第884話 政変伝わる
ケライヒシュール王国で起きた騒動の情報は、あっというまに全世界を駆け巡った。
このあたり、現在もなお、各国国家魔術院の諜報活動がしっかりと機能していることがうかがえる。
さしあたり、この『政変』の対応に追われる形となるのは、隣接国の各々だが、ケライヒシュールと隣接している国は、ヘラルドカッツ、メストリル、ヒストバーン、ケウレアラの4か国である。
ケライヒシュール王国は、カイル第二王子の国王代理就任と、第一王子アルランドが国家反逆罪にて処刑されたことを、書簡にて各国に伝えた。
国王ランバート・ケライフは、病に倒れ、国家魔術院の治癒術師たちが看病しているという。しかし、状態の改善の見込みはかなり低いということも、併せて通達された。
これを受けて、メストリルでも対応を検討する会議が開かれた。
「ウェルダート、どう思う?」
という、『英雄王』のあまりにぶっきらぼうな質問に対し、この優秀な政務大臣ウェルダート・ハインツフェルト公爵は、
「十中八九、陰謀でしょうな」
と、これまた無遠慮に返す。
「ニデリック、どうだ?」と、次に国家魔術院の院長である『氷結』に問いかける『英雄王』。
「ウェルダート卿の見立ての通りです。ランバート王は前日まで意気軒昂に馬術訓練などをされていた様子。年齢もまだ60に届いておりません。おそらくは、国家魔術院に幽閉されているといったところでしょう」
と、『氷結』ニデリック・ヴァン・ヴュルストが返した。
「そうか――。つまり、第一王子アルランドは嵌められたということか。そうなると首謀者は、第二王子のカイルか――。これだから、俺は、『一代王』を宣言したのだ。王家のしがらみは血で血を洗うものになりやすい――」
『英雄王』は吐き捨てるように言い放つ。
「――まあ、これも王家の慣習というもの。我が国には『お世継ぎ』が一向にできませぬゆえ、これはこれで問題なのですが」
と、ウェルダート公爵が、『英雄王』に対して皮肉をこめて言い返す。
「――そんなもの俺は知らん。俺のあとのことは、お前たち貴族どもが好きにやればいい。幸いこの国には、『王家』が無いのだからな?」
『英雄王』は、元冒険者であり、先王の願いを聞き入れ、現メストリル国王の座に就いたに過ぎない。
それは、当時の貴族の力関係が微妙で、先王に子は無く、世継ぎが居なかった為、貴族間の権力闘争へと発展する恐れがあることを危惧した先王の判断であった。
一人残されていた先王妃も、『英雄王』の庇護のもと、つつがなくお過ごしになり、先王の死から20年後、その生涯を静かに終えられた。
「それより、少々厄介なことになったな。カイル王子が国王代理となったというが、俺たちはいま、鉄道事業を推し進めているところだ。もし、ケライヒシュールが協力しないとなれば、ここまで鉄道が伸ばせない可能性がある」
と、『英雄王』。
「――はい。その点についてなのですが、やはり一定の圧力をかけたほうがよろしいのでしょうか?」
そう聞いたのはウェルダート公爵だ。英雄王は、
「どうだろうな……。まあ、しばらくは様子見というところだろうな。西の王子がどう立ち回るかも見てみたい気がするしなぁ? 放っておいてもカーゼルの奴が手を打つだろう。俺たちは黙っていても、今のところは大丈夫だろうさ――」
と、答えた。
これを受けて、『氷結』は国家魔術院の方針を決定する。
「そうですか。でしたら、私は私の出来ることをするとします。ケライヒシュールへの諜報員を増員し、動向を注視するとしましょう」
と、ニデリック。
「ああ、そうしろ。それにしても殺さなくてもよさそうなものを――」
と、英雄王が思わず零した。
「アルランド王子は残念でした。人民からの人気はいまひとつでしたが、国家の行く末をよくお考えになっている方でした。たしかにランバート王とは意見の食い違いもありましたが、それゆえにランバート王も熟慮なされておられた様子でしたから――」
ウェルダートがそう言った。
ウェルダートは、人気取りにばかり走り国家の舵取りなどろくに考えもしない第二王子などよりは、嫌われても国のことを考える第一王子のほうが王位にふさわしいと思っていたところだ。
「ランバートの身から出た錆というやつだろうが……。悲しいものだな。ランバートももう長くは生きられないだろう。せめて、苦しまずに逝かせてやってほしいものだが――」
市井でのことなら不可能なことは無いと思えるほどの影響力を持っている『英雄王』をもってしても、他国の王家の内紛にまでは手が出せない。
何とかしてやりたいと思う反面、これも『道理』と割り切るしかない切なさがある。
そんな『英雄王』に、ウェルダートが言った。
「陛下。これが王家の慣わしです。我が国に再び王家が立てば、こういうことも避けられなくなります。実は前々から考えている方策があるのですが、打ち明けてもよろしいでしょうか?」
「なんだ? 急に改まって。俺はいつでも聞くぞ?」
「――ありがとうございます。それでは申し上げます。恐れながら、この国にはもう『国王』は必要ないのではないかと、そう考えております」
その言葉を聞いた『英雄王』は一瞬、かっと目を見開いた。が、すぐにいつもの意地悪そうな、それでいて穏やかな目に戻る。そして、こう言った。
「ウェルダート、よく言ったな? 俺はもういらねぇと、そう言うんだな?」
言葉こそとても威圧的であるが、その声色に『敵意』は込められていない。
その証拠に、身体は前傾姿勢になっている。
むしろ、何か面白いことが始まるのかという『好奇心』の方が勝っている時の『英雄王』の仕草だった。




