大魔術師のセカンドライフ③ メイドさんといっしょ
客室とは違い、晩餐会は特におかしな仕込みもなく、平和なものだった。
ちゃんと鯛子の分の食事や福助のための果物も用意してあり、至れり尽くせりだった。
食事の合間に館の面々を紹介されたり、近頃の人間族の動向を当り障りない程度に聞かれたりして、晩餐会は恙なく終了した。尤も、テーブルマナーに自信のないヤヒコにとってはボロを出さないようにするので精一杯であったが。
部屋に戻って風呂に入ったらシャワーから赤い水が出て、ヤヒコは腰を抜かした。そしてその拍子に壁に頭をぶつけてしまった。
そんな自分にへこみつつ風呂から上がり寝室に入ると、福助がベッドから顔だけ出していた。ヤヒコがベッドに入るとぴったりとくっついてきて、そのうち寝てしまった。いつもは夜になると元気に飛び回る彼には珍しいことだ。余程この場所を警戒していて、一人でいるのが怖かったのだろう。仕方ない。クレインも晩餐会で紹介された面々も、そこら辺をうろついているレイスのメイドさん達も皆レベルが百を超えている。今のヤヒコのレベルでは到底太刀打ちできない相手ばかりだ。こんな低レベルで来てしまったのが間違いな気もするが、海底神殿とそこまでの道中のことを考えると、今更であった。
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
何かの気配にふと目が覚めると、目の前に逆さの女の首が見えた。
「~~~~~~~~~~ッ!?」
跳ね起きるヤヒコ。女の首が浮き上がり、ふわりと全身を現す。
「おはようございます、お客様」
にっこりと微笑んだのは、昨日部屋まで案内してくれたメイドさんだった。
洗面所で顔を洗い、居間に入るとすでに朝食が用意されていた。
朝っぱらからヤヒコを吃驚仰天させてくれたメイドさん――名をサリーと言うらしい――はとても楽しそうな顔で給仕をしてくれた。ドッキリが成功したからだろうか。客を驚かせるためだけに客室に忍び込むとは中々アレなメイドである。
「うふふ。お客様、びっくりされましたか?」
「……心臓が止まるかと思いました」
「皆楽しみにしてたんですよ、生きた人間のお客様なんてめったにないものだから」
「そりゃ何でまた……」
「もちろん、楽しませていただくためです!」
「そ、そんな……」
そこまで堂々と言い切られてもヤヒコとしては困る。もうちょっとこっそりソフトに手加減してくれてもいいのではないだろうか。
「お連れ様はすでに朝食を終えられて、館の警備の者たちと一緒に訓練場で鍛錬しておられますよ」
「訓練場? どこにあるんですか?」
「塔の裏手にあります。白銀様とおっしゃいましたか、熱心な方ですね」
「すみません、鍛錬が趣味みたいなやつなので……」
何か迷惑を掛けたりしていないかがとても心配になるが、その前に朝食だ。メニューはシンプルに、焼きたてロールパンとハムエッグにサラダであった。美味しい。
「お客様、今日のご予定はどうなさいますか?」
「せっかくなので町を見てまわりたいと思います。昨日は港から直接ここに来ましたし。あと、図書館が気になります」
「観光でしたら案内をつけさせましょう。図書館は大きいので、一日で全部見てまわるのは難しいと思いますよ」
「それじゃ、今日は観光の方で」
槐やエリン、海底神殿の面々に何か土産を買いたい。それに、何か良い防具が見つかったらそれも欲しかった。メイスは鍛冶のスキル上げのために自力で新しいものを作ったが、ローブなどの防具は未だに初期装備に毛が生えたようなもののままだ。知り合いに裁縫士がいないのと、鍛冶スキルで作れる金属製防具の多くを魔法職が装備できない仕様のせいである。
食事を終え、観光に行くために白銀を呼びに行くことにする。
転移魔法陣で1階まで下り、館の裏口から訓練場に出る。そこでは多くのスケルトンやリビングアーマー、デュラハン達が思い思いに鍛錬していて、その中に白銀の姿もあった。順繰りに組手をしているようだ。レイスの姿が見えないのは、前衛職よりは後衛職に向いているからだそうで、後衛系のスケルトン達と一緒に隣の訓練場で訓練しているそうだ。武術と魔術で訓練場を分けてあるらしい。
「殿! おはようござる!」
白銀はヤヒコの姿を認めると、走り寄ってきた。
他の者達もヤヒコの方を見る。珍しい客に興味津々らしい。
「おはよう。訓練はもういいのか?」
「ちょっと混ぜてもらっただけでござるから、殿がどこかへ行くならお供するでござるよ」
「そうか。今日は俺は町を観光しようと思うが、お前も一緒に来るか?」
「もちろんでござる。昨日馬車から見た限りでは中々面白そうな町でござった」
観光と聞いて、訓練をしていた者達が手を休め、こちらによって来る。
「観光なら3番通りはどうだ? あそこは魔術具の工房と店がいっぱいあるぞ」
「ホーネット書店なんかもいいんじゃないか? 魔術師だし、図書館があると言っても自前の魔術書だって必要だろ?」
「岬の灯台と連絡橋とかどうよ。良い眺めだぜ」
口々におすすめの場所を教えてくれる。
「ありがとうございます。行ってみます」
色々なおすすめスポットをメモして、ヤヒコと白銀は彼等と別れた。
白銀と共に館の裏口に入ると、玄関ホールには何故かメイド服ではなく小ざっぱりとしたブラウスとロングスカート姿のサリーがいた。
「お待ちしてました。本日の観光案内は私サリーがさせていただくことになりました」
「え、いいんですか?」
「いいんですよ。お客様がいらっしゃる間は私が担当ですので。よろしくお願いしますね」
にっこり笑うサリー。朝のことはちょっと引っかかったが、ヤヒコにきっぱりと断る理由はない。
「よろしくお願いします」
「よろしくでござる!」
素直に案内されることにしたのだった。




