第857話 次の一手は
「どうだったよ?」
とは、ジルベルトの問いだ。
キールたち一行は宿に戻り、ジルベルトと合流している。
「なんか、別に普通に良い方でしたよね、キールさん」
とはアステリッド。
「我も、特に邪悪なものは感じなかったぞ?」
と、リーンアイムも言った。
「う~ん、そうなんだよなぁ~」
キールも二人とほぼ同意見だ。特に不審に思うところはない。どころか、むしろ、下調べもしっかりしている上に、理念もある。
申し分ない、というのが本音だ。
「だろ? やっぱ、ルイの親父の言葉が当てになんねぇんじゃねぇか?」
と、ジルベルト。
たしかに、ジルベルトの言うとおり、その前提を除いて考えれば、何もおかしなところはない。
なら、どうして、ジルの親父さんは、『敵対するな』といったのだろう?
「敵対するな――か……。あれ? もしかして、僕たちは見方を間違ってたってそういう可能性はないか?」
と、キールは何かが閃いたような気がしてそう言った。
「見方――ですか?」
と、アステリッド。
「見方って、別に俺たちは――。あ。何かあるに違いないって、そう思い込んでいるってことか!!」
と、ジルベルトが腑に落ちたような声を上げる。
「うん。ルイの親父さんは、『シュニマルダとゲルカールには敵対するな』と、ルイにそう言ったんだよな? 僕たちはシュニマルダと並列に置かれているゲルカールに何らかの負の部分があるってそう思い込んでいた――」
そう言ったキールの言葉に、
「え? だって、シュニマルダですよ? あの凶悪暗殺者集団ですよ?」
と、アステリッドが声を上げる。
「嬢ちゃん、凶悪暗殺者集団って――。元メンバーを目の前にして言うかよ?」
と、ジルベルトが嘆息した。
「えー? 間近で見たら、そうとしか見えませんよ、ジルベルトさんも。あ、でも、シルヴィオさんは結構ああ見えて紳士的なところもあるか――」
と、アステリッドがさらに追い打ちをかける。
「はぁ? シルヴィオの奴が紳士的だって? おいおい嬢ちゃん、冗談はよしてくれよ?」
と、ジルベルトが肩をすくめる。
「おい、小僧。アステリッドをさっきから嬢ちゃん嬢ちゃんと呼んでいるが、次そう呼んだら、我の爪がお前の喉を切り裂くぞ?」
と、リーンアイムが唸った。
「リーンアイム、そういうの、要らないから――」
と、キールはリーンアイムを制しておいて、
「まあ、冗談はさておき、だ。見方を変えてみれば、ゲルカールの清潔さには特に問題がないのだから、仲良くするべきだという風に捉えることもできそうだ――。でも、わざわざそれだけの理由で、シュニマルダと並列して言及するのも、すこし、不審だよな――」
キールは、やはり、何かが腑に落ちないという感がぬぐえない――。
「――仕方がない。結局『あの人』に会うしか、もう手立ては残っていない――か」
と、キールはある人物を念頭に言葉を発する。
「あの人って、誰のことですか? あ――。でも、それって――」
と、アステリッドも気がついたようだ。
「だろうな――。普通の人間ならかなり難しいが……。旦那なら、問題ない――か」
と、ジルベルトも同様の答えに辿り着いていたように聞こえる。
「誰のことだ? 美味いものが食えるならどこにでも連れてってやるぞ?」
とは、リーンアイム。
こいつは本当に食べ物のことしか考えていないのか。
「いや、これは、僕の『本分』だ――。むしろ僕一人でなければ難しい仕事だよ。だから、みんなはここで待っててくれ」
と、キールも覚悟を決める。
「あまり、正攻法というわけじゃないから、出来れば取りたくない方法だったけど――。でも、見極めないといけないというのも正直なところだ。もし仮にゲルカールが悪事に手を染めているような団体だったら、間違っても『娼館ビジネス』で手を組むわけにはいかないからね――」
キールも関わった以上、『娼館ビジネス』が悪の温床になるのを黙って見過ごすわけにはいかない。
そもそも、そんなことになるのは、『娼館』を公に制度化した『英雄王』の本意ではないはずだ。
「――というわけで、今夜、行ってくるよ」
と、キールはまるで旧友の部屋を訪ねるかのような口調で、そう宣言した。
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『稀代の魔術師』キール・ヴァイス――か。
不思議な青年だったな……。
それが第一印象だった。
フォルツ・ゲルカールは今日の会談をとても楽しんだ。
あの青年は、錬成「4」高度クラスの魔術師だと言われている。
フォルツの集めた情報によれば、彼が使用する術式の中でも、もっとも恐ろしいのは、『幻覚魔法』だという。
対峙したものに幻覚を見せるという術式なのだそうだが、そんなことができるというだけで、恐怖どころか、近づきたくもないとそう思う者は多いだろう。
だが――。
実際に会ってみると、とても、そんな恐怖や威圧を与えるような青年には見えなかった。
むしろ、誠実で真っ直ぐで正義感に溢れているように見える。
(――だが、やはり、魔術師は魔術師だ)
魔術師は、国家の重責を担うものも多い非常に希少な人材だ。
現に、このリトアーレ王国においても、少なからず魔術師たちが国家を支えるために登用され、影に日向に政治を支えている。
が、その『影』の部分が問題なのだ――。
(場合によっては、血で手を汚すことなどなんとも思ってない連中だからな――)
さあ、キール・ヴァイス。
『表』からは上出来だった。次は『裏口』を開けて待ってるぞ――。
フォルツは思わず、口角を上げていた。




