第900話 キール、『疾風』に告白する
「『神の試練』なの――?」
「うん。最初は来るつもりはなかったんだけどね。そういうことになったから仕方がなく、ね」
ミリアがキールの話を聞いてそう問うてきたため、キールも正直に応じた。
「『神の試練』って、どういうこと――?」
と、『疾風の魔術師』こと、リシャール・キースワイズがすかさず問いかけてくる。
「あはは、まあ、特にどうということではないですよ。何も今すぐどうなるという話ではないですから――」
と、キールはやんわりと説明を避けようとする。
が、そんな言い訳で、ああそうなの、と引き下がる人ではない。
「詳しく話しなさい――」
と、『疾風』が少々圧力をかける視線を送って来る。
キールは仕方なく、『神候補』の話を白状することにする。
「――そんなことが……。まあ、普通じゃない子だとは思っていたけど、まさか、魔術師ボウンから選ばれた子だとは――。さすがに驚いたわ――」
と、目を丸くする『疾風』。
『普通じゃない子』とはどういう意味だ? と思いつつ、こんな「お伽噺」のような話を素直に信じすぎていないかと少々心配になる。
「この話、『火炎』にはまだ話してないから。あの人に知られるといろいろと面倒なことになりそうだし――」
と、一応の口止めをするキール。
「フフフ、たしかに――。『氷結』は知っていたのね? それなのに私に黙っているなんて――。今度嫌味の一つでも言ってやらないとだわ」
と、口角を上げる『疾風』だった。
「――それで、その『神候補』はここになんの目的で来たのかしら? まさか、『神の試練』がミリアの部屋に夜這いを掛ける――ってわけじゃないでしょう?」
「よば――!? リ、リシャールさま!」
と、ミリアが即座に反応して顔を赤らめる。
「ま、まさか――!? そんなわけ、ないだろ! ち、違うよ、ミリア、僕が来たのは『政変』の――って聞いてる? ミリア?」
キールは慌てて、ミリアに抗弁するが、当のミリアは、顔を真っ赤にして俯いて顔を両手で覆ってしまっている。
「リシャールさまっ、そういう悪ふざけはやめてください! それより、あなたこそ、どうしてここにいるんですかっ?」
『疾風』は悪戯っぽく笑いながら、
「はあ。その様子じゃ、「まだ」って感じね。あなたたちもいい年なんだから、いい加減に――って、まあ、この話はここまでにしておきましょう。私は、アルランドの死の真相を知りたくてね。彼、私の古い友人だったのよ――」
「アルランド――。ああ、処刑されたっていう第一王子でしたっけ? そうなんですね。古い《《ご友人》》――ですか」
「なによ、その疑うような目つきは。私とアルランドの間に男女の関係はないわよ? 彼とは若いころからの知り合いで、ね。最近は内政や魔術師界隈の話で相談に乗ったりしてたぐらいよ」
そもそも、この『疾風』は『氷結』と深い関係だったという噂がある。
が、その真偽のほどについて、本人たちに確認をしたことはない。
「そうですか。ご友人の死に対してお悔やみ申し上げます――。僕がここに来たのも、その政変について調べろというものでして。今日の謁見で何か分かったかい、ミリア」
呼ばれたミリアは、まだ少し頬を赤らめながら、
「私の方は特に何も……。わかったのは、王城の中は第二王子派が牛耳っているってことぐらいかな。中でも、国庫大臣のヨーデル・レスター伯爵と、国家魔術院院長ウナイ・ユーデルフォンの二人が首魁のようだと思われるわ――」
と、キールの質問に応じた。
「私の方――? えっと、それは、もしかして――?」
キールはそう言いながら、視線を『疾風』の方へと移す。
「キールくん? 私だってここに遊びに来てるわけじゃないのよ? 私の方は国王陛下に会えたわ。思っていたとおり、陛下はご病気なんかじゃなく、王城の北の尖塔に幽閉されてたわ」
と、『疾風』。そして、さらに続けて、
「――私は陛下を救い出すことに決めたわ。キールくんも手伝ってくれると、ありがたいんだけど?」
と、伏し目がちに伺いを立ててくる。
キールの「本当の目的」は、その『政変』と『竜芯』がどう繋がっているのかを調べることである。
が、今はまだ、その「真の目的」を打ち明けるわけにはいかない。
出来れば、タイミングを見てリーンアイムやジョド、べリングエルに問いただす際に強く出るための『確証』がほしい。
(手っ取り早いのは、その『竜芯』を発見することだけど――。そう簡単に見つけられるとは思えないしな――)
「キール、私もリシャールさまの話を聞いて、陛下をお救いすべきだと思ったわ。その上で、今回の『政変』の行く末をしっかりと見極めた方がいいと、そう思ってるの」
ミリアもどうやら、『疾風』の案に賛同しているようだ。
「いいのかい? ミリアは院長から、『表敬訪問』だけでいいと言われてきてるんだろう?」
と、一応釘を刺すキール。
「ええ。でも、この国の国王はまだランバート王よ? 私はまだ、陛下への『表敬訪問』は果たしていないわ――」
と、口角を上げるミリア。
キールは、そう言えば、彼女の師匠は、『氷結』と『疾風』の二人だったと改めて思い至る――。
(諦めが悪く、言い出したら聞かない上に、こういう立ち回りまで身につけてしまったか――。まあ、魔術師としては必要な資質ではある、か――)
こういう「成長」を『氷結《院長》』は快く感じているのだろうか――と、キールは少し心配になったが、今回はキールにも『試練』がある。
「わかったよ。僕も協力する――。それで? どうするつもりなのさ?」




