第56話 8つの枢要罪 0時30分
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「・・君はどう思う?
【犯人】を探さない、
という方針について」
僕は話題を変えた。
「そう・・ですね。
西岡さんは、
すごく頭の切れる方だと思います。
そして。
今の状況では、
あの方の作戦に従うことが、
私達【市民】にとっては、
最善なのかもしれません・・」
少女の発言は
どことなく歯切れが悪かった。
「・・それよりも。
私は死んだ2人のことが
気になります」
彼女は
手に持っていたグラスを置いてから、
さらに続けた。
「このゲームの参加者は8人です。
何か気付きませんか?」
「それは・・。
8という数字のことを
言ってるのかい?」
すぐに思い浮かぶのは、
蛸の足の数。
8という数字は、
西洋では
不吉な数字とされており、
8本の足を持つ蛸は、
「悪魔の化身」等と呼ばれている。
一方。
日本では
漢字の8は下の方が広がることから、
「末広がり」を意味し幸運とされる。
同じモノでも地域が違えば、
その解釈は真逆である。
だが。
それが何だというのだろう?
僕は諦めて首を振った。
「『7つの大罪』はご存じですか?」
今度は唐突に、
7という数字が出てきた。
そういえば昔、
「7つの大罪」を扱った映画を
観たことがある。
僕は無言で頷いた。
「では。
『8つの枢要罪』という言葉は、
ご存じですか?」
「やっつの・・すうようざい?」
聞き慣れない言葉に、
僕は思わず首を傾げた。
「はい。
傲慢、虚飾、怠惰、憤怒、
憂鬱、強欲、色欲、暴食、
の8つの罪です。
そして。
憂鬱は怠惰に、
虚飾は傲慢に組み込まれ、
新たに嫉妬が加わって
『7つの大罪』になったそうです」
「・・それが。
このゲームとどういう関係が?」
僕は少女の知識に驚くと同時に、
なぜそのようなことを
知っているのかという
疑問を抱いた。
「ちょっと前に。
学校の授業で習ったんです」
少女は、
僕の表情に何かを読み取ったのか、
そう付け加えた。
しかし。
今時の学校では、
そんなことまで教えるのかと
新たな疑問が浮かんだ。
彼女は本当に堕天使かもしれない。
そんな錯覚に陥った。
「・・最初に殺された郷田満。
彼は女性達に
酷いことをしていました。
その罪は『色欲』と
捉えることができます。
・・平原さんは、
すごく怒りっぽい方でした。
つまり『憤怒』です。
それに。
彼女はあんな物騒な物まで
持っていました。
拳銃は『憤怒』の象徴でもある
と思いませんか?」
「つまり。
ここに集められた人間は、
その『8つの枢要罪』に
関係がある者達。
そう言いたいのかい?」
僕は少女の言葉を繋いだ。
「もしかすると。
主催者は、
咎人が咎人を罰するように
仕向けているのでは
ないでしょうか」
咎人・・。
僕は目の前の少女を見た。
彼女の温和な瞳が
じっと僕を捉えていた。
佐藤は・・いや千雪は・・。
胸がキリッと痛んだ。
堕天使に恋する・・隠者。
軽く頭を振った。
「そ、それは・・」
言いかけたものの、
僕はすぐに口を噤んだ。
「と。
これはあくまで私の妄想です。
それに。
人は大なり小なり、
意識的にしろ無意識にしろ、
何らかの罪を犯していますから」
そう言って、
千雪ははにかんだ。
その時。
遊戯室の柱時計が
ボーンと0時30分を告げた。




