帰る者、来る者
鯛子が再び人に化けられるまで、そして鯛子の装備が出来上がるまであと1週間。それまではあまり《始まりの町》から離れることはできない。ヤヒコは再び金策と鍛冶スキル上げに時間をあてることにした。
『やひこさん、しまにいくならわたしもつれていってくれませんか?』
まずは金策の囮卵狩りに行くことにしたヤヒコに、マックス君が言う。
「そういえばお前、どうやってここまで来たんだ?」
『がんばっておよいできたんですけど……ひとりでおよぐの、とおくてたいへんなんです』
《始まりの町》近くの浜辺から手鞠鳥達の住む島々まで、泳ぎの速い鯛子に乗せてもらえるヤヒコだからこそそこまで時間を掛けずに移動ができているが、他の船などでは大分時間がかかるであろう距離がある。マックス君にとっては大分骨だったのではないだろうか。
「……しょうがねーな、連れて行ってやるよ」
『ありがとうございます!』
とりあえず、穀物屋で手鞠鳥の餌を買い込み、鯛子の背に乗って和子の住む島まで行く。マックス君は小さくなって、白銀と一緒にポケットに入っていた。
『やひこさんのぽけっとのなかも、なかなかいごこちがいいですねえ』
「それは殿でござるからな!」
2人の会話する声がポケットの中から聞こえてくる。もう片方のポケットでは、会話に入れない福助がふて寝をしていた。
和子の住む島に着くと、和子はとんでもなく怒った顔をして待っていた。
「マックス君! 今までどこ行ってたの!?」
『え、えっと、卵を探しに……』
どうやら彼は和子に何も言わずに《始まりの町》まで行っていたらしい。
「ゴローさんとマリーちゃんとクロガネさんと一緒に手分けして島中探したけどいなかったじゃない。本当はどこに行ってたの!」
『あーうー』
マックス君が涙目でたじたじになっている。
「……何か、卵を求めすぎて、卵持った俺が《始まりの町》に行くあとをついてきちゃったみたいなんです」
「ごめんなさい、ヤヒコさん。ご迷惑をおかけしてしまって……。マックス君……皆心配してたんだからね! 勝手にどこか行ったらいけません!」
『で……でも……』
「あと、勝手に他のひとの後をついていったらいけません!」
『うわーん! ごめんなさーい!』
マックス君はその後もこってりとしぼられた。まあ、無断で島を出ればこうなるに決まっているだろう。
「もうっ、変身できるようになったと思ったら急に調子に乗っちゃって……」
「ま、まあまあ、マックス君も反省してるみたいですし」
あまりにもマックス君がしょぼくれてしまったので、ヤヒコが助け舟を出す。
「いつもこの島と他の島くらいしか行かないから、きっと他の町にも興味があるんですよ。今度一緒に買い物とか行ってあげたらいいんじゃないですか?」
『やひこさん……』
「……そうですね。もうちょっと長く変身していられるようになったら、どこか遊びに行ってあげようかと思います。でも、勝手に一人で言っちゃ駄目よ?」
『わかりました、ぬしさま』
和子達と別れたあと、ヤヒコ達は残り2つの島で手鞠鳥達に餌をやりつつ卵を集めた。手鞠鳥達といえば既に当然のように餌を取りに来ていた。白銀はまた鳥達と戯れている。正直言って警戒心をなくしすぎだとは思うが、攻撃されるよりはいいのかもしれない、とヤヒコは思うことにした。
《始まりの町》の近くの海岸まで戻ると、何だか町の方向が騒がしい。
町のほうに歩いていくと、町の南門の前に黒い大きな竜が2匹いるのが見えた。門の前で多くのプレイヤー達と対峙している。
「邪魔なところにいるな……何やってるんだ?」
竜達とプレイヤー達が何か話し合いをしている途中らしいが、これでは門から中に入りづらい。仕方ないので他の門まで回り道をしようとしたヤヒコに、突然声がかかった。
「あ、ヤヒコ君いた! ちょっと来て!」
エリンのようだ。門の前の人だかりをよく見ると、何故かエリン達『白猫料理店』の面々がいるのが見えた。エリンが手招きするので、ヤヒコは仕方なく南門に向かった。
「一体どうしたんですか?」
「丁度良いところに来てくれたわ、この竜達のことなんだけど、前に龍語を話す人間と会ったって言ってるんだけど……」
「あ! この前の!」
黒い竜の片方がヤヒコを見て声を上げる。どこかで聞いた声だ。
「……殿、もしかすると、この前海岸で会った黒竜達ではござらんか?」
「……あー、そんなこともあったな……今度は一体何をしに来たんだ?」
黒い竜はどすどすとヤヒコの前にやってくると、いきなり叫ぶ。
「今日こそは負けないからな!」
そんな風に叫ぶ黒い竜の頭をもう一匹の竜が尻尾ではたく。
「ランネレース! 今日は戦いに来たのではないのだぞ!」
「ううっ、そうでした……」
2匹の竜は改めて、門前に集うプレイヤー達に向き直り、言った。
「我々は魔竜族の代表だ。今日は人間との和平交渉に来た。代表者を出してほしい」
「「「「「えええええ!?」」」」」
その言葉に、門前のプレイヤー達はどよめいた。




