第76話 名も無き男の推理
風が吹いていた。
「くっくっく。
俺は自分が
【犯人】でないことを知っている。
死んだ郷田が
【犯人】でなければ。
あの車椅子のお嬢ちゃんが、
【犯人】としか考えられない」
「それは君の言い分であって、
彼女にも同じ理屈が
当てはまるんだよ」
次の瞬間。
スッと闇が落ちた。
ふたたび雲が月を隠したのだ。
「・・だが。
お嬢ちゃんはまだ、
自分の支給品を公開していない。
怪しいと思わないか?」
「・・弱いね」
「あのお嬢ちゃんを疑う理由は、
他にもある」
男が小さく息を吸い込んだ。
「まず1つ。
お嬢ちゃんの
役職公開のタイミングだ。
彼女が『クラブの7』を
宣言したのは確か・・」
そこで男は一度口を閉じた。
「【市民】の中では一番最後だよ」
暗闇に向かって、
僕は相槌を打った。
「つまり。
最後に残った数字を
答えるだけの簡単なゲーム。
お嬢ちゃんの宣言した
『クラブの7』こそが
郷田のカードで、
彼女のカードは、
『スペードの2』だ。
まさに。
残り物の福を引いたんだ」
男の話には、
それなりの説得力があった。
【犯人】は【市民】を騙りたい。
だが。
【市民】の中に
カードを持つ者がいる可能性を
考えた場合、
迂闊に騙ることはできない。
だから。
千雪は最後にカードを宣言した。
唯一残された
【市民】のカードである
『クラブの7』を。
風が吹いていた。
「さらに。
お嬢ちゃんは、
郷田が【犯人】だと
主張していたにも関わらず、
あの派手な姉ちゃんを
牢屋へ送り込むよう仕向けた。
1度目は投票によって。
2度目は場の空気を利用して」
雲が流れて満月が顔を出した。
月明りが僕の全身を包み込んだ。
にもかかわらず。
心の闇は晴れなかった。
「・・あんたが。
あのお嬢ちゃんのことを
どう思ってるのか知らないが。
彼女はあんたが考えているよりも、
ずっと狡猾で
したたかな女かもしれないぜ」
名も無き男はそう言って、
口元を歪ませた。




