表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/39

第33話 壁と屋根はあります

 それから数日後。


 約束通り、セリナは本当に村へやってきた。


 街道をゆっくり進んでくる乗合馬車の荷台から姿を見つけたとき、レインは少しだけ本気で感心した。


 口ではそう言っていても、やはり来ないかもしれないと思っていたのだ。


「セリナさんです! 来ました!」


 スイが、ぱっと顔を明るくする。

 その声に反応して、リーファも腕を組んだまま街道の向こうを見た。


「ほんとに来たのね……」

「セリナ、嘘つかないタイプ」


 ルゥだけは相変わらず冷静だ。


 やがて馬車が止まり、荷台から降りてきたセリナがこちらに気づいて軽く手を振る。


「すいません、出迎えに来て頂いて」

「いえ。こっちこそ、わざわざありがとうございます」

「いえいえ。言い出したのは私ですから」


 そう言いながら笑ったセリナの足元には、布袋や小さな木箱がいくつか置かれていた。数日泊まり込むとなれば、それなりに荷物も増えるのだろう。


「持ちます!」


 真っ先に飛び出したのはスイだった。


 張り切った声と一緒に、ひょいと布袋を抱え上げる。


「お、おい。無理して落とすなよ」

「大丈夫です。これくらいなら、私でも持てます」


 そういえば、いつの間にかスイの二足歩行も、全く危なげなくなっていた。


 レインも残りの荷を持ち上げる。干し肉や小麦粉、調味料らしき袋、包みに入った細々した生活用品。街からわざわざ持ってきてくれたのだろうと思うと、少しだけ申し訳ない気持ちにもなった。


「すみません。うちに何も無いばっかりに」

「いえ、必要最低限の物だけですから。それに──」


 セリナはレインたちを見回し、少しだけ口元を緩めた。


「久しぶりに小さな旅にでも出たみたいで、少し楽しみなんです」


 その言葉に、スイが嬉しそうに頷く。


「はいっ。旅のお宿として精一杯おもてなしします!」

「何ももてなせる物は無いけどな……」

「か、壁と屋根はあります!」

「それは……ほんと、精一杯だな」


 レインが苦笑すると、セリナもくすっと笑った。


 ◇ ◇ ◇


 道すがら、セリナは何度も周囲を見回していた。

 草だらけの道、崩れた柵や壁、屋根の落ちた家。


 そして、寝泊まりに使っている家へ案内したところで、セリナはとうとう苦笑を浮かべた。


「……うん。改めて見ると、なかなかですね」

「ですよね……」


 レインも否定はできない。


 外壁はところどころ傷み、屋根も雨漏りだ。雨風をしのげるだけまし、という段階をようやく抜けつつある程度だ。まともな家、と胸を張るにはだいぶ遠い。


 けれど、それでも前よりはずっとマシになっている。


 周りの家から廃材を集め、継ぎはぎだらけだけれど少しずつ補修はしてきた。床板を打ち、壁の隙間を塞ぎ、どうにか家と呼べるところまで持ってきた。

 何より、今日はそこに、セリナの分の寝床と呼べるものまで用意してある。


「……あ」


 セリナが、部屋の隅に整えられた寝床へ気づく。


 木箱を並べて高さを揃え、その上に板を渡し、布と毛布を敷いた簡易のものだ。立派とは言えない。だが、少なくとも“床にそのまま”ではない。


「ここが、セリナさんの寝る場所です!」


 スイが誇らしげに胸を張る。


「みんなで作りました」


 セリナはその寝床をしばらく見つめ、それからふっと表情を和らげた。


「……ありがとうございます。十分です」


「それは、よかった」


 正直、社交辞令半分だろうと思ったが、それでも露骨に困った顔をされるよりはずっとありがたかった。


「それじゃ」


 荷物を置いたセリナが、袖を軽くまくる。


「さっそく、畑仕事といきますか」

「え、少し休まないんですか?」


 レインは思わず目を瞬かせた。


「というか、手伝ってくれるんですか?」

「遊びに来たわけじゃないですから」


 セリナは当然のように言う。


「それに、食べる分くらいは働きますよ」


 その返しに、レインは思わず笑ってしまった。


「それは、助かりますけど」

「こう見えて、結構慣れてるんですよ、土仕事」


 商人なのだから、てっきり畑仕事は見学に徹するのかと思っていた。だが、どうやら、彼女はそういう性格ではないらしい。


 ◇ ◇ ◇


 畑へ出ると、セリナはすぐに表情を引き締めた。


「私は何をすればいいですか?」


「じゃあ、まずこっちの草取りを……」


 レインが説明するより早く、リーファが割って入る。


「ちょっと、そこはもういいわよ。それより、こっちの収穫、手伝って貰える?」


「え、あ、はい」


「あとその列は水あげたばっかでぬかるむから、あんまり踏み込みすぎないで」


「はい」


 セリナが少しだけたじろぐ。


 レインは内心で苦笑した。


 リーファは畑に関してだけは容赦がない。本人に悪気はないのだが、初見の相手だとだいぶ圧が強い。


 けれど、作業を初めてしばらくすると、セリナもそれが本気の証だと分かったのか、素直に指示を聞き始めた。


 その横でスイは、水を汲んで運び……例のごとく口から撒き散らしていく。


「──えっ!?」


 セリナの手が止まった。


「だ、大丈夫です! 綺麗な水なんで!」


 まさか、この言い訳を自分がする事になるとは。


「スイはスライムなので」


「そ、そうでしたね。スライムって、そんな事も出来るんですか……」


「あ、あまり褒められると照れます」


 言われたスイは照れたようにもじもじするが、正直誰も褒めてはいない。


 少し離れた木陰では、ルゥが丸くなって目を閉じていた。セリナがそれに気づき、困惑したように指差す。


「あの……ルゥさんは?」

「サボってるように見えるでしょ」

「ええ、まぁ……」

「実際、半分くらい寝てます。でも、ああして周りを警戒してくれてるんです」

「……寝ながらですか?」

「耳、見てみてください」


 言われて見ると、人の足音や風の音に合わせて、耳がぴくりぴくりと細かく動いている。


「夜の間も、あいつが一人で周りに気を配ってくれてます」


 レインがそう言うと、セリナは少し感心したように呟いた。


「なるほど……番犬、みたいな感じですか」

「番犬、って言うと怒ると思いますけど、まぁ」


「聞こえてる」


 目を閉じたまま、ルゥがぼそりと言った。


「あ……」

「起きてたんですね」


「半分だけ」


 やっぱり半分寝ていたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ