第915話 キールの『もう一つの』秘密
今のべリングエルの話を聞いていて、キールは、腑に落ちない点があることに気が付いた。
この世界に、もし、レント族とエルルート族、そしてドラゴン族の3種族しか『人類』が存在しないのだとしたら、『竜芯』を見分けることのできるリューデスは、エルルート族ではないということにならないか――?
「なあ、べリングエル。今の話に間違いがないのだとしたら、リューデスはそれが『竜芯』というものだと知らずにレスター公に渡したってことにならないか? リューデスはエルルート族だと、『翡翠』は言ってたんだぞ?」
「ふむ。エルルート族はレント族より魔素親和性が高いが、さすがに『竜芯』の魔素の放出は見抜けないはずだ。もし、『翡翠』のいうとおり、そのリューデスという男がエルルート族だというのなら、何かしら特別な力を持つ人間なのかもしれんな――」
特別な力——。
キールはその言葉を聞いて、体にまるで電流が走ったかのように震えた。
キールは今、とんでもない仮説を閃いてしまったのだ。
これほどの恐怖を感じたのは、いつ以来だろうか。
キールは、自分でもわかるほどに顔から血の気が引いていくのを感じている。
「――キール? 大丈夫?」
と、ミリアが、彼女が見たことのないキールの表情を訝しんで、心配そうに様子をうかがってくる。
「――あ、ああ。実は今、とんでもない仮説を思いついてしまったんだ。でも――」
と、キールはその先をすぐに口に出すことを躊躇ってしまう。
「小僧よ――。私も今、自分で言ってて、その可能性に気が付いてしまった。リューデスはもしかしたら、小僧——《《お前と同じ》》なのかもしれぬな……」
キールが躊躇ったその先を、べリングエルが代わりに言葉にした。
キールは、図星を突かれて、ゆっくりと頷くしかない。
「べリングエル。『小僧と同じ』とはどういう意味じゃ? 魔法の素質のこと――ではないな? とすれば――」
と、ジョドもべリングエルの言いたいことに気が付いたようだ。
「ちょ、ちょっと待って。みんな何となくわかったような表情をしているけど、私には何のことだかさっぱりだわ。いったい何が、キール君と同じだっていうのよ?」
とは、『疾風』だ。
『疾風』が気付かないのは仕方がない。なぜなら、この部屋にいる中で、彼女だけが『キールの秘密』を知らないのだから。
「キールと同じ――。あ……、そんな……、でも、そんなことが――?」
と、ミリアもとうとう気が付いたようだ。
リーンアイムはまだ目を瞑っているため、気付いたかどうかはわからないが。
べリングエルのいう通り、『キールと同じ』、つまり、アステリッドや、ワイアットなどとも『同じ』——。
そう考えれば、リューデスが『竜芯』のことを知っている説明が付くのだ。
「ミリアも気づいたの? 私だけ分からないってことは――。あ! キール君、私にまだ何か隠していることがあるのね!? もうっ! さっさと口を割りなさい!」
『疾風』が立ち上がらんばかりの勢いで、キールに向かって声を上げる。
(仕方ないよなぁ――。さすがにここまで話すと、これから先の『疾風』との関係に支障をきたすかもしれない? いや――。大丈夫か、な?)
キールは少し悩んだが、ここまで来ておいて、はぐらかしてやり過ごすのは無理があるだろう。
その方が却って、『疾風』との関係がぎくしゃくする、あるいは、危険視される、か――。
そうだよな――と、キールはその先を口にすることを決意した。
「――そうですね。でも、これを言えば、もしかしたら僕という人間への見方が、これまでと全く違うものになるかもしれませんから、実はあまり言いたくないんですよね」
と、やはり、すらりと言葉にするのは、少しためらってしまう。
(だって、ねぇ。僕が別の世界に生きていた前世の記憶を持っているなんて、どうにも説明のしようがないことだから、もうあとは、信じるか信じないかだけの話になってしまうからな――)
「いまさらだわよ! 『超高度』クラスのことだって、今まで黙ってたんだから、もう何を言われても驚かないぐらいに覚悟は決まってるのよ、こちらは! さぁ!」
と、『疾風』が、ずいと、顔をキールの眼前に寄せてくる。
キールは一応、周囲の表情を確認してしまう。
皆一様に、『仕方がない、諦めて吐いてしまえ』といったような、完全に諦観の色を濃く出している。
「はぁ~。わかった、わかりました! 言います――。実は僕、『前世の記憶』を持っているんですよ。僕と同じってことは、そのリューデスも、『前世の記憶』を持っている『転生者』なのかもしれないって、そういう事です――」
キールはとうとう、それを告白してしまった。




