第912話 キールにはできるか
「キール、ミリア、それから――『疾風の魔術師』リシャール・キースワイズよ。おおかたはリーンアイムとキールが言った通りじゃ。我らドラゴン族が死したのちにこの世界に遺す遺物、それが『竜芯』じゃ」
『炎竜』ジョドがそう言って、リーンアイムの後を受ける。
この『炎竜』と『氷竜』の二人のドラゴン族は、リーンアイムとは存在を異にしている。
二人は、『アストラル・ボディ』という存在であり、実は、実体がない。
ジョドやリーンアイムたちの話によれば、太古の昔、『100日戦争』を戦ったドラゴン族と前人類は、ドラゴン族が全ての人類を消滅させるという結果で終結したらしい。
が、その際、ドラゴン族の多くが命を落とし、また、生き残った者たちも回復不可能と思われる大きな傷を負ったのだという。
この世界の者たちにはそれがどういう傷なのかを想像することは難しいかもしれない。
しかし、西暦2000年代の日本を知るキールの前世、原田桐雄の『記録』をもつキールや、アステリッドなど、一部の『転生者』であれば想像できる。
――それはおそらく、核爆発による放射能汚染だ……。
キールはそのように推察している。
が、そのことについてドラゴン族たちに問いかけたことはない。恐らくだが、彼らにそう問うたとしても、正直、それであると断定することは難しいだろうと思っているからだ。
なんにせよ、戦いを生き残ったドラゴン族も生死のかかる『大博打』を打つことを迫られた。それが、特殊な術式による『アストラル・ボディ』への移行だった。
そして、その『博打』に勝ったものが全部で12体いるらしい。
そのうちの二人がジョドとべリングエルであり、残りの10体のドラゴン族は今もなお深い眠りについているという。
『博打』に負けたもの、あるいは、『博打』を打つ決心がつかなかったものは全てことごとく命を落としたと、ジョドは言っていた。
だが――。
1体だけ、『博打』を打たず、長い年月をかけて、深刻なダメージを克服した個体がその12体以外に1体だけいた。
それが、『風竜』リーンアイムである。
彼だけは、『アストラル・ボディ』へと移行せず、生身のままで傷を癒し、ついに復活を果たしたのだという。
ゆえに、リーンアイムは、恐らく現世において、唯一無二の実体を持つドラゴン族であろうということだ。
「『竜芯』には不思議な力が込められておってな。我らドラゴン族が、炎の吐息を吐いたり、翼で突風を起こしたり、超高速で飛翔したりできるのは、その『竜芯』の力が根源になっているとも言い伝えられておった」
ジョドの話によれば、そう口伝でドラゴン族の間に伝わっていただけで、それについて検証や確認が行われたわけではないという。
ただ、『伏龍紋』のように、その特別な力を用いた術式などもあることから、おそらくはそうであろうと、信じられているということだ。
「小僧とユニセノウ島へ行ったリーンアイムの話を聞いて、我ら3人は、ユニセノウ島まで行ってこの目で確認してきたのじゃが、リーンアイムの話のとおり、【クリスタルゴーレム】と湖の【大蛇】から、竜芯の欠片を発見するに至ったというわけじゃ」
「つまり、魔物の中からその『竜芯』が出てきたってことなのね? それとも、その魔物とドラゴン族は眷属ということなの?」
と、『疾風』がジョドに問う。
『眷属』というのは言い得て妙ともいえる表現か。
キールをはじめ、この世界のドラゴン族を知るものたちは、決して彼らドラゴン族といわゆる魔物が同じものだというふうには考えないであろう。
それは『疾風』も同じだという理解でよさそうだ。
「ふむ……、『眷属』か――。それについては正直わからぬと答えるほかないじゃろうの。ただ、あの2種類の魔物からは、いくらか『竜芯』の影響を受けている痕跡が感じられたのも事実じゃ。我ら3人の見解としては、だれかがあの魔物たちに埋め込んだと見ているのじゃが、そんなことが可能なものがこの世界にいると思う方が恐ろしくもある」
「誰かが埋め込んだ――だって? そんなことが――」
(できるのか――?)と、キールは考え込んだ。
「――できるのか。という問いは、むしろ、小僧に聞きたいのじゃ。お前ならそれが可能なのか、どうじゃ?」
と、ジョドがキールの考えていることを言葉にして伝えてきた。
キールは少し考えて、
「――できる、かもしれない――。いや、でも、たぶん無理だ。【クリスタルゴーレム】ならともかく、【大蛇】のようなものに埋め込むのはおそらく不可能だとおもう」
理由はそれほど難しいことではない。
「なあ、ジョド。その『竜芯』、【大蛇】のどこに埋め込まれていた?」
と、キール。
「頭の中、瞳の奥。われらドラゴン族とほぼ同じ位置じゃと言うてよいじゃろう」
と、ジョド。
「――だよね。だとすれば、僕にはやっぱり不可能だ」
キールはそう帰結する。
「え? なに? どういうこと? キールくんにはそれに近いことが出来る可能性があるように聞こえたんだけど?」
と、『疾風』が怪訝な顔をして、キールに追及の視線を向ける。
キールは、これも致し方なしと、覚悟を決めてはいた。
キール自身が、実は『高度クラス』の魔術師ではなく、『次元』を対象にした魔法を使える『超高度クラス』の魔術師であることを知っているものはそれほど多くない。
もちろん、『疾風』はその事実を知らない。
「話さないといけないですよね――」
と、キールはばつの悪そうな表情を『疾風』へと向けた。




