第45話 魔女裁判
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「・・なぁんてね、冗談よ」
菅野はおどけたように言うと、
ペロッと舌を出した。
その瞬間。
部屋に漂っていた重苦しい空気が、
僅かに軽くなった。
「・・いや。
俺もその意見に賛成だな。
『疑わしきは罰せよ』
【市民】が生き残るには、
ある程度の犠牲はつきものだ」
続けて西岡の口から出た言葉は、
ふたたび部屋に
重苦しい空気を運んできた。
「へぇ。
坊やと意見が合うなんて意外ね」
菅野がにやりと口元を歪めた。
死神と娼婦が手を組んだ瞬間だった。
僕はなるべく音を立てないように、
割れたグラスの破片を拾い集めた。
「・・わ、私は。
賛成できません!」
その時。
佐藤が小声ながらも、
きっぱりと言い切った。
「六条さんが・・。
平原さんを殺した証拠は、
ありません。
『疑わしきは罰せず』
は刑事裁判における大原則です。
それに・・。
もし六条さんが
平原さんを殺したのだとしても、
今の状況は普通ではありません。
自分も殺されるかもしれないという
この状況下で、
六条さんも正常な判断が
できなかったと考えれば、
これは『心神喪失』に該当します。
凶悪な殺人事件を犯した者でさえ、
『心神喪失』が認められれば、
刑事責任を免れます。
それなら。
彼女にも、
その権利があって然るべきだと
思いませんか?
もしここで。
六条さんが罰せられる
というのであれば、
それはもう・・。
中世の魔女裁判と同じです」
言い終えると、
少女は大きく息を吐き出した。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「なるほど。
有罪が2票に無罪が1票か。
後の2人の意見はどうなんだ?」
西岡は佐藤の発言に
過度な反応も見せずに話を進めた。
「・・儂も。
お嬢ちゃんに賛成だ。
たとえそこの女が、
あの婆さんを殺したとしても、
【市民】が確定している者を
殺すのは、
得策とは思えん。
あと。
それに関して1つ思うことがある。
今ここで。
【市民】と確定している者を
殺すという思考は、
まさに。
【犯人】の思考じゃないか?
何せ。
自分の手を汚さずに、
【市民】を1人、
消せるんだからのぅ」
そう言って、
宮崎は
「わっはっは」
と大袈裟に笑った。
意外だった。
てっきり。
宮崎は菅野や西岡の意見に、
賛同するものと思っていたのだが。
あの怒りは演技だったのか。
「まるでアタシと坊やの中に
【犯人】がいるとでも言いたげね」
菅野は、
呆れたように肩をすくめた。
「そう捉えたのなら、
申し訳ない。
儂は、
ちょっとした一般論を
述べただけなんだが。
それより。
これで2対2だ。
決定権は鈴木くん、
君にある。
どうする?」
「あ、え、えっと・・」
突然、
意見を求められて、
僕は言葉を失った。
その時。
六条と目が合った。
薄幸の未亡人は、
すがるような目で、
何度も首を横に振っていた。




