第52話 駆け引き
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「ルールに書かれていたことは。
【探偵】は【犯人】と思う人物を
指名して、
中庭の牢屋に入れることができる。
そして。
【探偵】は24時間経過後、
生き残っている
【市民】の数に応じて、
報酬を受け取る。
そうだったよな?」
「そうです」
佐藤の返答に、
西岡は満足そうに頷いた。
「もし。
今ここで【犯人】を見つけた場合。
報酬を受け取るのは【探偵】だ。
そして。
その額は1億円。
【犯人】や【市民】に比べると、
随分とそのリターンが大きいと
思わないか?」
「・・だが。
【探偵】の命は、
【市民】の1.5倍以上の
価値があるんだ!
それが【探偵】の負っている
リスクと言えるんじゃないのか?
【犯人】は優先的に、
【探偵】を殺そうとするだろ!」
宮崎が論理的反論をしたことに、
僕は少しだけ驚いた。
「それは。
【探偵】が自らの正体を
明かしていることが大前提の話だ。
臆病で狡賢い【探偵】は、
今こうして
【市民】の中に紛れている。
負ってるリスクは、
【市民】と同じなんだよ」
西岡は冷静に返すと
「くっくっく」
と笑った。
「坊やの言う通りよ」
すると。
これまで黙って
酒を飲んでいた菅野が口を開いた。
「この中にいる【探偵】は、
【市民】が知恵を出し合って
【犯人】を見つけ出すのを、
息を潜めて窺ってるのよ。
そして。
【犯人】が特定できた瞬間、
正体を明かして、
牢屋に入れてしまおうって魂胆。
これで報酬は【探偵】のもの。
まさに。
濡れ手で粟。
一攫千金。
漁夫の利。
大したリスクを負うこともなく、
【探偵】は報酬を
独り占めにできるのよ」
そう言って、
菅野はグラスを軽く揺らした。
「兎に角。
【市民】は【探偵】に
協力なんかしないわ。
殺されるのは嫌だけど、
【犯人】が捕まるのも面白くない。
【市民】は
自分達が生き残ることだけを
考えるべきなのよ。
無理に【犯人】探しをして、
【探偵】に有利な情報を
与える必要はないのよ」
すべて話し終わると、
菅野は満足したように
グラスに口を付けた。
「くっくっく。
その通り。
今ここで【犯人】探しをしても、
得をするのは
【探偵】だけなんだよ。
そして。
負っているリスクを考えるなら、
このままゲームが終わって、
【犯人】の1人勝ちの方が許せる。
そう考えるのが人の性だ。
いやエゴか。
どちらにしても。
俺達【市民】は
【犯人】探しなんかしない。
だから。
【犯人】もこれ以上、
犯行を続けずに、
現状の報酬で
満足しとけってことだ」
西岡がこの中にいる
【犯人】に向かって語りかけた。
賢いやり方だと思った。
西岡は、
あえて【探偵】は【市民】の敵だと
宣言したのだ。
同時に。
【犯人】にはこれ以上、
犯行を続けないように釘を刺した。
敵の敵は味方という理屈である。
僕は、
目の前でグラスを揺らしている菅野を
こっそりと観察した。
女の武器を最大限に活かした
胸元がざっくりと開いた
赤いワンピースからは、
ほんのりと赤みを帯びた
白い肌が覗いていた。
彼女は初めから、
【犯人】探しには
乗り気ではなかった。
もしかしたら。
菅野は最初から、
西岡が今、
話した理屈に
気付いていたのかもしれない。
案外、
油断ならない女だと思った。
それに。
彼女が持っていた
手錠のことも気になった。
まさか彼女は・・。




