第35話 【犯人】にとって有利な環境 21時
僕が宮崎の前に
マティーニの入ったグラスを置くと、
宮崎はそれをクイッと飲んでから、
「ぶひぃぃぃ」
と大きく息を吐いた。
それは。
まさに豚の鳴き声にそっくりだった。
僕はたった今、
佐藤の口から語られた言葉を
頭の中で反芻した。
それから。
少女に顔を向けた。
「詳しく話してくれないかな?」
佐藤はもう一度、
グラスに口をつけてから、
静かに語り始めた。
「・・先ほど。
食事の片付けをしている時に
気付いたのですが、
引き出しの収納部分に
1か所空きがあって・・」
「そこにキッチンバサミが
収まっていたと?」
少女はこくりと頷いた。
六条が大きく息を呑む音が聞こえた。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「・・主催者は。
どうしても私達に
ゲームをさせたいんですね・・」
佐藤が小さな声でぽつりと呟いた。
「どういうことだい?」
僕は彼女が話し易いように、
できるだけ優しく訊ねた。
「気付かれましたか?
ここが【犯人】にとって、
有利な環境になっていることに」
そう言って、
少女はふたたびグラスに口をつけた。
「部屋の鍵の件もそうですが。
この建物のすべての部屋は、
防音になっています。
つまり。
ドアを閉めてしまえば、
中で何が起ころうと、
外に音は漏れません。
そして。
厨房は凶器の山です。
包丁や鋏だけでなく、
フライパンなど
あらゆる物が凶器になり得ます。
もしかしたら。
平原さんが亡くなった毒も・・。
この建物のどこかに、
あったのかもしれません。
【犯人】は、
私達の知らないところで、
他にも凶器となる物を、
手に入れているのでは
ないでしょうか・・」
話し終えると、
少女はグラスをごくんと呷った。
重苦しい空気が
遊戯室を包み込んでいた。
確かに。
佐藤の発言にも一理ある。
平原が毒殺されたことは
確かだとして、
その毒がどこからやってきたのかが、
最大の疑問だったのだ。
【犯人】が予め
毒を用意していたとは考え難い。
なぜなら。
招待客は
ゲームのことを知らされずに、
ここに集められたからだ。
しかし。
毒があったとして。
そんなに都合良く、
【犯人】が
ソレを見つけられるだろうか。
もしくは・・。
その時。
遊戯室の柱時計が
ボーンボーンと21時を告げた。
「し、身体検査をしませんか・・?」
六条は不安げな表情で
そう提案すると、
ごくりとマティーニを飲み干した。




