第54話 堕天使の囁き
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「何か飲むかい?」
僕が訊ねると、
「では。
アルコールの入っていないものを
お願いできますか」
と少女は顔をほころばせた。
飲み物を作っている間、
少女がそれとなく
ビリヤード台の上の拳銃に
目を光らせているのがわかった。
彼女は僕を警戒しているのか。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「お待たせしました。
『プッシー・キャット』です」
僕がグラスをカウンターの横の
小さな丸テーブルに持っていくと、
彼女はそれを一口飲んでから、
「美味しいですね」
と微笑んだ。
・・考えすぎか。
彼女が警戒しているのなら、
僕の作った飲み物を
これほど躊躇いなく、
口にするはずがない。
「・・2人だけになりましたね」
少女はそう呟くと、
グラスを置いて僕の方に目を向けた。
「そ、そうだね」
僕は慌てて彼女から視線をそらした。
「ふふ」
ふいに。
少女が笑った。
僕はふたたび彼女を見た。
少女の瞳が僅かに潤んでいた。
僕は足早にカウンターへ戻った。
そして。
グラスにジンジャーエールを注いで、
ごくごくごくと流し込んだ。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「・・1つ。
鈴木さんに、
聞きたいことがあります」
少女の表情からは笑みが消えていた。
「・・数日前。
ネットニュースで
鈴木さんのお名前を拝見しました」
僕の心にさざ波が立った。
「・・鈴木商事の会長のご自宅で、
会長の鈴木平とその息子夫婦の
惨殺死体が発見された
と書かれていました。
そして。
孫の鈴木太は現在行方不明です。
・・貴方のことですか?」
少女がふたたびグラスを手にした。
美しき堕天使が
僕の目をじっと見つめていた。




