第909話 ヨーデル・レスター伯爵の告白
カイル王子の話は聞けた。
ただ、問題は、たとえ事実がそうだとしても、証拠が何一つないことだ。
つまり、カイル王子の話を裏付けることができないわけだが――。
「――結局は、国王の判断による裁定を下すしかないのか……」
と、思わずキールはこぼしてしまう。
「証拠が無いからね――。ただ、結局は何が信じるに値する情報かということよ――。そこは、ランバート王の手腕や覚悟の見せ所というところね……」
キールの言葉を受けて『疾風』がそう返す。
「どうします?」
キールは、『疾風』にそう告げる。
「もちろん、『次』、行くわよ」
「ですよね――。僕も、確認したいことが出来ましたし。レスター公でいいですか?」
「――さすがに魔術院へ忍び込むのは容易ではないわ。場合によっては、死者が出るでしょうし……。ウナイ院長には現場で尋問するとしましょう」
『疾風』とはいえ、「敵の本丸」へ忍び込むのは容易ではないのだろう。まあ、返事から察するに、「死者」が出ることもいとわないのなら、「行ける」というようなニュアンスだ。もちろんその場合の「死者」はケライヒシュール国家魔術院の魔術師の方だろうが――。
『疾風』はそう告げると、王子の部屋の窓へと向かう。
キールも後を追う。
カイル王子はまだ中空を見つめてぼんやりしてるが『幻覚魔法』の効果時間は5分ほどだから、そのうち正気に戻るだろう。
******
レスター公の屋敷は貴族屋敷群の中にあった。
こちらは、たいした警備もない為、難なくレスター公の寝室へと侵入できた。
キールはカイル王子の時と同じ手順でレスター公へ『幻覚魔法』を施し、体を起こさせる。
『疾風』から質問をする。
――どうして、カイル王子をそそのかした?
『ランバート王は愚鈍で、今の世界情勢にはついて行ける気がしない。ここは、退位を促した方が国の為になる』
――アルランド王子を推さなかった理由は?
『アルランドは真面目過ぎる。あれではわれらの思うようにはならぬ』
――結局、国ではなくお前自身のためではないか?
『国庫を預かるワシを、まるで小間使いのように扱うランバートにはもう愛想が尽きた。あいつには目にものを見せてやりたいとそう思っていた。これは、復讐だ』
――アルランドのクーデターをどうやってそそのかした?
『それは、簡単だ。ウナイとワシでアルランドに寄り添って話の流れを作った。あれほど生真面目なアルランドを騙すのは容易いこと』
――アルランドのクーデターを追及するのに、なにか証拠はあったのか?
『ウナイが持っている宝玉だ。それに3人でクーデターの画策をしている時の会話を録音してあった。その時のアルランドの発言を切り取った。それが証拠になった』
そこまでで『疾風』の用件は済んだらしい。
続いてキールが質問をする。
――赤い石の欠片を持っているか?
『ああ、持っている。これだ――』
そう言ってレスター公は首に提げていたネックレスを取り出す。
その先には『赤嶺石』が施されている。
キールがこれまでに何度も目にしてきた、魔物を倒した時にごく稀にドロップする赤い半透明の石の欠片――。
(これが『竜芯』なのか――?)
キールには『赤嶺石』との違いが判らない。
――この石はなんだ?
『赤嶺石に酷似しているが、違うらしい。これをくれた男がそう言っていた』
――この石は「運気が上がる」効果があるらしいな?
『その男がそのように言っていた。実際、これを身につけるようになってから、なんとなくワシに都合のいいことが起き始めたように感じた』
――その男の名前は?
『リューデスとその男は名乗った。エルルート族のようだったが、それとも違うようなそんな不思議な男だった』
――――!!
キールは一瞬、言葉に詰まった。
(リューデスと今言ったか? リューデス、リューデス・アウストリアか!)
キールは久しく耳にしていなかった男の名をこんなところで聞くことになろうとはさすがに思いもよらなかった。
『キールくん? 大丈夫?』
『疾風』がキールの反応に異常を感じてそう問いかけてくる。リューデス・アウストリアの名前は『疾風』といえども知らないようだ。
キールは、『大丈夫です――』と答えておいて、質問を続ける。
――その男に出会ったのはいつのことだ?
『さあ、どうだったか――。一年ほど前だったと思う』
――何度か会ったのか?
『いや、それっきりだ』
――どうしてお前のところにその男は来たのだ?
『そんなことは知らない。郊外を散策している時に急に現れて、従者たちを一瞬で眠らせてしまった。そして、ワシにこの石を渡したのだ。かなり高位の魔術師だと一瞬でわかった。あるいは「三大魔術師」と同等かと思えるほどに』
――その男は他に何か言っていたか?
『この石を肌身離さず持っておけ。そうすればお前の思うように事が流れる。これは「選ばれたものだけが手にすることのできる幸運の石だ」と、そう言っていた』
これ以上はもういいだろう。『幻覚魔法』の効果時間も押し迫ってきている。
『リシャールさま、まだ何かありますか?』
と、キールが一応伺う。
『いえ、もう大丈夫。とにかく証拠になりそうなものの在処がわかったことは大きいわ』
と、答えた『疾風』は、さっきと同様、窓の方へと歩みだす。
キールは、レスター公の首にかけているネックレスを奪い取ると、それを懐に押し込んで『疾風』の後を追った。




