↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経
大世界編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
856/925

第858話 夜に動く


 キールが「夜に動く」ということは、それは、隠密行動を意味する。

 なんだかんだ言っても、キールは魔術師なのだ。


 人には表の顔があれば裏の顔がある――。


 そういうものだと、キールは思っている。


 その「表裏」がほとんど変わらない人ももちろんいるが、むしろそういう人の方が希少で少数派だということは考えるまでもない。


 少なくとも、「社会」で見せている表情や人となりと、「家の中」で見せる表情や人となりの間には、多少なりとも差があるのが当然のことだ。


(裏の顔を見るのは夜がいい――)


 なぜそうなのか――。

 夜は「社会」が身を潜めるからだと、キールは思う。


 この公国の領主である、シャルリンド伯爵がほとんど伯爵邸から出てこないことはジルベルトの調べで明らかになっている。

 まだ独身で、邸宅では十数名の使用人と共に暮らしているらしい。


 調べによれば、その使用人たちとシャルリンド伯爵との関係もとても良好で、使用人からシャルリンド伯爵に対する不満の類いは聞けなかったとジルベルトが言っていた。


(ここだな――。さあて、どうやって入り込むかだけど――)


 邸宅から少し離れた場所に身を潜め、邸宅の様子を窺うキール。

 2階は、シャルリンド伯爵の部屋にはまだ灯りが付いているが、そのほかの部屋はすべて消灯されている。

 1階のほうは、玄関と、ほか一部屋に灯りが付いているが、その部屋はおそらく使用人の部屋だろう。

 その玄関には衛兵が二人、門番をしている。


 使用人の人数は全部で16人という報告が上がっている。

 この16人すべてに『幻覚魔法』を使うのはかなり困難だ。効果時間も考えれば、全員を幻惑するのは、ほぼほぼ不可能だ――。


(仕方がない――。実戦初投入だけど、使ってみるか――)



――『光偏幻装《プリズム・ヴェール》』。



 対象の物体に偏光幕を被せて、相手の視界からその物体を見えなくするという魔法だ。

 『真魔術式総覧』のなかに収められていた魔術式で、最近の研究成果の一つでもある。


(自分自身にかけるのはこれが初めてなんだよな――)


 まあ、うまく行くかどうかは置いておいて、併せて、隠蔽系の魔術式を使って忍び込むしか方法は無いだろう。


(体術の方は『氷結』仕込みだからな――。僕も随分と、体力や敏捷性に自信がついてきたよなぁ)


 その体術を、こんな隠密行動に使っているということぐらい、『氷結』もすでに見抜いていることだろう。


(――ていうか、そもそも『氷結』も魔術師だからな。そのぐらいは当然想定内だろうさ)


 キールは自身に『光偏幻装《プリズム・ヴェール》』の術式をかける。


 その上で自分の腕を目の前まで上げて見せた。


 何と言えばいいか、不思議な「見え方」だ。

 「腕」は「腕」に見えないが、「腕」があるのはなんとなく見える。


 しかし、おそらく遠目で見たら、そこに何かがあるというを認識するのはかなり難しいだろう。


(――ん? 『光学迷彩』って、どこかのマンガかアニメに――)


 まあ、いい。

 とにかく、これならいくらか誤魔化せるはずだ。


(さあ、いくぞ――)


 キールはそう心を決めると、邸宅の方へとゆっくりと近づいて行った。



******



 ロレアル・ヴァン・シャルリンドは、自室で、報告書に目を通していた。

 今日の報告書の精査ももう少しで終わりそうだ。


 時間はすでに深夜1時を回っている――。


 とは言っても、これもまあ、いつものことだ。


 最後の報告書に目を通し終わり、寝床に入ろうと椅子から立ち上がったとき、窓がコツコツと音を奏でるのが耳に入った。


(来たか――)


と、ロレアルは、驚きもせず、想定していたことが起きたことに喜びすら感じている。


「一応、聞いてもいいかい? こんな夜更けに窓からとは、どこのどちらさんだい?」


と、声を掛けてやる。

 とはいえ、もちろんその人物の名前が何であるかはすでに『知っている』。


「すいません、夜分にこんなところから――。キール・ヴァイスと申します」


 うら若き青年の声。

 まさしく、あの声だ。


「キールくん。『稀代の魔術師』が私になんの用かね?」


 もちろん用件も『知っている』。

 が、敢えて聞くのが楽しいのだ。


「――実は、折り入ってご相談がありまして。ゲルカール商会とジェノワーズ商会の業務提携の件についてです」


 声の主はそう返してくる。

 想定内だ。


「どうしてこんな夜更けに?」

と、また、わかっていながら聞いてやる。


「昼間は警戒が厳しく、正面から会うしかないですからね。一度でも断られたら、二度と出会えない可能性もあります。僕はどうしてもあなたに会わなければならなかったんです」


 その通りだ。

 一度でも相手に警戒されれば、相手を出し抜いて話しかけるなど、なかなかにできるものではない。

 それを考慮して、100%話せる方法を取ったということだろう。

 現に今、こうして会話をしている。


「思考が魔術師的だな――。でも、商人には商人のやり方があり、貴族には貴族のやり方がある。魔術師が自分の本分を通すのももちろん悪くない――。わかったよ。今開けてやるから、静かに入っておいで。是非、会談をしようじゃないか」


 ロレアルはそう言いながら、窓の方へと歩みを進めると、カーテンを引いてテラスを見た。


 そこにはまさしく、『稀代』が居た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。