第903話 キール脱出
ランバート王はすっくと立ちあがると、
「疾風の計らいか――?」
と、キールに確認してくる。
キールは、黙って頷くと、
「ここからは空をいきます――。少しきついですが、我慢してください」
と、念を押した。
計画では、この尖塔の窓から飛び降りたところを、超スピードで急降下してくるリーンアイムに拾ってもらうことになっている。
(それができるなら、僕を尖塔のすぐそばで降ろしてくれればいいものを――)
キールは当初、そのつもりでいたのだが、リーンアイムの計画には「その動き」はなかったようだ。
(――てか、面白がって落としやがったな、あいつ)
心内でリーンアイムに悪態をつきつつ、数分前の「格闘」を思い起こして今さらながら背中に冷や汗をかくキール。
「空――だと?」
と、ランバート王が訝し気に聞いてくる声で我に返る。
「はい。この窓から飛び降ります――。大丈夫。僕の従者が受け止めてくれる手筈になっていますが、速度が速度なので、かなりの圧力がかかると思われますので覚悟してください」
そう告げると、ランバート王は、是非も無しと頷いた。
キールは窓を開け放つ――。
リーンアイムが上空で待機しているはずで、その窓からキールたちが躍り出たのを確認して受け止めるという寸法だ。
キールとランバート王は、窓枠に登り、息を呑む――。
「下を見ないでください。足がすくんで跳べなくなりますから――。あとは僕にしっかり掴まっててください――。行きますよ!」
『物体移動』ゥ――!
ぐわあっという圧力が二人の身体に一気にのしかかる。
キールは必死に掴まるランバート王の腰に手を回し、力の限り、しっかりと抱き寄せる。
『リーンアイム!!』
思念波を飛ばすキール。その瞬間、二人の身体が、急加速した――。
「ぐう……!」と、さすがのキールも呻き声を上げる。
「むぅうう!!」と、ランバート王も歯を食いしばって耐えている。
キール自身、自分が今どういう態勢でいるのか見当もつかないが、ランバート王を落とすことだけは避けなければならないと思い、必死で耐える。
『よく耐えたな、二人とも――。もうよいだろう。少し、宙を舞うぞ?』
「宙を――?」と、キール。
「舞うだと――?」とは、ランバート王。
次の瞬間、今度はふわりと空中に投げ出される浮遊感が二人を襲う――。
「な!?」
「おお!?」
一瞬の後、二人の真下に巨大な竜が出現する――。
そして二人はその背に、見事に「着地」した。
「リーンアイム! もっと、丁寧に扱えよ! この方は、この国の王様なんだぞ!?」
キールはさすがに慌ててリーンアイムを叱責した。
『ふん! 聞くところによれば、自分の息子を躾けそこなった無能な王だというではないか。それに、我はドラゴン族だ。人族の王など、我からすれば――』
「言うな、リーンアイム!」
「いや!! この竜殿の言うとおりだ――。今命があるだけでも、感謝せねばなるまい。――竜殿、お手を煩わせてしまい誠に申し訳ない。このランバート、頭を垂れて、その恩に感謝いたします」
『ふん、わかればよい。このまま上空を飛んで、王都の外れまで行く。そこで降ろしてやるから、しばし空を飛びながら、自分の過ちを悔いてこれからの事を考えるがいい――』
そうして、リーンアイムはその後一言も発せずに空を疾駆した。
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ミリアは、魔術院の魔術師たちに、錬成「2」であっても、錬成速度や精度を上げることで、充分に戦力になることを「教示」し、その後、「実践」を行って見せた。
ミリアは錬成「3」上位ランク魔術師だが、錬成「3」で出来ることを披露したところで、ここの魔術師たちには何も参考にならないことをよく知っている。
それよりも、錬成「2」の可能性を披露し、その有用性を目の当たりにする方が、彼らにとっては数倍も参考になることだろう。
そしてそれは、彼らの魔法の訓練や研究に取り組むモチベーションへと直結するはずだ。
「――こうすることで、魔術錬成の精度が格段に上がります。もちろん、すぐにできるようになるとは言いませんが、訓練すれば届くところにあることも事実です」
ミリアは、魔術師たちの前で、『火炎』+『突風』の合成魔法、『熱風噴射』をいとも簡単にやって見せる。
そして、その噴射の強さを、自在に操り、数メートル先の的を揺らしたかと思うと。手のひらの上で木の葉を揺らして見せたりした。
要は、魔力調整と精度上昇の訓練方法の一つを披露したというわけだ。
「――また、同様に、左右の手のひらから相反する性質の魔法を生み出し、両手のひらで挟むようにして威力調整するのもいい訓練になります。以上です――」
おおぉ――と魔術師たちが唸り声を上げる。
(そんな大層なことはしてないんだけど――な)
と、ミリア自身は少しこそばゆい。
それよりも、王城内は相も変わらず静かなままだ。
時間から言って、キールの作戦もすでに完了しているはずである。
(とりあえず、何ごともなくやり切ったようね――)
ミリアは教壇を降りながら、ふっと胸を撫でおろしていた。




