第913話 キール、『超高度』クラスを告白する
キール・ヴァイスの魔術師クラスは、実は『超高度クラス』であるが、その事実を知る者はそれほど多くない。
この世界の魔術師は『錬成』と『クラス』の二つの素質からランク付けされている。
例えば、『三大魔術師』と呼称されている、3人の魔術師、『氷結』、『火炎』、そして『疾風』は揃って『錬成「4」』魔術師である。
『錬成』というのは、同時に幾つの魔法元素を操れるかという数値であり、「4」とはつまり、4つの単元素魔法を同時に生成できるという意味である。
そして、この世界においては、この『三大魔術師』に加えて、キールを含めた4人のみが現在確認されている『錬成「4」魔術師』だ。
ちなみに、ミリアは「3」、アステリッドは「2」である。
そしてこれとは別に、「クラス」という分類がある。何を対象物とする魔法を発現できるかという指針だ。
クラスは全部で5段階。
『通常』、『上位』、『高度』、『超高度』、そして、『最高位』である。
それぞれ、『通常』は「物体」を対象とする魔法、『上位』は「(主として人間の)身体」を対象とする魔法、『高度』は「精神」を対象とする魔法、『超高度』は「次元」を対象とする魔法、そして、『最高位』は「時間」を対象とする魔法とされている。
ただ、『超高度』と『最高位』はこれまでは概念的なものであって、過去に実在していた魔術師で、このクラスのものは居なかった。
――『伝説を除いて』という注釈が付くが。
その『伝説』の魔術師こそ、ロバート・エルダー・ボウンなのだが、ボウンさんはすでにこの世にはなく、今は別の次元に住まう「カミサマ」である。
そして、そのボウンが本当に過去に実在した魔術師であったことを知るものも限られており、その中に『疾風』も『火炎』も入っていないのだろう。
(もしかしたら、『氷結』から情報がもたらされているかもしれないと思ってたけど、どうやら、話してなかったんだな――)
と、キールは『氷結』がキールの情報を漏らしていなかったことに少し驚いた。が、魔術師界隈にとって『情報』は何よりも貴重なものだと考えれば、それも納得できると、思い直す。
「リシャールさま、実は僕、『超高度』クラスなんですよね……」
と、キールはそのままズバリを告白する。
「ええ!? それは初耳だわ――」
と、驚く『疾風』。
実際のところ、キールが扱える『超高度クラス魔術式』は『幽体』と『空間転移』の二つだけだが、『幽体』は別次元にいるボウンさんに会いに行くため以外にはほとんど使っていないし、『空間転移』は魔力の消費が激しすぎて基本的に実用的とは言えない。
そのため、現在のところは、ほとんど『高度』クラス魔術師と差異はないのだが。
「つまり、「次元」を対象とする魔術式を発現できる――そう言うのね?」
と、『疾風』が念を押す。
「はい。まあ、かなり限定的ではありますが、物体を瞬時に別の場所に移すことは一応できます――」
「――そう、なのね。あなたが言うのだから、嘘やはったりじゃないんでしょうけど……。じゃあ、さっきのジョドの問いかけは、それを使ってってこと?」
「ええ。ただ、恐らく無理だと言ったのは、【大蛇】の瞳の奥という正確な場所に物を『移す』のが無理だからです。残念ですが、僕の使える術式にはそれほどの精度はありません」
そもそも『転移』は、移動元と移動先をかなり具体的にイメージできないと発現できないため、発現するためにはキール自身が「行ったことがある場所や見たことのある場所」に限られる。もちろん、『大蛇の頭の中』なんて行ったことも見たこともない場所だから、『竜芯』を【大蛇】の頭の中に移すなんてことは不可能だ。
出来るとすれば、『幽体』を使って、正確な「座標」を確定して、その場所に「扉」を移して、そこから『竜芯』だけを現世に戻すという方法だが、【大蛇】の頭の中に移す際に、まわりの臓器を破壊してしまう可能性が圧倒的に高い。
いや、そもそも、そんな正確な座標に扉を設置できるなんて考えるほうがどうかしている。
『幽体』でいける、あの次元の狭間と現世の相関関係だが、単純に方角は共通。ただし、縮尺は異なっており、次元の狭間の1センチは現実世界の100センチになる。
100倍——。つまり、1ミリズレただけで、10センチもズレてしまうのだ。
(いくらなんでもそんなに正確に扉を移すことはできないしな――)
だから、『無理だ』という、さっきの回答になったわけだ。
「ニデリックのやつ――。よくも私に黙っていたわね――」
と、『疾風』がボソリと低い声でつぶやいた。
恐らくはキールの『クラス』のことを言っているのだろう。
が、キールはここはあえて言葉を挟まなかった。
いや――。
挟むことができなかった、というのが本当のところだ。
それほどに、今の『疾風』の瞳は、真っ赤な炎でも灯っているかのような強い力を宿していた。




