47.旅立
「あちらにいる魔女様に『ウハナをよろしく』と伝えてください・・・秋葉、卯花の魂を頼みましたよ」
灯魄は秋葉に卯花の魂を中間の世に送り届ける命を出し、いよいよ別れの時が訪れた。
「卯花よ。そなたは献身的に稲荷神社の祀りごとを行ってくれた。感謝する。感謝の意も込めて、これを卯花に授けよう」
白狐は懐から【宝珠】を取り出して卯花の手に握らせながら、
「我は冥府に一緒に行くことは叶わないが、もし卯花が来世に我との再会を望むのであれば、この宝珠を目印にご縁を繫げよう。しっかり自分を見つけ出しまた巡り逢おうぞ・・・」
白狐はしっかりと卯花を抱き寄せて言の葉を贈った。
「神白狐様、自分探しを頑張ってみます。またお逢いできるその日まで、この宝珠を神白狐様と思って大切にいたします」
瞳に涙を溜めながら満面の笑みで白狐に再び巡り逢う約束を口にする卯花に、凛生彩は駆け寄り抱きしめた。
「卯花さんなら大丈夫です。卯花さんが頑張っている間の神白狐様のお世話は私に任せてください!」
「・・・はい。神白狐様のことをお願いします!」
卯花は凛生彩の手を取り、一人と一魂は固い握手をして約束を取り交わした。
「・・・凛生彩らしい見送り方ですね。しかし参りましたねぇ。お荷物が一つ増えました・・・」
ちらりと白狐を見る灯魄の瞳は優しい光を帯びていた。
「これから世話になるよ、灯魄様。楽しくなりそうだな・・・はははっ!」
凛生彩は執務室の場が和みはじめたのを感じながら、冷静になった思考で灯魄と白狐の会話を聞き、衝動と独断で口にしてしまった事の重大さを、今更ながら自分のやらかしに気が付いた。
「……先生、ごめんなさい。勝手に神白狐様のことを……事後になりますが、よろしくお願いします」
深々と頭を下げている凛生彩の肩に、灯魄はポンと優しく手を置き、
「凛生彩、貴女の優しさは理解しています。私に出来る事は受け入れます。神白狐様のお世話は任せましたよ」
「はい!……先生、ありがとうございます」
「皆さんの別れの挨拶が済んだようなので・・・卯花さん、では参りましょう」
秋葉の声が場を引き締めた。
「はい」
卯花は秋葉の傍により「いってきます」と笑顔で手を振った。
「いってらっしゃい」
凛生彩は胸が締め付けられる思いを隠すように笑顔で見送った。
白狐と灯魄は頷きながら、秋葉と卯花の姿が執務室から完全に消え、中間の世に魂がたどり着くまで見守った。
執務室の静寂が保たれたのはごく僅かの間だった。
「さあ、見送りは無事に済んだ・・・あちらに無事着いたようだし、今度は我たちのことを話そうではないか・・・灯魄様」
「せっかちですね・・・もう少し情緒を味わう余裕はないのでしょうか」
「時は金なりだよ。琴さんお茶をくださいな」
片手を軽く上げ片目をつぶりウインクをしながら琴に給仕をお願いする白狐の何とも艶めかしい姿は、凛生彩の感性を刺激した。
「神白狐様の妖艶なお姿を画に描いてもいいでしょうか?」
眼を瞬かせ前のめりになる凛生彩に、
「どうぞ・・・どの角度がいいかしら・・・」とポーズを取ってみせる白狐と今にもスケッチブックに描き始めそうな凛生彩を窘めるように、灯魄は「・・・おほんっ!」と一つ咳払いをした。
「「ごめんなさい」」
しゅんとする一人と一神の姿に思わず苦笑いする灯魄がいた——善い哉
琴と桜がお茶をテーブルに並べ終えて壁際に立ち、時雨と福豆が灯魄の呼び出しに呼応して姿を現し、琴と桜の横に並んだ。
「全員が集まったところで話しがあります」
いつもとは雰囲気が違う灯魄の落ち着いた声に、執務室に緊張が走った。
凛生彩は琴と桜は話の内容を知っているのかと目線で確認したが、二死神は首を横に振った。琴と桜が聞いていない話なら時雨と福豆も知らないだろうと凛生彩は思ったが、一応確認のために目線を送ってみた。時雨は緊張した面持ちで首を横に振り、福豆は目線が合うとニコニコ笑顔で小さく手を振っていた。『福豆に癒される~』と緊張が解れた凛生彩は、灯魄の言葉の続きを待った。
「今回の卯花の依頼を初めに持ち掛けてきた原が消滅し、原に任せていた土地の管理者が不在となりました。そこで、このビルを琴と桜の両名に任せて、私が管理者不在の地に赴きます。そこには封印した祠がありますのでそこを神白狐様のお住まいにしたいと考えています。ただし、神白狐様の動向については凛生彩にも関係しますので・・・」
灯魄は隣に座る凛生彩の方に体ごと向きを変え、
「凛生彩はここに残りますか? 私と一緒に来ますか?」
「私は先生に付いて行きます!」
「少しは考えてください・・・この地を離れるとあなたの仕事にも少なからず影響が出るでしょう。それでも一緒に行きますか?」
「はい……何で私が先生に付いて行かないでここに残ると思うのですか?付いて行かない選択肢の方が私にはないですよ。私がここに居るのは先生が受け入れてくれたからです。琴さんや桜さんと毎日のように顔を合わせていましたから寂しい気持ちはありますが、会おうと思えばいつでも会えますしね!……仕事なら場所はどこででもできますし、私の問題はないですよ……」
「貴女は・・・変わらない。今もまだ真っ直ぐなのですね。凛生彩の気持ちはわかりました。神白狐様もよろしいですか・・・」
「あぁ、よろしく頼む。楽しい日々が待っているな・・・はははっ!」
灯魄は壁際に並び立つ琴と桜に命を出した。
「ここは任せました」
「「承知いたしました」」
恭しく礼を執る琴と桜から気持ちの揺らぎを感じた灯魄は、
「琴と桜には期待をしています」
笑顔で二死神に声を掛けた。
「「ご期待に沿えるよう精進いたします」」
琴と桜に笑顔が戻ったのをホッとしながら見ていた凛生彩は、ふと思ったことをつぶやいた。
「……ところで、その地はどこにあるのでしょうか?」
凛生彩の呟きを拾った面々は『凛生彩らしいな』と苦笑いをした。
「その地について説明しましょう・・・場所はここから北方位、車で約3時間程の山間の里です。電車でも約3時間程でしょう。管理地には屋敷がありますのでそこを拠点とします。移動手段は以前に現地調査で使用したキャンピングカーを購入しましたのでそちらで移動します。生活に必要なものは過不足なく整いますので安心してください」
「先生、出立はいつですか?」
「いつでも良いですよ・・・凛生彩の準備が整い次第といたしましょう」
【本日は解呪日和】は新古書店街から山間の里に物語が進みます。
秋葉によって卯花の魂が送り届けられた先の中間の世の物語は、
【もうひとつの魂日和】でスタートします。
魔女様登場。
二つの【並行世界】をお楽しみください。




