第874話 帰郷した騎竜魔導士
「――と、そのような状況です」
ミリアは『英雄王』と、自分の父であり政務大臣でもあるウェルダート卿に報告を終える。
先程、メストリーデに戻ってきたばかりのミリアは、一番に自分の役目を果たしに来たというわけだ。
とはいえ、キュエリーゼ王国から始まる『鉄道敷設』の大工事が、このメストリル王国領にまで延びてくるのはまだまだ先の話だろう。
今のところは、ウィリアム王子が本気でこの事業に取り組んでいることさえわかればそれでいいというところだ。
「うむ、ミリア、ご苦労であった。下がっていいぞ? しばらく会ってなかった仲間たちも王立大学で待っていることだろう。かまわんな、『氷結』?」
『英雄王』が、この場に居るもう一人の男、魔術院院長のニデリックへ確認を取る。
「――はい、私の方は構いません。これ以上ここに留め置くのは意地が悪いというものでしょう。よろしいですか、ウェルダート様?」
ニデリック院長が今度はミリアの父、ウェルダート卿の方へと視線を向ける。
「――どうして私に聞くのです、『氷結』殿もお人が悪い――。ミリア、ご苦労であった。院長への報告はまた明朝ということにさせていただきなさい。下がって構わないよ」
父はそう答えた。その目にはいつもの優しい色が見て取れる。
「――はい。それでは、失礼いたします。父上、少し遅くなります」
ミリアは、この際だから言ってしまえ、と半ば勢いで口にした。
報告前にすでに『英雄王』が気を利かせてくれ、キールとアステリッドがまだメストリルに留まっていることを聞かされていたミリアは、久しぶりに出会う愛する人と愛しい『妹』のところに飛んでいきたいのを堪えて報告を終わらせたのだ。
少しぐらい「ご褒美」を頂いても悪くないだろう。
「う……、わかった。だが、母上が心配せぬほどにな? 私からも伝えておく――」
父上がすこし眉を寄せながらそう答える。
その様子を見ていた『英雄王』と『氷結』が少し表情を崩すのがミリアにも見えた。
「はい。もちろんです――」
そう応じて、『英雄王』に最敬礼をして、ミリアは踵を返し、駆け出したい衝動を堪えながら、努めて平静を装って入り口扉まで向かい、部屋を出た。
(やっと終わったぁ!! ああ、もう待ちきれない――!)
ミリアはその場からとうとう駆け出す。
もちろん行先は、デリウス教授の部屋だ。
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「キール! いるの!?」
そんなふうに大きな声を響かせて、部屋に入ってきたものがいた。
リーンアイムは、教授席に背を預けてうとうとしていた。
さっき戻ってきたばかりなのだが、城下町で食べてきた「はんばーぐ」と「ふれんちぽてと」のおかげで腹が膨れ、眠気に襲われていたところだったのだ。
「何事だ!? そんなに大声で――。ああ、『姫』の方か」
リーンアイムは入り口扉を開けて部屋に入ってくる人影を見てミリアだと認識し、そう応じる。
「――あれ? リーンアイム、一人、なの?」
「ああ、我もさっき戻ってきたところだが、帰ってきたときには誰もおらなんだぞ? 女教授のところへ行っておるのではないか? アステリッドは今日は女教授のところへ行くと言っておったからな?」
「そう。わかったわ、ありがとう。邪魔したわね?」
「ん? ああ、気にするな。ああ、それからアステリッドに会ったら伝えておいてくれ。今晩の晩飯は気にしなくていいとな? 我はもう腹いっぱいだから、休むことにする――」
「え? まだ夕方にもなってないわよ? 本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だ、腹が減ったら、これを食べるつもりだからな」
そう言いながら、リーンアイムは教授机の上に無造作に置いてある紙袋を摘まみ上げて見せる。
紙袋の表面には何やら見慣れないロゴマークがついているが、ミリアは初めて見かけるマークだ。
「何それ? 何か食べ物なの?」
「おお、ミリアはこの店を知らぬのか。美味いぞ? とくにこの『ふれんちぽてと』は病みつきになるぞ? 店でも食したのだが、持ち帰りもできると言うのでな。袋一杯にして、貰ってきたのだ」
「『ふれんちぽてと』って? ――ああ、皮つきフライドポテトのことなのね」
ミリアは袋の中身をリーンアイムに見せられて、それが、皮つきジャガイモの素揚げであると知ると、
「わかったわ。じゃあ、行ってくる。リーンアイム、食べ過ぎてお腹壊さないようにね?」
と、部屋をあとにして、エリザベス教授の部屋へと向かった。




