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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経
新時代編

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892/925

第894話 女たちの計画


 翌朝――。

 クルシュ暦372年も9月に入った。


 ミリアは、昨日の打ち合わせ通り、屋敷を出る時にリシャールさまと合流。今日の「従者」として、共に王城へ向かう。


 もちろん、国王代理であるカイル王子に謁見するのはミリア一人だ。

 リシャールさまはその間に潜入して国王陛下と秘密裏に接触するという算段である。


「リシャールさま――あ、いえ、リーシャ、無理はなさらないでくださいね?」


 ミリアは、「打ち合わせ」の通りに名前を呼ぶのに慣れない。


「ミリア様、敬語になってますよ? 私、心配になって参りましたわ――」

と、揶揄うリシャールさま。


「あっ、む、無理はしないように!」

と、指摘されたところを言いなおすミリア。


「そんなに気にして話そうとするから、ボロが出るのよ。こういう時は、こうやって、ボディランゲージを使うの――」


 そう言いながら、リシャールさまは、唇に人差し指を当て、その後、手のひらを上に向けたまま、そっと前に伸ばした。


 「話さず先を急ぎましょう」ということなのだろう。


(なるほど――無理に話そうとせず、仕草で出来るところはそれで意思表示をすればいいのか……)


「ミリア様、私(・)た(・)ち(・)は謁見の最中《あいだ》は待合室で待機しております――」

と、リシャール、いやリーシャがそう言った。


 クスッと笑ったもう一人の従者(こちらは本物の公邸の使用人だが)、ジュリアンが後を引き継ぐ。


「――公邸のものがうまく根回しをしてくれています。謁見後は会食という流れで、会食中我々従者は待合室で食事をとる運びになっています――。その際、わたくしが、リーシャの時間を作ります」


「あ、ありがとう、ジュリアン。私は、謁見と会食が予定外に早く終わらないよう引き延ばせばいいのよね?」

と、ミリアは今日のミッションを確認する。


「大丈夫です、ミリア様。カイル王子は噂ではかなり前からミリア様を見初めておいでだったとか。普通に接していれば、延びることはあっても早く終わることはないですよ」

と、言ったのはリーシャだ。


「本当ですか、その話――」

と、泡を食ったのはミリアの方だ。


 カイル王子とは、確かに遠い昔に出会っているはずだ。だが、それはずいぶん昔の子供の頃の話で、ミリアには面影すら記憶にない。


「ホ(・)ン(・)ト(・)ウ(・)ですよ、ミリア様。そう、相手に言わせればね――。少なくとも、前の『通信装置のお披露目会』の時、カイル王子があなた様と話したそうにしてるのを見ていたものがいるのです」

と、リーシャが追い打ちをかける。


(これって、そういうことにして話を長引かせろってことじゃない……)


 本当に大丈夫かな――と、ミリアはかなり不安になってくる。



 その後、予定通りに手筈は進み、ミリアは謁見の間へ、ジュリアンとリーシャは待合室で待機という流れになった。

 メストリル公邸の管理人以下職員たちの有能さが際立つ。


「メストリル王国国家魔術院副院長、ミリア・ハインツフェルト殿――」


と、呼び出しがあり、謁見の間の扉が開く。


(さて、今日の私の戦場が口を開けたわ――)


 ミリアは一瞬唇を引き絞り、気合を入れた。



******



 一方、待合室――。


「すいません。連れの者が少し気分を悪くしたみたいで、本日のお食事は辞退させていただきます――。その代わり主人が戻るまで少し横にさせてあげたいので、シーツをお貸しいただけませんでしょうか?」

と、ジュリアンは、部屋の護衛係の男にそう告げた。

「わ、わかりました、そのようにお伝えしておきます――。それで、お体の具合は大丈夫なのでしょうか? なんなら治癒師の方を――」

と、申し出てくる護衛係に、そこまでの状態でもない、我々も魔術師ですからとこたえると、わかりました、でも、いつでもお気軽にお声がけくださいねと返して、引き下がった。。


 数十秒後、王城の使用人がシーツを一枚持ってやってきた。

 ジュリアンはありがとうと受け取ると、さっと扉を閉める。


「ありがとう、ジュリアン。じゃあ後は宜しく――。私のことは心配しないで、時間までには戻ってくるから――」


 そう言うとリシャールは、

『蜃気楼の風幕(ミラージュ・ヴェール)――』

と短い起動句を唱え、魔法を発動する。


 リシャールが編み出した術式の一つで、身体の周りに薄い空気の膜を張り、光を乱反射させることによって、視界に錯覚を起こさせる魔法だ。


 それを見たジュリアンはさすがに見たこともない術式を目の当たりにして驚いた。


「そんな術式が可能なんですか。さすがです――」

ジュリアンは視界から消えてしまったリシャールに向けてそっと言った。


「まあ、見えにくいというだけで、完全に消えたわけじゃないから――。物音も少しは消せるわ。じゃあ、行ってくる――」


 そう「声」だけを残して、気配が窓の方へと移動する。


 そして音もなく、すぅっと窓が開くと、すぐまた閉じた――。


 これで、この部屋には、ジュリアン一人だけになったはずだ。


(さあ、ここからが『本番』――。しっかりとこなして見せるわ)


 ジュリアンはそう気を引き締めると、ソファのクッションをいくつか並べ、それにシーツをかける。

 頭の部分だけは少し高くして、人が横になっているような膨らみを作った。

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