生ぬるい風が、開け放たれたバルコニーの薄絹のカーテンを気怠げに揺らしている。
大帝国シャジャルの王城、その最奥に位置する正妃の私室。ステンドグラスを透過した眩しい陽光が、足首まで沈み込みそうな分厚いペルシャ絨毯の上に、極彩色の歪な影を落としていた。マーシャは豪奢な長椅子に身を投げ出し、右手で銀貨を宙に弾いた。
チャリン。
乾いた金属音が、高すぎる天井に空しく反響する。
部屋の四隅に置かれた香炉からは、むせ返るような乳香の甘い匂いが立ち上り、彼女の肺の奥にねっとりとへばりついていた。
銀貨を受け止め、もう一度弾く。
チャリン。
「……退屈だ」
ぽつりとこぼれた声は、分厚い絨毯に吸い込まれて消えた。
大帝国が平和を取り戻して数ヶ月。
王都の復興や細々とした政務は優秀な文官たちが完璧に回しており、戦場という「盤面」を失った軍師の手元には、動かすべき駒が一つも残されていない。少し背伸びをしようと長椅子から立ち上がった瞬間、分厚いマホガニーの扉の向こうで、ガチャリと重い金属鎧が擦れ合う音がした。
マーシャは舌打ちを飲み込み、弾こうとした銀貨を乱暴に握り込む。
彼女が部屋の中で三歩以上動く気配を察知しただけで、外に控える近衛兵たちが即座に警戒態勢に入るのだ。庭園に咲く花を少し眺めようとしただけで、過剰な人数の護衛が壁のように周囲を取り囲み、視界に入る怪しい虫すらも徹底的に排除される。
(……あの過保護なヒヨッコめ、度が過ぎるぞ)
マーシャは、かつてターバンを巻いていた頃の癖で、結い上げられた自身の黒髪へと無意識に手をやり、空を切った指先を不機嫌そうに下ろした。
『お前が今、何を考えているかなど分かる』
二年前、バルコニーで自身を逃げ場のない力で抱きすくめたファリードの、暗く粘ついた金色の瞳が脳裏にフラッシュバックする。あの日、『鳥籠に閉じ込められたら消えてしまう』と懇願したはずだ。
だが、彼が用意した「隣という玉座」は、純金で設えられた、決して鍵の開かない堅牢な鳥籠そのものだった。
マーシャは窓枠に寄りかかり、眼下に広がる城下町の喧騒を見下ろした。
遠くから微かに届く、馬車の車輪の音や、市場のざわめき。
「……ザイド」
彼女は窓の外を見つめたまま、誰にともなく低く呟いた。
現在、ファリードは重臣たちとの長い御前会議に捕まっている。この息の詰まる香炉の煙から逃れる隙は、今しかない。
* * *
陽光の届かない私室の裏口。
ひんやりとした石造りの冷気と、古いカビの匂いが漂う薄暗い回廊に、猫のような足取りで滑り込んできた影があった。
「……で? こんな誰も来ねェような埃っぽい場所に呼び出して、一体何の用だい、姉御」
スラム育ちの密偵、ザイドだ。
彼は落ち着かない様子で周囲をキョロキョロと見回し、自身の親指の爪をガリガリと噛んでいる。マーシャは壁の影から歩み出ると、纏っていた深い蒼のドレスの装飾を無造作に引きちぎりながら、淡々と告げた。
「お前の手引きで城下町へ行く。案内しろ」
「はァ!?」
ザイドの噛んでいた爪が滑り、間抜けな声が石壁に反響した。
「冗談キツいぜ姉御! もし殿下……いや、陛下にバレたら、俺の首が物理的に飛ぶんだぞ!」
ザイドの顔から一瞬にして血の気が引く。
彼の脳裏には、かつて平原の宴でマーシャの肩を組んだ瞬間に、ファリードから向けられた絶対零度の殺意が、未だに生々しいトラウマとしてこびりついているのだ。
「この間も、陛下が『軍師の警護に隙はないか』って、あの恐ろしい金色の目で俺を三時間も詰問してきたばっかりなんだ! 頼むから俺を巻き込まないでくれ!」
両手を合わせて拝み倒すザイドに対し、マーシャは剥ぎ取ったドレスの装飾を床に放り捨てた。
「カディルは最近、砦の備蓄品の目録作りに追われているらしいな。……お前が赤蠍の隠し財宝からネコババした、あの年代物のワインの裏帳簿。カディルにバラすか、私を手引きするか、好きな方を選べ」
「あ、悪魔……ッ!」
ザイドは頭を抱え、その場に崩れ落ちた。
あの堅物騎士の三時間に及ぶ無間地獄の説教か、覇王の怒りか。どちらに転んでも地獄しか待っていない。泣き言を垂れるザイドを完全に無視し、マーシャはあらかじめ回廊の奥に隠しておいた麻の袋を引き寄せた。
中から取り出したのは、分厚い麻の「サラシ」だ。
ドレスを脱ぎ捨て、白い素肌と凄惨な傷跡の上に、サラシをきつく、痛いほどに巻き上げていく。長年彼女の肺を圧迫し続けていたその息苦しさが、今はなぜか、狂った世界を生き抜くための確かな装甲のように感じられ、不思議な安堵をもたらした。
その上に、ダボついた男物の外套を羽織り、艶やかな黒髪を薄汚れたターバンの奥へと強引に押し込む。
顔も砂と泥で汚せば完成だ。
「……よし」
マーシャは自身の首の筋肉に力を込め、気道を意図的に狭めた。
「さっさと案内しろ、ザイド。モタモタしていると日が暮れるぞ」
喉の奥を潰したような、低くしゃがれた少年の声。
目の前に立つのは、煌びやかな大帝国の正妃などではない。血と泥に塗れた盤面を支配した『悪魔の軍師』の、完全なる帰還だった。
* * *
ポチャン、と遠くで水滴の落ちる音が反響する。
かつてマーシャ自身が図面を引き、ザイドたちと共に敵の目を欺くために利用した王都の地下水路。
冷たい苔の滑り気と、淀んだ泥の匂いが鼻を突く暗闇を抜け、二人は地上へと続く鉄格子を押し上げた。
「ぷはァッ……! 眩しッ!」
ザイドが目を細める。
初夏の強烈な陽光が、大理石の石畳を白く焦がすように照りつけていた。
城下町の大通りは、行き交う商人や馬車、そしてけたたましい客引きの声で溢れ返っている。王城の静寂とは対極にある、むき出しの生命力。マーシャはターバンの奥で、微かに唇を吊り上げた。二人は路地裏の奥深く、粗末な木造の看板が揺れる大衆酒場へと身を滑り込ませた。
饐えた麦酒が染み付いた床板が、歩くたびにねちゃりと嫌な音を立てる。安煙草のヤニと、羊肉の脂が焦げる煙が視界を黄色く濁らせ、目と喉をチカチカと刺激していた。
「……やっぱり肉はこうやって手掴みで食うのが一番だな」
部屋の最奥、最も薄暗いテーブル席。マーシャは男物の外套の袖をまくり上げ、硬い骨付き肉に無作法に食らいつきながら、木杯の安いエール酒を喉に流し込んだ。
「おいおい姉御、声がデカいって。誰に聞かれてるか分かったモンじゃねェ……」
ザイドは周囲の傭兵たちをギョロギョロと警戒しながら、自身の杯を両手で包み込むようにしてちびちびと舐めている。
「王宮の食事は味が上品すぎる。たまにはこういう、塩と泥の味がするメシを食わないと調子が狂う」
マーシャは脂でギトギトになった指先を無造作に外套で拭い、満足げに息を吐いた。
その時。
ドンッ!と、二人のテーブルに乱暴に樽ジョッキが置かれた。
「おや? ザイドじゃないか。最近見ねェと思ったら、こんな小汚い酒場にシケ込んでたのか?」
見下ろして来たのは、酒と汗の饐えた匂いを撒き散らす、筋骨隆々の傭兵崩れだった。顔は赤黒く充血し、瞳孔は安い酒と薬草で濁りきっている。その後ろには、似たような風体の男が三人、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべて立っていた。
「そっちのチビな男は誰だ? お前の新しい『オモチャ』か? 俺たちにもその酒を奢れよ」
男の太い指が、マーシャのターバンへと無遠慮に伸びてくる。
「ま、待て待て! こいつはただの身内で……」
ザイドが慌てて立ち上がり、男とマーシャの間に割って入ろうとした、その瞬間だった。
――チャキッ。
鈍い金属音が、酒場の喧騒の底で微かに鳴った。
マーシャは丸椅子に座ったまま、右手に持っていた干し肉をテーブルに放り投げ、腰に帯びた双短剣の柄へと指先を滑らせていた。
「あァ?」
男がザイドを突き飛ばそうと重心を前に傾けた、その一秒の死角。
マーシャの身体が、まるでバネが弾けるように椅子から跳躍した。男物のダボついた外套が空を切る。
彼女は正面から男の腕を払うことはせず、床の油汚れを利用して低く滑り込み、男の膝の裏を重い革靴の踵で容赦なく蹴り払った。
「がっ……!?」
体勢を崩し、巨体が宙に浮く。男が顔面から汚い床に叩きつけられるより早く、マーシャは反転しながら双短剣の柄尻を、男の延髄へ正確に打ち据えた。
ドスッ、という湿った音が響き、男の巨体が糸の切れた傀儡のように崩れ落ちる。
「なっ……てめェ!」
背後の三人が遅れて剣の柄に手をかける。
だが、マーシャの動きは完全に戦場の「悪魔」のそれだった。
彼女は倒れた男の背中を蹴り台にして宙に舞い、二番目の男の顎下へ強烈な膝蹴りを叩き込む。
脳が揺れ、白目を剥いて倒れる男を盾にし、三番目と四番目の顔面へ、手元にあった木杯の残酒と泥を正確にぶちまけた。
「うおッ!? 目が!」
視界を奪われ、怯んだ二人の鳩尾へ、双短剣の柄による容赦のない連撃がめり込む。バキッ、という鈍い音と共に、男たちはくの字に折れ曲がり、泡を吹いて床の泥水の中に沈んだ。
わずか数秒。
酒場の喧騒が、水を打ったように静まり返る。
「ふぅ……」
マーシャはターバンのズレを軽く直し、息一つ乱さずに落ちた干し肉を拾い上げた。
「少しは運動になったな。さて、帰るか」
スッキリとした顔で踵を返すマーシャ。
しかし、その目立ちすぎる制圧劇と、床に転がる四つの巨体は、お忍びという名の「隠密行動」の限度を、致命的に超えてしまっていた。
ザイドが顔を真っ青にして天を仰ぐ。静寂に包まれた酒場の入り口の扉が、ギィ……と不吉な音を立てて開き、見覚えのある白銀の甲冑の影が、ゆっくりと中へ足を踏み入れてきたのだった。
ーその頃、王城の執務室では、書類の束を前にした重臣たちの声が、完全に凍りついていた。
「……も、申し訳ございません! 妃殿下の姿が私室に見当たらず、秘密の抜け道から下町へ出られた痕跡が……っ!」
青ざめた顔で駆け込んできたカディルの報告が、冷たい石造りの部屋に空しく響き渡る。
上座に座るファリードは、羽ペンを持った手をピタリと止めた。
パキッ、と。彼の指先の尋常ではない力によって、硬い木製のペンがへし折れ、黒いインクが羊皮紙の上に無残な染みを作る。
「……下町、だと?」
ファリードの声は、地鳴りのように低く、そして絶対零度の冷気を孕んでいた。
彼の脳裏に、最愛の伴侶の姿がフラッシュバックする。彼女は「男装」して誤魔化しているつもりだろうが、ファリードの目から見れば、あの華奢な骨格も、男物の外套の中で泳ぐ細い肩も、すべてが無防備な「女」そのものだ。
(あんな無防備な姿で、しかもザイドのような男と肩を並べて安酒を飲んでいるなど……!)
下町の淀んだ空気。饐えた酒の匂い。そこをうろつく、欲に飢えた野犬のような男たち。いかなる虫の骨が、彼女のその白い肌を汚すか分かったものではない。
「カディル、後は任せる」
ファリードは椅子を蹴り倒すようにして立ち上がると、壁に掛けられていた漆黒の大外套を乱暴に引っ掴んだ。
「へ、陛下!? 護衛を――」
「不要だ」
バサリと外套を翻し、ファリードは一人、執務室を飛び出した。彼の金色の瞳は、極端な過保護と、腹の底を焼き尽くすようなドス黒い嫉妬の炎で、完全に濁りきっていた。
* * *
城下町の裏路地。
夕暮れが迫り、石畳の間に溜まった下水の泥臭い匂いが、生温かい風に乗って鼻を突く。
「……ふぅ。久々に血が巡ったな」
酒場での騒動を背に、マーシャは首の骨をポキポキと鳴らしながら、上機嫌で路地を歩いていた。外套の袖口に染み付いた安いエール酒の匂いが、妙に心地よい。
だが、その隣を歩くザイドは、生きた心地がしていなかった。
「あ、姉御ォ……目立ちすぎだって! あんな派手に暴れたら、すぐに噂が広まっちまう! もし陛下の耳にでも入ったら……」
ザイドがガチガチと歯の根を鳴らしながら振り返ろうとした、その瞬間だった。
――ヒュッ、と。
路地裏の淀んだ空気が、一瞬にして氷点下まで凍りついた。
背後から、首筋に鋭い刃を突きつけられたような、凄まじい威圧感と絶対零度の殺気が降り注ぐ。
マーシャの足がピタリと止まった。全身の産毛が逆立ち、戦場の本能が「振り返るな」と警鐘を鳴らす。
だが、ザイドはギギギ……と錆びた機械のように首を回してしまった。
「……ヒィィィッ!!!」
ザイドの喉から、蛙が潰されたような悲鳴が漏れた。
夕闇の影に溶け込むようにして立っていたのは、漆黒の大外套を深く被り、その奥で金色の瞳を猛禽類のように爛々と輝かせた、修羅の顔のファリードだった。
「へ、陛下ァ! お、俺は止めました! 姉御がどうしても下町に行きたいって……俺は無理やり連れてこられただけで!!」
ザイドは一瞬の躊躇もなくマーシャを裏切り、泥水が溜まった石畳の上にスライディング土下座をキメた。ガタガタと震えるその姿は、今にも気絶しそうである。
「ち、違うぞファリード! ただの息抜きで……っ」
マーシャは思わず数歩、後ずさった。
だが、ファリードは一切の言い訳を聞こうとはしなかった。彼は無言のまま、音もなくマーシャへと肉薄する。彼から放たれる、怒りと麝香が混じり合ったような圧倒的な覇気が、マーシャの逃げ場を完全に塞いでいた。
「ま、待て、歩ける! 自分で歩くから――」
バサッ!
マーシャの抗議は、頭上から降ってきた漆黒の布地によって完全に遮断された。
かつて娼館で彼女を救出した時のように。ファリードは自身の大外套で、マーシャの小柄な身体をすっぽりと頭から包み込み、一切の反論を許さずにそのまま横抱きへと抱え上げた。
「っ……! 離せ、ファリード!」
外套の暗闇の中でマーシャが暴れるが、ファリードの分厚い腕は鋼の檻のように微動だにしない。
「……後で、たっぷりと話を聞かせてもらおう」
頭上から降ってきたのは、地獄の底で響くような低く甘い声。ファリードは土下座するザイドを一瞥することすらなく、最愛の獲物を抱えたまま、王城へと続く秘密の抜け道へと踵を返した。
* * *
ガチャリ、と。
王城の私室。重厚なマホガニーの扉が閉められ、重い鍵が下ろされる音が、静寂の部屋に響き渡った。
バサリと外套が剥ぎ取られ、マーシャは分厚い羽毛のベッドへと乱暴に投げ出された。
「いッ……痛いな、何を――」
身を起こそうとしたマーシャの肩を、ファリードの大きな両手がガシッと押さえ込み、そのまま逃げ場のない力でベッドへと縫い留める。
覆い被さってくる彼の体温は、火傷しそうなほどに熱かった。
「男装などして、私以外の男と肩を組んで酒を飲むなど……」
ファリードの金色の瞳が、至近距離でマーシャを射抜く。
「私がどれほど心配し、嫉妬で腸を煮えくり返らせたか、分かっているのか」
低い唸り声と共に、彼の手がマーシャのダボついた男物の外套の襟首を掴み、ビリッ、と音を立てて乱暴に引き裂いたように剥ぎ取った。
「ひゃっ……ま、待て! 悪かった、反省して……」
むき出しになった自身の身なりと、彼から放たれる圧倒的な大人の男の色香に、マーシャの頭の中で警鐘が鳴り響く。軍師としての冷静な計算式が、彼の熱によってドロドロに溶かされていく。
「反省は身体で示せ」
ファリードの指先が、マーシャの胸をきつく締め上げている麻のサラシへと触れた。
「……その忌々しいサラシも、二度と着けられないようにしてやる」
「あ……っ、だめ、ふぁりーど……っ!」
彼の大ぶりで熱を持った手が、強引にサラシの結び目を解き、幾重にも巻かれた布を剥がしていく。
長年彼女の肺を圧迫していた呪縛が解け、冷たい夜気に晒された白い素肌。そして、そこに刻まれた無数の凄惨な傷跡。
ファリードは、その痛々しい過去の証を慈しむように、そして二度と他の誰にも見せないと所有印を刻み込むように、執拗で、火のように熱い口づけを落としていった。
「ん……っ、ぁ……っ」
首筋から鎖骨、そして傷跡をなぞるように這う彼の唇と、甘く痺れるような熱に、マーシャの口から抑えきれない吐息が漏れる。
「お前は、私のものだ。……私以外の前で、その姿を晒すことは絶対に許さない」
軍師の冷徹な仮面は完全に剥ぎ取られ、ただ一人の男に溺愛される女としての姿だけがそこにあった。圧倒的な独占欲と愛執の奔流に飲み込まれたマーシャは、なすすべもなく、朝の光が差し込むまで、彼に甘く激しく蹂躙され続けたのだった。
* * *
翌日の昼下がり。
ステンドグラスを透過した穏やかな陽光が、乱れたベッドのシーツを白く照らしていた。
「……っ、痛ッ……」
マーシャは身じろぎをしようとして、腰から背中にかけて走る強烈な痛みに顔をしかめ、再び枕に顔を埋めた。関節が軋み、足の先まで力が入らない。
そのすぐ横で。
寝衣の胸元をはだけさせたファリードが、肘をついて満足げに微笑みながら、彼女の乱れた黒髪を愛おしそうに指先で梳いていた。
「……二度と、お忍びなんか行かない」
涙目でファリードを睨みつけながら、マーシャは毛布を頭から被り、掠れた声で後悔の独り言を漏らした。
「ああ。次に行きたくなった時は、私が抱いて連れて行ってやろう」
事も無げに返されたその甘く重い言葉に、マーシャはさらに顔を赤くし、ただギュッと毛布を握りしめることしかできなかった。




