43.愛黙
5月19日
「ごめん」の電話があった日から毎日電話で話すようになった。やっぱりあなたの声は好き。明日会いたいと言われて、うれしい気持ちもあるけど前のことがあるから少し会うのが怖い。でも会いたい気持ちの方が勝ってる。
―――――――――――――――
5月20日
引っ越しをすることにしたらしい。引っ越し費用を貸してほしいと言われた。明日渡す約束をしたけど、理性と本能が私の中で戦っている。
―――――――――――――――
5月21日
「助かった」って笑顔で言うあなたは、借用書を用意したからと。
あなたが差し出した借用書の文言を見て確信したよ。。。返す気はないんだと。
やっぱり私は馬鹿だね。愛したらいけないと解っていた人を愛してしまった。
【返せる時に返します】は返す気がない人の常套句。
あなたは解って書いてきてるよね。だって誰よりも賢い人だものね。
それとも私なら誤魔化せると騙せると思ったのかな?
―――――――――――――――
6月15日
お金を貸した日に「引っ越しで忙しいから電話できないかも」と嘘を重ねるあなたと、嘘を受け入れた私。
貸すと決めたのも私。
《貸すではなくあげたと思え》は本当のことだなと実感してる。
プラトニックな関係でよかった。あの時拒んで良かったと今なら思える。
まだ引き返せる。
―――――――――――――――
7月14日
久しぶりに電話があった。「元気だったか?」優しい声だった。明後日が誕生日らしい。「祝って欲しい」と言われて会う約束をした。忘れようと自分に言い聞かせてきたけど、あなたの声を聞いたらまだ好きだった。バカだな私は。
―――――――――――――――
7月15日
「明日■■に会いに行くの?止めなさい!」母が廊下で昨日の電話を立ち聞きしていたらしい。
「お金は返してもらいなさいよ」私はお金を貸したことを誰にも言っていない。
でも親が知っているということは、出処は???どこ?。
私の知らないところで、私のことが話題になってる。
私のことなのに私が不在のまま、何かが動き出そうとしている。
もうどうでもいいか、なんか疲れてきた。
―――――――――――――――
7月16日
今日はあなたの誕生日。会う約束を断るために初めて自分から電話した。
慌てた様子のあなたが新鮮だった。。。あなたも慌てるのね。
もう一つの決意も伝えた。「次に私に連絡するときはお金を返すときにして」
答えは「あっそう」だった。それを言うなりあなたは電話を切った。
母に聞かれたくないから声を殺して泣いた。泣いてもスッキリしなかった。
私は何を期待したのだろう。
―――――――――――――――
7月18日
あなたの傍にいるときは、嬉しくて、幸せで、苦しくて、辛くて、悲しくて、
あなたの嘘もすべてを壊してしまいたくて、衝動に走りそうになるそんな自分が怖かった。
誰の言うことも聞かずに、あなたの優しさだけを信じたかった。
皆んながあなたを悪く言うほどに、あなたの嘘にしがみついた。
このまま自分が壊れてもいいと思えるほど、あなたを本気で愛してしまった。
なのに、あなたはそれを許さなかった。
―――――――――――――――
10月30日
あなたがいない日々は平穏です。
これがみんなが望む普通の幸せなのでしょう。
たまにあなたの噂話を耳にするけど、あまりいい話ではありません。
でも、あなたの噂話を聞いていてる時、心が踊るのが不思議です。
―――――――――――――――
12月1日
あなたは私と過ごした瞬間を、懐かしく思い出すときはあるでしょうか。
あなたなら嘘でも「ある」と言ってくれそう。
未来永劫、あなたに伝えることはない思い。
離れた今でもあなたを『まだ、愛してる』
―――――
1月1日
新しい年を迎えました。
今年はどんな年になるでしょうか。
―――――――――――――――
1月10日
お付き合いを始めました。あなたも知っている人です。
そうです。あなたとファミレスにいた時の着信相手です。
あなたはとても勘がいいから私の反応で気づいていましたね。
上手く誤魔化すのはやはり苦手です。
―――――――――――――――
2月2日
彼はとても優しい人ですよ。
私の傷が癒えるのを見守ってくれました。
私があなたを忘れる日をずっと傍で待っていてくれました。
そんな彼に嘘をつきました。
あなたを忘れた…と。
彼を愛している…と。
あなたの嘘にしがみついた私が、
今度はあなたと同じ嘘で、偽りのない自分を守ろうとしています。
『まだ、あなたを愛してる』
この想いは罪でしょうか?
―――――――――――――――
4月30日
彼と別れました。
彼は優しいから最後まで私の気持ちを大切にしてくれました。
そして「もう偽るのはやめよう…」とも。
やはり嘘は駄目ですね。
誰も幸せにすることができません。
あなたの嘘に慣れすぎてしまったのでしょうか?
それとも、私が嘘をつくのが上手くなったのでしょうか?
彼の「愛してる」が遠くに感じてしまうのです。
あなたの「愛してる」はあんなに近くで触れることができたのに…。
―――――――――――――――
5月1日
あなたにはまっすぐに生きて欲しいなんて伝えたけれど、
今更ながら笑っちゃいます。
『あなたを愛しています』
偽らない想いをあなたには決して伝えません。
これが私の償いだから。
―――――――――――――――
日記を読み終えた凛生彩はリーガルパッドをテーブルの上にそっと置いた。
見守っていた灯魄が凛生彩に声をかけた。
「いかがでしたか?」
「それが……卯花さんの魂は確かに成仏しないで工場に留まっていますが、本当に自死なのでしょうか?」
「何故そう思いましたか?」
「この日記から、怨みや悪意が全く感じられないのです。死を感じないと言うか……確かにこの日記のような流れだと酷い人に騙されてお金を無心され、失恋して最期を選んだと言うストーリーに見えますが、しっくりこないのです」
凛生彩は意を決した表情を浮かべながら、
「先生……お願いがあります。卯花さんの魂と話をするのは可能でしょうか?」
灯魄はこの展開を予期しながらも、選択肢としては下位だった。
「そうですね・・・凛生彩の願いは叶えてあげたいのですが、卯花が望まない限り、ここへ呼び寄せることはできません」
「卯花さんの魂は未だ穢れていないような気がしますので、一度呼び寄せてもらえないでしょうか。もし彼女が呼びかけに応じることができないくらい闇堕ちしているなら消滅の道を選ばざるを得ません」
「わかりました。そこまで貴女が言うなら呼び寄せてみましょう」
灯魄が刀印を結び指先を唇に当て、呪文を唱え始めた・・・刹那、灯魄の呼び掛けに応えて最初に姿を現したのは、廃れたお社にいた神白狐様だった。その神白狐様に導かれるように朧気な一人の女性、卯花が姿を現した。




