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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経
大世界編

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第856話 ゲルカール商会の方針


「――ゲルカール商会さまとシャルリンド伯とのご関係は、かなり親密なのですね?」 


 キールは、少し探りを入れてみる。

 

「――こちらも少しお調べいたしました。ゲルカール商会さまの本業は材木商と聞いておりますが、現在では幅広くいろいろな事業を展開為されている様子。そして、その事業は基本的にはこのシャルラザン公国内事業となっていますね」


 これはジルベルト情報だ。

 事実、ゲルカール商会の各部の営業所はすべてシャルラザン公国内に存在している。


 この質問に対し、フォルツ・ゲルカールは、特に表情を変えず、


「ええ。お察しの通りです。実は、シャルリンド伯と私は旧知の仲でしてね。当会の事業展開のなかには、伯の政策に合わせて立ち上げたものも多くあります。伯のご期待に沿えるようにと務めさせていただいております――」


と、正直な返答だった。キールは、質問を続ける。


「――街並みも拝見いたしましたが、とても治安が良く、経済的にも潤っておられる。住人からのこちらの商会に対する評判も非常に良いようです。本当にこの街に、『娼館』のようなものが必要なのですか?」


 これはさらに踏み込んだ質問だ。

 『娼館』というのは、その『必要性《ニーズ》』が無ければ、単純に治安を悪化させる方に働く部類の事業である。

 性風俗という部類は、かなり慎重に扱うべきであり、無ければ無いに越したことは無いというのがキールの本音だ。


「伯は――」

と、フォルツ会頭が切り出す。

「この公国内で今なお『女衒』『人買い』の類いが存在していることを、忍びなく思っておられるのです。先程も申しました通り、これを一掃するためであれば、『毒饅頭』を敢えて喰らうご覚悟であるというところです」


 覚悟は決まっている――。そういうことだろう。


「――そうですか。その点についてもお考えの範疇にあるということはわかりました。今日のところはこちらからの質問は以上です。そちらからのご質問などはありますでしょうか?」


 今度は質問を引き出すことで、相手を観察しようと仕掛ける。


「――そう、ですね。ルイ・ジェノワーズ会長とキール様は古いご友人だと聞いております。その昔、ルイ会長とキール様はそれほどいい間柄ではなかったという話を耳にしております。どうして今は、ご一緒に事業を?」


 キールは全く意図していなかった方向からの質問に、思わず眉を動かしてしまった。

 この表情の変化はしっかりと目撃されたと思った方がいいと判断する。


「――よくお調べになっていますね。まったくその通りです。私とルイは昔も今もそれほど『いい友人』ではないとそう思っています。彼の父が急死したこともご存知なのでしょう? 実は、あの事件に私は無関係ではないのです」


 キールはここはある程度本当のことを話そうと覚悟を決める。


「詳細は控えさせていただきますが、私としてはいくらかルイに対して負い目を持っていると言ったところでしょうか。それに、当時のルイはかなり商人としては未熟でしたから。少しでも彼の事業の助けになれるならと、そう思って手伝うことにしたというところです」


 まあ、実際のところは『管理・監督』の為であるが、大筋では間違っていないし、気持ちとしては『嘘』ではない。


「そうでしたか――。それから、最近『稀代』様は海での事業をお考えになっていると、そう伺っております。これまで各国家があまり目を向けてこれなかった海には、やはり大きな商機があるのでしょうね?」


「ゲルカール商会さまも、海洋事業に興味をお持ちですか?」


 ここは敢えて質問形式で返す――。

 こちらからの情報提示ターンはここまでで、次はそちらの番だと言わんばかりのあからさまな返しだ。


 が、フォルツ会頭もそこは承知の様子で、声色に変化もなく、


「興味がないといえば嘘になります――。が、われわれゲルカール商会は、今や、シャルリンド伯の政策を支援することに存在価値があると、そう思っております。残念ながら、シャルラザン公国は内陸領です。海洋事業は直接的には関われないでしょう」


と、応じた。


「――間接的には、可能性があるということですね?」

「さあ、どうでしょう。シャルリンド伯次第といったところでしょうか、ね」


 ここは上手くはぐらかされたという感じだ。


「――キール様。お忙しい中、お運びくださってありがとうございました。魔術師として御高名なあなたさまですが、経済人としても、お噂はこんな小公国にまで響いております。今日はお会いできて本当に嬉しく思っております。『娼館』事業の件、よいお返事が頂けることを願っております」


「フォルツ会頭。こちらこそ突然お邪魔したにもかかわらず、お時間を頂けましてありがとうございました。ルイ会長ともご相談の上、改めてお返事申し上げます。それでは、今日のところはこれにて――」


 そう言って、キールは立ち上がる。


 フォルツ会頭が右手を差し出すのを受け握手を交わすと、ゲルカール商会をあとにした。


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