第898話 ドラゴン族と太古の生物
数刻前――。
キールはリーンアイムの背に跨り、空を駆けていた。
今回はアステリッドはいない。
どうも、さすがに『MItHa』の方をほったらかしにしてきたツケが回ってきたようで、デザイン制作に追われているらしい。
「キールさん、ごめんなさい! 今日はもうルドさんにデザインを上げる約束をしてしまっていて――」
と、平謝りするアステリッドだったが、そもそも急にケライヒシュール行きを決めたのはキールの方だ。悪いのはキールの方である。
「アステリッドが謝る必要などないぞ? 悪いのは小僧の方なのだからな」
と、リーンアイム。
こうなると、むしろ、キールの方が謝る流れになる。
「いいんだ、アステリッド。急に決めたのは僕の方だから、ごめん大変な時に――」
と、なだめ謝る。
「向こうにはミリアさんがいるんですよね? でも、急にどうしてケライヒシュール行きを決めたんですか?」
と、アステリッド。
キールは、実は昨日の夜、ボウンさんから呼び出しがあってね……、と、事情を説明するが、リーンアイムの前で、『竜芯』の話はまだ出来ない。
「どうも、今回のケライヒシュールの政変に、神の試練が関わっているらしいんだ。朝、院長にもそう伝えたら、ミリアも今日謁見に臨むと聞いてね。まあ、急だけど、早い方がいいらしく――」
と、少々苦しい口実を付けつつ、理由を伝える。
「――それで、我に飛べと、そういうわけだ。アステリッド、しばらく留守にするが、壮健でおるのだぞ?」
と、リーンアイムが少々めんどくさそうに告げる。
「馬車で行ったら、ミリアも帰って来ちゃうぐらい時間がかかるからね。リーンアイム、頼むよ――」
というわけで、現在に至る――。
『――それにしても、『政変』とはな。人族は相も変わらずというところだな』
と、リーンアイムから珍しく話をふってくる。
リーンアイムがキールと行動を共にしている理由の第一は、現人類の未来を見極めるというものだが、こんなことを繰り返すようでは、ドラゴン族のリーンアイムからすれば、やはり最終的に行きつくところは『全人類の殲滅』となることだろう。
「そうだな――。それについては反論の余地がないよ。幸いなのは、今回の政変に領民たちが巻き込まれていないことだけだ」
と、キールも同意するほかない。
『我の結論はいまだ変わっておらぬ。小僧、我は人類の未来に特に期待してはおらぬが……。それでも、むすめ――アステリッドの子孫が、この先生まれ出たとして、それらを焼き尽くすことには少々耐えかねる思いがあるのは事実だ――』
珍しくリーンアイムが自分の心根を話している。
「お前はアステリッドが好きそうだもんな?」
『は!? なにをおかしなことを言っておる! 我はドラゴン族であるぞ? 人族のむすめ――いや、アステリッドなど……』
「はいはい、わかったよ。今のは戯言さ。本気にするなよ」
『むむ……。アステリッドは、人族の為す行いの尊さをいろいろと我に経験させてくれるのでな。悪い気は――しておらん』
「はっ、尊さ、じゃなくて、美味しさ、だろ?」
『くっ、うるさい! 振り落としてくれるぞ!』
「ははは、そう怒るなよ。確かに人族の料理はとても素晴らしいさ。それは高価なものだけじゃなくて、市井にあるものでもそうさ。この間、エルヴィンが食べさせてくれたオストラ貝もとても美味しかっただろ?」
『うむ! あれも美味であったな! 我は今にして思えば、人の姿をしてものを食すのは、非常に楽しいものだと感じておる。この身体でものを食べるときは、味わって食べた経験がほとんどないのでな――』
「そうなんだ。ところで、ドラゴン族って、何を食べるんだ?」
『なんでも食べる、と言った方がよいのだろう。それこそ、森の木々を食べたり、海や湖の水を飲んだり、ああ、そう言えば、最近現れるようになった魔物も食べたな――』
キールは今のリーンアイムの言葉が少し引っ掛かった。
今リーンアイムは、『最近現れるようになった』と言った。
つまり、昔は魔物はいなかった、そういうことなのか?
「リーンアイム、今、お前、魔物は最近現れるようになったといったよな? それはどのぐらい最近なんだ?」
『そうだな――。我が知る限り、ここ数百年と言ったところだろうな――』
「そう、なのか――。僕はもっと昔から魔物や『迷宮』などが在ったものだと思い込んでいたよ」
『――ふむ。あのようなものは、昔は現れなかったな。もちろん、巨大な動物などはいたが、我らから見れば、そんなものは今の動物たちとさほど変わらぬ。まあ、そんな巨大な動物も、人類と呼ばれるものの誕生より前に絶滅してしまったがな――』
そうだったんだ――。
しかし、これまでのキールの知識では、この世界には、前世の原田桐雄が住んでいた地球という星みたいに、『恐竜』の様なものが存在していた形跡は見つかっていないはずだが――。
「リーンアイム、一つ聞きたいんだけど、それらの巨大な動物が絶滅した理由って?」
『ああ、それらも我らドラゴン族によるものだ。だから、いくら土を掘っても、形跡など出てこぬぞ?』
なるほど――。
と、キールは納得するしかなかった。




