第892話 白い部屋からの呼び出し
キールは久しぶりに訪れる、「真っ白い部屋」で、「カミサマ」と対峙していた。
「タイミングを計ってたよね?」
と、キールは無遠慮に「カミサマ」――白髭じじい・神ボウンに探りを入れる。
エランの造船所からメストリルへ戻ってきたその夜に、神ボウンに呼び出されたのだ。
神ボウンは、
「たまたまじゃ。『試練』の啓示がつい先日あったのじゃ。計っておったわけではないわ」
と、一応言い返してくるが、「先日」あったのなら、その「先日」に呼び出せばいいはずだ。
この「白い空間」にはいつでも、どこからでも来れるのだから――。
「ふうん、まあいいさ。それで? 今回はどんな試練なの?」
「今回の試練は、少々込み入っておる。お前、『竜芯』を見たことがあるじゃろう?」
キールは『りゅうしん』という言葉を聞いてピンとこない。しかも、キールが見たことがあると、神ボウンは今言った。
「――ごめん、ボウンさん。『りゅうしん』ってなに? 僕には聞きなれないものだけど?」
と、応じるキール。
「そうか、認識しておらなんだのか。――ううむ、仕方がない。説明するしかないじゃろう」
と、神ボウンが少々歯切れ悪く言った。
「『竜芯』とはな、ドラゴン族が死した後に残す宝玉のことじゃ。その宝玉の役目についてはワシからは言えん。お前が自分で見つけることになるじゃろう――」
「それで、『竜』の『芯』で、『竜芯』か。でも、僕、ドラゴン族が死んだところなんて見たこと無いから、その『竜芯』も見たことないはずなんだけどな?」
と、キールは神ボウンの話を聞いてもやはり、『竜芯』を見た覚えはない。
そこから、神ボウンにしては珍しく、かなり詳細に説明をくれた。
『竜芯』――。
まさしく『竜の芯』と言えるその宝玉は、ドラゴン族が死したあと、屍を残す代わりにその宝玉を残す。
その宝玉は、真っ赤で半透明のものなのだとか。
どうしてドラゴン族にのみその宝玉が存在しているのかは言えないらしい。
例えば、人族やエルルート族などの人類種は、死したあと屍が残る。が、ドラゴン族は、屍は残さない。
これが、太古の昔に起きた「100日戦争」の時に古代人類種との戦いの中で死んでいった無数のドラゴン族の屍の跡――「化石」――が存在しない理由である。
ちなみに、その「100日戦争」で滅びた古代人類種の「化石」も発見されていないが、それは、ドラゴン族の攻撃によって、まさしく「蒸発」させられたからに他ならない。
話を戻す。
「ユニセノウ大瀑布」だと、神ボウンは言った。
「そこで、クリスタルゴーレムに遭遇したじゃろう?」
「ああ、あの水晶のゴーレムのことだね? ユニセノウ大瀑布の上の大地に行く通路の中で出会ったね」
「あれを倒した時に、赤い石の欠片を拾ったじゃろう?」
「うん。『赤嶺石』だろ? 魔物を倒した時に稀に落とすドロップアイテムだよ」
「それは、もちろん知っている。じゃが、クリスタルゴーレムが落としたあれは『赤嶺石』ではないのじゃ。あれこそが、『竜芯』なのじゃ。正確には『竜芯』が割れた欠片の一つじゃがな」
「え――? でも、そうだとしたら――」
「そうじゃのう。リーンアイムが知らないはずはない――じゃろうな」
「あいつ、もしかしてわざと『赤嶺石』だと言って――」
「何かを隠しておる――ということじゃろうな」
「――そう、か……。『竜芯』についてはわかった。リーンアイムがどうして黙っていたかは、また考える。それで? その『竜芯』と今回の試練になんの関係が?」
「今回の試練は、『竜芯』が人に与える影響について調べろというものじゃ。そして、場所はケライヒライク。つい先日起きた『政変』の舞台じゃ――」
キールは目を見開いた。
今回のケライヒシュール王国で起きた政変の顛末についてはキールもいくらか情報を得ている。
第二王子が父王と第一王子を排し(厳密には、国王は幽閉され、第一王子は斬首された)、国王代理を称して実権を握ったとか――。
「その『政変』に『竜芯』が絡んでいる? そういうこと?」
「――――。それを調べて解き明かすのが今回の試練じゃ。これ以上は自分で見て考えて行動するのじゃな」
神ボウンは、話は終わったとばかりに、テーブルの上にティーカップを出現させると、そのカップに口を付けてすすり始めた。
キールは、今回の試練の『終点』が見えなくて途方に暮れる。
「解き明かす? って、どういう――」
「言葉通りじゃ。ある程度進んだら、また『啓示』が下るはずじゃ」
そう言うと、神ボウンは、手の甲をこちらに向けて、「もう下がれ」というようにひらひらと振った。




