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残春はさ迷える子羊達のコンチェルト  作者: Mr.M
第7楽章 パーフェクト・ストレンジャー

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第74話 風が吹いていた

「キュキュキュキュ」

どこかで鳥が啼いた。


「・・何を言ってるんだい?」

心地良い風を全身に感じながらも、

冷やりとした汗が

背中を流れ落ちるのがわかった。

「くっくっく。

 隠す必要はないぜ。

 ここには俺達しかいないんだ」

僕は無意識に、

腰へ手を伸ばしていた。

「やめときな。

 扱えるなら。

 もっと早くソレを

 抜いてたはずだ」

完全に見抜かれていた。

「ま。

 それでも。

 抜くというなら、

 止めはしないが。

 ただし。

 賭けてもいいが。

 あんたがモタモタと

 狙いを定めてる間に、

 俺はコイツをあんたの体に

 突き刺すことができる」

いつの間にか。

西岡の手には包丁が握られていた。

「身を守る用意をしてるのは、

 牢屋の中の

 姉ちゃんだけじゃないぜ」

僕はゆっくりと両手を挙げて、

掌を見せた。

「くっくっく。

 それが正解だ。

 【市民】同士、

 揉めたって仕方がないだろ?

 それに。

 あんたとはすでに、

 秘密を1つ、

 共有してるんだからな」

そう言うと、

西岡は包丁を下ろした。

「聞かせてもらおうか。

 なぜ郷田を殺したのか」

西岡の髪が風になびいていた。

ふいに。

周囲に闇が落ちた。

見上げると雲が月を隠していた。


「キュキュキュキュ」

どこかで鳥が啼いた。


「君の頭が切れるのは認めるけど。

 残念ながら。

 その推理は間違ってるよ。

 それとも。

 何か証拠でもあるのかい?」

僕は目の前の闇に向かって、

語り掛けた。

「くっくっく。

 ・・見たんだよ。

 ここへ来てすぐ、

 建物内を散策してた時に。

 バッグを手にしたあんたが、

 1階の廊下を

 階段の方へ歩いていく姿をな。

 あの時。

 バッグからは

 包丁の柄が覗いていた。

 その後。

 応接室で見た時には、

 ソレが消えていた。

 直後。

 2階では包丁が刺さった死体が

 発見された。

 馬鹿でも気付くぜ。

 あの包丁は

 あんたに支給されたモノだろ?」

一陣の風と共に、

ふたたび月明かりが射した。

僕は小さな溜息を吐いた。

「君が何を見たのか知らないけど。

 僕の支給品はコレだよ」

そして。

僕はポケットから

腕時計を取り出した。

「腕時計がどうした?

 そんなモノ。

 誰でも持ってるだろ?」

「残念ながら。

 コレは

 『オーデマ・ピゲ』の

 ロイヤルオークだよ。

 定価は凡そ1000万円程度だろう。

 こんなモノ。

 僕には買えない。

 どうしてこんなモノが

 支給されたのかは謎だけどね」

僕は無言で西岡を見つめた。

今度は西岡が溜息を吐いた。


「キュキュキュキュ」

どこかで鳥が啼いた。


「・・あくまで惚ける気か?」

「君こそ。

 よく考えるんだ。

 そもそも。

 君が見たというのは、

 僕がここに来た時のことだよね?

 つまり。

 ゲームが始まる前のこと。

 その時点で。

 どうして僕が

 郷田さんを殺す必要があるんだい?

 僕はゲームのことすら、

 知らなかったんだよ」

「それが謎だったから。

 ここまであんたを

 泳がせてたんだよ」

前髪に隠れた西岡の目が、

それでも僕を

突き刺すように見据えていた。

冷汗がこめかみを流れ落ちた。

生温い風が吹いて、

僕の体に纏わりついた。


「キュキュキュキュ」

どこかで鳥が啼いた。


「ま。

 あんたがそこまで頑なに

 否定するなら、

 俺の見間違いなんだろう。

 この話は終わりだ。

 忘れてくれ」

フッと西岡の視線が外れた。

「いいのかい?

 そんなに簡単に僕を信用して」

「あんたを信用してるわけじゃない。

 あんたの持ってる

 【市民】のカードを

 信用してるんだ。

 あんたが

 郷田を殺していようがいまいが、

 【市民】であることは

 事実だからな。

 それに。

 郷田のような男は死に値する」

そう言って、

西岡は前髪をかき上げた。

「それと。

 【探偵】が死んだ今。

 【市民】の敵は明確に

 【犯人】に絞られた。

 今ここで。

 【市民】同士が揉めるのは、

 得策とは思えない」

あくまでも西岡は合理的だった。

「【市民】同士・・か。

 死んだ郷田さんが

 【犯人】でなければ。

 【犯人】は君か・・。

 少女のどちらかだ。

 そして。

 僕にしてみれば、

 彼女よりも君の方が

 【犯人】に見えるけどね」

僕はほんの少しだけ西岡を挑発した。

「だから・・。

 あんたを説得するために。

 この場を設けたんだよ」

そして西岡は

「くっくっく」

と笑った。

「死んだ婆さん、

 いや正確には爺さんか。

 あの爺さんの荷物から

 見つかった拳銃。

 そして。

 『クラブの6』を持っていた

 あのおばさんの口から、

 髑髏の小瓶の話が出た。

 その時。

 思ったのさ。

 もしかしたら。

 支給品は参加者全員に

 配られてるんじゃないかと」

そう言うと、

西岡はポケットから

パスポートを取り出した。

「うん?

 それは君の身分証明書だろ?

 それが何か・・」

「これが俺の支給品だ。

 俺は『西岡真』じゃない」


風が吹いていた。

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