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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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大魔術師のセカンドライフ④ 島内観光 ~お着替えしましょう~

 クレインの領地は日本の四国程度の大きさの島、ジェイレット島本島と、その周囲に存在する中規模の6つの島と無数の小島という構成になっている。島の集まりであるため町を横に伸ばすことが難しく、上へ上へと伸ばした結果が多くの高層建築の群れである。島と島の間にはそれらを繋ぐための橋が張り巡らされ、飛行手段を持たない者達はそれを伝って行き来しているという。また、港湾設備も充実しており、魔族やそれらとの繋がりのある種族たちの貿易経路として組み込まれている。


「一応船で行き来もできますが、島と島の間が橋を渡せるくらい近いので、隣り合っている島に行くときは、いちいち船に乗るよりも早く移動できるんです」

 サリーが移動しながら説明する。

 城下町にあたるこの町の構造はどことなくイリーンベルグに似て、水路と橋が多い。領主であるクレインが海女神をはじめとする水系の神と深い関わりを持っているおかげで、水棲種族もそこそこの頻度でこの島を訪れるからだそうだ。水路では普通の魚に混じって骨の魚が泳いでいるのがこの島らしい。

「お客様はどんなところに行きたいか、希望はありますか?」

「ヤヒコでいいです――魔術師向けのお店とか、どんなのがありますか? できれば装備を新調したいので」

「ではヤヒコ様で。確かにそのレベルでそのローブは合いませんね。3番通りにおすすめの服屋さんがあるので、そこで見てもらいましょうか」

 3番通りは先程別の者からも薦められた場所だ。サリーの案内でまずはそこに行くことにした。






 クレインの屋敷から少し離れたその通りは、心なしか他の通りよりもレイスが多かった。

「この通りの正式名称はジェイレット3番通りですけど、通称『魔術師通り』と言って、魔術師の使う装備品や術具を扱う店ばかりが集まってるんです。薬品系になると4番通りのほうが多いですけど……。レイスは皆魔術が得意ですので、この通りのお店をよく利用するんですよ」

 槐が入り浸りそうな通りだ。ここで何か面白そうな土産を買っていったら喜ぶだろうか、むしろ対抗心を燃やすかもしれない、などとヤヒコは考える。

「あそこです。あの黒い山羊の看板のお店、お手頃値段で良いもの扱ってるんです」

 サリーに連れてこられたのは通りの半ばにある『黒山羊の蹄』という店だった。黒を基調とした外装のその店は、何となく暗く不気味な雰囲気があった。ごくり、と唾を飲み込むヤヒコ。

「さあ、入りましょう」 

 そう言ってさっさと店に入ってしまうサリー。後を追ってヤヒコ達も中に入ると、思ったより広い店内と、暗い色調の服ばかりが目に入った。

「あら、サリーちゃんいらっしゃーい。お仕事は?」

 声がした方を向くと、黒い山羊の角の生えたスケルトンがいた。黒いドレスを着ている。

「こんにちは、アマンダさん。今日は屋敷にいらしたお客様の観光案内で来たの」

 サリーは普通に対応しているが、このアマンダさんというスケルトンの声は男の声だった気がする。いや、声が男っぽいだけかもしれない、とヤヒコは努めて気にしないことにした。男女の骨の見分け方など知らないのだ。

「まあ、この方がお客さん? 生きてるじゃなーい! 久しぶりねえ!」

「そうなんですよ、皆張り切っちゃって……」

 2人の楽しそうな会話に割り込むわけにもいかず、店の中を見回す。普通の服もあるが、魔術師が着るようなローブやケープ系統が多く並べられている。黒い襤褸ローブのヤヒコが言えることではないが、どの服も暗い。赤や緑、青に橙などの色もあるが、どれも何となく色味が暗い。普通の白いシャツまでも暗く見えるのは、これはもう店の雰囲気によるものだろう。

「殿は何をお探しなのでござるか?」

「とりあえずはローブを替えたいかな」

「ふむ、そういえばずっとそのローブでござったからな……色はどうするのでござるか?」

「色は黒で――」

「あら、それじゃこれとかいいんじゃないのー?」

 突如会話に割り込んできたアマンダさんとやらがヤヒコに一着のローブを手渡し、試着室に放り込む。

 突然の暴挙に唖然とするヤヒコだが、銀糸の刺繍の縁取りがされたローブはレベル的にもぴったりだったので、大人しく着替える。ついでにサイズもぴったりだったようだ。質も良く、着心地もいい。

 そこではたと気づく。お値段いくらだろう。

 腰の財布をのぞく。散々マックス君を泣かせただけあって、レベル30過ぎの割にはそこそこ金持ちになっているほうだとは思うが、それには『ソロにしては』という但し書きが付く。なので何とも心もとない。

 服の裾や襟袖を見るが、値札のようなものはついてない。困り果てたヤヒコに全く配慮なく、試着室の戸が開かれる。

「やっぱり似合うじゃなーい。あとはこれとかこれとか……」

「こっちのケープもいいんじゃないですか? あっちのシャツとかと合わせて……」

 何故かサリーまで一緒になって様々な服を押し付けてくる。白銀の姿は店内になく、店のガラス戸から店の前でスクワットしているのが見えた。

「え、その、そんなにいっぱい着るんですか……?」

「ヤヒコ君はいつもどんなの着てるのかしら?」

 アマンダさんと話がかみ合わない。

「えっ いつもこのローブでしたけど」

 自分で洗っては乾燥魔術で乾かしていた一張羅ローブ。ちまちま繕ったりして裁縫スキルが地味に5まで上がっている。お洒落だのファッションだのがどーのこーのと言う話は高レベルプレイヤーがやるものだと思っていたのだ。

「駄目よそんなんじゃ! 普段着にもならないわ! もうっ魔術師のひと達って身なりを気にしなさすぎよ!」

「普段着に礼装に、この際全部揃えちゃえばいいんじゃないですか?」

 そんなアマンダとサリーの意気込みにより、ヤヒコは1時間以上も着せ替え人形にされるのであった。


 結局普段用ローブを2着と礼装用ローブひと揃い、お洒落着3揃いに新品ブーツを購入する羽目になったヤヒコ。どれも耐火耐水耐毒のエンチャントが付き、他の性能も良いのが憎い。ブーツもデザインの割にはまるで安全靴のような頑丈さだ。一応手持ちのお金で何とかなったが、所持金の三分の一が消えたのだった。

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