第914話 魔術師の誕生
「――もし仮にじゃが……。リューデス・アウストリアというエルルートの男が、魔法によってそれを為したのであれば、小僧よりさらに上の魔法の素質を持っておると、そういうことになるのう――」
ジョドが「事実」として、その可能性を言葉にする。
キール自身、「『稀代』、『稀代』」と呼ばれ、嫌でも自分が世界最高の素質を持っていることを最近では自覚するようになってきている。
もちろん、「素質」と「実力」は同じ『物差し』ではない。
キールは常にそれを意識し、「素質」にうぬぼれず、自分の現在の技術の「未熟さ」を自覚し、「実力」をつける努力を忘れぬようにと心がけてきたつもりだ。
それでも、自分より「上位」の魔術師がいると言葉にされれば、さすがに複雑な気分になる。
「――『竜芯』か……」
と、べリングエルが呟いた。
「そうじゃの。その可能性は否めまいな――。今回の政変にしても、恐らくはそれが要因の一つなのじゃろう。リューデスというエルルート族の男はそれを試したのではないかと、私はそう考えているのじゃ」
と、べリングエルの言葉に反応するジョド。
「ジョド? 「それ」って何のこと? 『竜芯を試す』という意味なら、少し説明してもらう必要があるわよ?」
ミリアが、おそらく、キールと『疾風』が聞きたいことを今、代わりに問うてくれた。
「そうじゃの。『竜芯』の影響によって我らドラゴン族は絶大な魔力を操ることができると、先程、『竜芯』に込められていると伝わる力の話はしたじゃろう?」
「うん、聞いていたわ」
「ミリアよ。現生人類がどうして魔法を使えるようになったか、考えてみたことはあるか? 言っておくが、前人類たちの中に『魔術師』は一人としておらなんだのだぞ?」
「えっと――、それは考えたことが無かったわね――。でも、前人類が使えなかった魔法が、現生人類は使えている――。何が違うかと考えてみれば――ああっ!!」
ミリアが少し考えてすぐに、声を上げた。
何かに気がついたのだろう。
「――100日戦争——。それが、原因、じゃないかしら――?」
と、ミリアがそう答える。
「今の話を総合して考えると、そういう事になるわね」
と、ミリアに同意を示すのは『疾風』だ。
「100日戦争で死んだドラゴン族たちは、この地上におおくの『竜芯』を残してこの世を去っていった――」
キールは、二人の考えを整理するように話す。
「――そして、長い時が過ぎて、この地上に新たな人類が生まれ出ることになった。それがエルルート族であり、僕たち人族だ。僕たちが生まれたこの世界は、すでに『竜芯』の影響を少なからず受けている……。そういうことでいいのかな?」
キールはジョドに目を向けて、理解が正しいのかを問いかける。
「――まあ、いいじゃろう。そもそも『竜芯』は我らの体内に宿るものじゃ。それは、外界とは隔絶されておるわけじゃ。我らドラゴン族の寿命は、もう言うまでもないことじゃろう。前人類より先に死んだものはおらなんだのじゃ。ところが、100日戦争が起き、我らの同胞もとてつもない数が死に至った。現在残るのは、我ら2人と未だ眠る10人のアストラルボディ個体と、生身で唯一のリーンアイムのみとなっておる」
と、ジョドが話す。
そして、そこでべリングエルが、手を挙げた。あとは、自分が説明すると、そういう意味だろうと察したジョドは、そこで言葉を止めた。
「『竜芯』は、魔力を放出する性質があるのだ。特に、直接触れているものには強い作用が見られる傾向があるようだ。——小僧。お前は何かを感じたか?」
べリングエルが問うているのは、ここまでこの『竜芯』を運んできたのがキールであり、今現在『竜芯』に触れているキールが、この間、何か違和感を感じていないかという確認なのだろう。
が――。
「――いや、特に違和感は感じてない。どころか、この欠片からは魔力の存在すら感じないけど?」
と、キールは正直に答える。
「――そうよね? 私にも、ただの赤い石、いわば、『赤嶺石』や『紅玉』と、何も変わらないように見えているもの……。本当にその石に魔力を放出する力なんてあるの?」
とキールに同意するのはミリアだ。
「やはりな――。どうやら、私の仮説は正しかったようだ、ジョド。——まあ、その話はいい。『竜芯』から放出される魔力はどうやら特殊なもののようでな。おそらく人族やエルルート族程度の『魔素親和性』では感じ取れないもののようなのだ」
と、二人の言葉に返すべリングエル。
「『魔素親和性』?」
と、キールは聞きなれない言葉を聞いて、復唱する。
「ああ。魔素とどの程度『馴染むか』という度合いのことだが、我らドラゴン族がそれを『竜芯』だと確信できるのは、その『竜芯』から魔素が放出されているのがわかるからなのだ。——そして、その魔素は確実に人類の思考や身体に影響を与える――。小僧、あまり長い間身に付けていると、お前もレスターのように心を食いつくされるかもしれぬぞ?」
べリングエルがキールに視線を向けてそう言った。
いつも冷たい視線を放つべリングエルではあるが、今のそれはいつもよりさらに深く冷たいように、キールには感じられた。




