第78話 囚われの未亡人 3時
遊戯室を出た僕達は、
玄関の方へ足を向けた。
車椅子の千雪に合わせて、
僕は歩調を緩めた。
窓がなく、
人工の灯りに照らされた廊下は、
ここに来た時と、
まったく同じ様相を呈していた。
今が昼なのか夜なのか。
その判断は
困難と言わざるを得なかった。
僕はポケットから腕時計を取り出した。
『オーデマ・ピゲ』の
ロイヤルオークは、
丁度3時を示していた。
玄関の前を通り過ぎると、
正面にドアが見えてきた。
「あの部屋が私の部屋です。
隣が菅野さんの部屋で、
その隣の平原さんの部屋に、
六条さんが
拘束されているはずです」
僕はドアの前に立って、
ノブに手を掛けた。
ほんの一瞬、
僕は逡巡した。
中の音は聞こえてこなかった。
防音設備の施された室内で
何が起ころうと、
外にいる人間には知る術がない。
僕は千雪の方へ目を向けた。
少女は唇をギュッと結んで、
両手を胸の前で握り締めていた。
僕の視線に気付くと、
千雪は不安げに僕を見上げた。
僕は力強く頷いてから、
ドアを引いた。
室内は明るかった。
「・・六条さん?」
僕は部屋の奥に向かって呼びかけた。
返事はなかった。
悪い予感がした。
僕は深呼吸をしてから、
中へ足を踏み入れた。
数歩進んだところで、
奥のベッドからだらりと垂れた
黒いジャージの手が見えた。
その手はベッドの脚に
手錠で繋がれていた。
僕は足を止めた。
この位置からでは、
ユニットバスの壁が邪魔をして、
それ以上確認できなかった。
僕の手が無意識のうちに
腰の辺りを探っていた。
キッチンバサミを
持ってこなかったことを悔やんだが、
後の祭りだった。
僕は右手で拳銃を抜いた。
その時。
ふと思った。
果たして弾は入っているのだろうか。
そんな疑問を抱えたまま、
僕は拳銃を構えた。
「六条さん・・?」
僕はもう一度呼びかけた。
しかし。
またしても返事はなかった。
手錠に繋がれた手は
ピクリとも動いていなかった。
僕はゆっくりと前に出た。
ベッドに仰向けで横たわる
六条の胸に、
包丁が突き立っていた。




