第871話 古代のプログラム
『生成AIという言葉は知らない。あなたが今私に訊ねたのが私が何者であるかという問いであるならば、私は私だと答える』
それが、一行目だった。
その先に続く文章を読み進めたキールは、自分の「問い方」が『間違っていなかった』ことに確信を持つ。
続きにはこうあった。
『もし、それで納得できないというのなら、まずは『生成AI』という言葉の定義をあなたが答えるべきだ。そうすれば、それが是か非か答えることができるかもしれない。鳥にお前は鳥かと問うても、鳥という言葉を知らない鳥は「私は私だ」と答えるだろう?』
この回答から、キールは「こいつ」が『生成AIではない』ということを知ることができた。
「こいつ」はいわゆる『生成AI』ではないか、あるいは、同種のものであったとしても、『地球由来のものではない』ということだろう。
キールは次の質問を投げてみる。
「わかった。生成AIという言葉は忘れてくれて構わない。質問を変える。君に名前はあるのか?」
カーソルの明滅――。
そして、数秒後。
『名前、か。私の中には、マンフレッド・ランズダウンという人物の膨大な情報が保存されている。しかし、私は彼ではない。私はその情報に沿って、あなたの質問に答えるのみだ。そして、その情報も、おそらく完全なものではない。いくらか欠落している部分があり、連続性も無い。もしあなたが私に名前が必要だと言うのなら、好きに名付ければいい。私はそれを受け入れよう』
そう返してきた。
なるほど――。
少なくとも、「こいつ」が太古の人物の情報を持つ応答機能であることには間違いがなさそうだ。
しかも、こちらの質問をしっかりと把握でき、ある程度適切な解答を返すことができるぐらいのものでもある。
そうなると、あとは、「こいつ」には「どこまで可能なのか?」という問題が残っている。
キールは続ける。
「わかった。名前のことは一旦置いておこう。君には何ができるのか、それが知りたい」
やはり、カーソルが数秒明滅――。
『私に出来ること。私にできるのは、私の中にある情報から、質問者の問いに答えること、今はそれだけだ。接続が切れている。接続が再開すれば、私はさらに多くの情報を手に入れ、あなたの質問に答えることができるだろう』
キールは、おおかたを把握した。
おそらく「こいつ」は、生成AIとまでは行かないまでも、情報を集約して回答を返すことができるプログラムだ。
「こいつ」が言った「接続」とは、おそらくは、キールの前世、原田桐雄の世界でいうところの「インターネット接続」のようなものではなかろうか。
そうだとすれば、話の辻褄が合う。
現在この「パソコン」は単独で起動しており、この世界に「インターネット」は存在していない。
「こいつ」が言う情報の欠落が、それが原因であるのなら、説明は付く。
キールは一旦ヘッドセットを外して、エリザベス教授に問いかける。
「教授。「こいつ」はもしかしたらかなり危険なものかもしれません。少なくとも、幾らかの太古の人物に関する情報が内包されているようです。扱いは慎重を期する必要があります。その上で、ですが――。彼には名前を付けた方がいいでしょう。彼との対話の際に、名前がある方が何かと便利かも知れないですから――」
エリザベスは、キールの言葉を聞いて、少し考え込む仕草を見せ、
「なら、『フレディ』というのはどうかしら? 愛称のように短いものの方が呼びやすいでしょう?」
と、答える。
「いいですね! フレディ、かわいらしいし親近感もあります!」
と、アステリッド。
「まあ、いいんじゃない? 私もさんせー」
と、ハルも応じた。
「こいつ」が今後どの程度の知能を持つプログラムなのかは今後、慎重な調査が必要だろう。
それでも、おそらくは長い付き合いになるかもしれない存在だ。
少なくとも、キールたちレント族よりは長く生き続けるだろうし、あの「バレリア遺跡」から掘り出され、今もなお稼働できているのだから、耐久性もかなりのものだ。
(寿命という話で言えば、ドラゴン族に匹敵する可能性もあるかもしれないな――)
キールは、再びヘッドセットを装着し、画面の方に目を向ける。
おそらくのところ、「こいつ」にはキールが今目の前に座っているという認識はないだろう。
(でも、不思議だよな――。質問に応答してくれるだけで、まるで、目の前に「誰か」がいるように感じるんだから――)
そう思いながら、キールは口を開く。
「またせたな。さっきの名前の話だ。君は名前をこちらで決めていいとそう言った。この先、君とは長い付き合いになるかもしれない。だから、名前を付けることにする。君の名前は、『フレディ』。それが今日から君の名だ」
カーソルの明滅――。
そして――。
『わかった。私の名前は『フレディ』。以降、私は私を『フレディ』と呼称することにする』
画面の文字はそう返してきた。




