第865話 キュエリーゼ王城での『決起集会』
食事会は滞りなく進んでゆく――。
ウィリアム王子、もとい、ワイアットは、ここまでの話を大まかにまとめてみる。
「まずは、鉄だ――」
ワイアットはそう切り出した。
何はなくとも大量の鉄鉱石が必要なことは明白だ。
「これは、アーノルドがすでに交渉に入ってくれている。レクスアースの方でも鉄鉱石採掘事業を新規に立ち上げ、キュエリーゼとレクスアースの2国で採掘と製鉄態勢を敷き、随時供給していく算段だ」
ワイアットの弟、アーノルド王子とレクスアースの王女ステファニーは婚約関係にある。
レクスアース王国とキュエリーゼ王国の関係は確実に良化しているため、この交渉は十中八九問題ない。
しかし、製鉄して現場に運ぶためにはまだ時間がかかるだろう。
「その間に、クリストファーは、発電所の設置に入ってもらいたい。アリスターにはキュエリーゼの職人ギルドとチームを組んでもらい、『機関車』の製作に入ってもらう――」
『機関車』というのは、動力車であり、貨車を引いて走る車両のことだ。
「あと、アリスターには、機関車の設計とともにレールの設計もしてもらわなければならない。レール幅と機関車の車輪幅を揃えておかなければ、脱線してしまうからな――」
おそらく一番難しいのは、このレールの敷設だろう。
「――その為、アーノルドが戻り次第、土木事業も立ち上げる。おそらく、機関車の製作にもそこそこ時間がかかるだろうから、その間に、測量と地盤づくりを進めるつもりだ」
列車を走らせるルートや地盤の固さなども調べながら進めていくしかない。
「幸いなことに、このローベから、カインズベルクまでの間に大きな河川はないから、基本的には、大きな橋を架ける必要はない。最初の路線は、確実に物資を届けることを念頭に、ルートを選定するつもりだ」
ワイアットはここまで話して、皆の顔色を窺う。
こうやって言葉で表すだけでも、かなり大掛かりな事業になることが明白だ。
おそらく、この先、事はトントン拍子というわけにはいくまい。
「まず第一目標は、自立型機関車を走らせること、だ。それが出来て初めて、今度は、供給型機関車の構想になる。だが、最終目標はその供給型鉄道だから、レール敷設段階では電柱設置も視野に入れて進めていく――とまあ、そんなところだ」
ワイアットはそこまで話すと、ようやくグラスに手を伸ばし、喉を潤した。
そのタイミングを見て、クリストファーが口を開く。
「――ワイアットさん、労働力を集めるために、各国の商人ギルドへも働きかけてはいかがでしょう。もしくは、冒険者ギルドもいいかもしれない。『物』も大事ですが、この事業の要は『物』よりもむしろ、『人』です。力もそうですが、何より期間が問題です。長期にわたる事業を支えるには、『人』とその生活も考えなければなりません」
クリストファーの言葉はもっともだ。
もちろん、ワイアットもそこは承知しているし、クリストファーもワイアットが何も考えていないわけではないことぐらい承知しているはずだ。
この質問は、むしろ、アリスター、ミリア、フランソワに、より明確なイメージを持ってもらうために、敢えて口にしたのだろう。
ワイアットは、「さすが、教授、そのとおりだ」と、応えておいて、これに応じる。
「もちろんそのつもりだ。まずは近隣各国の商人ギルドに求人をかける。森を切り拓く必要もあるだろうから、ただ工事夫が居ればいいというわけじゃない。魔物や動物の対策のための警備役は、王国軍の投入だけでは賄いきれないだろう。そこは冒険者ギルドへも打診する必要がある」
「はい。これまで、私も方々で発電所建設を行ってきましたが、一番問題だったのは、安定した労働力の供給と、その労働者たちの安全確保でした。ここに対する投資を怠ると、工事の進捗が進まず、余計に時間と経費が掛かってしまいます――」
ワイアットの言葉にクリストファーが応じる形で『説明』が続いて行く。
その後も、クリストファーの質問にワイアットが応じるという形で、この鉄道事業の概要を言語化していく作業がしばらく続いたが、アリスターもミリアもフランソワも、うんうんと頷き、話の内容を理解したようだ。
「――とにかく、だ。この事業を進めるにあたって一番大事なのは、本末転倒にならないことだ。鉄道敷設はもちろん急ぎたいが、無理をして人を大勢失うなんてことにならないように安全と衛生管理には細心の注意を払って進めていく。皆が幸せになるために、工事関係者の家族が不幸になるなんてのは最悪だからな」
と、ワイアットは最後にそう告げた。
ワイアットの想いは、しっかりとこの場のものには伝わっただろう。それだけでも、この時間は有意義だったと、そう感じている。




