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本日は解呪日和  作者: 朱潮 一初
新古書店街

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35/51

35.秋葉

 喫茶室《縁紡ぎ》のドアが静かに開いた。


「こんにちは・・・って、凛生彩さんが一階にいるの初めて見た」

「いらっしゃいませ。秋葉さん。琴さんと桜さんが留守なので今日は店番ですよ」

 凛生彩は《縁紡ぎ》の席に座りスケッチブックを広げてフリーランスで請け負った仕事をしていた。

「私と同じコーヒーでよければお持ちしましょうか?」

「えっ、良いの? では遠慮なく・・・」

 凛生彩はスケッチブックを閉じて「ちょっと待っててくださいね」と秋葉に声を掛け、キッチンへ入っていった。秋葉は凛生彩の隣のテーブル席に腰掛けて凛生彩が戻るのを待った。


「どうぞ。琴さんが入れて置いてくれたアメリカンです。琴さんが『今日あたり秋葉さんが来るだろうから』って、私の分と一緒に用意してくれてたんです」

「ありがとう。来るのがわかってたなら、留守にしなくてもいいのにな・・・」

 ニカッと笑う秋葉は少年のようだと凛生彩は会うたびに思っていた。




 凛生彩と秋葉が初めて会ったのは、灯魄が請け負った仕事【依頼主の記憶を描く】で、凛生彩が気絶するように眠り続けている間に、画を依頼主(冥府)へ届けに行ったのが秋葉だった。

 凛生彩が目覚めた後、眠っていた3日間に起きた事を執務室で灯魄に聞いていたときに、画を届ける仕事(お役目)を終え、冥府から戻ってきた秋葉と初対面した。


「はじめまして。秋葉です。主様とは‘マブダチ’をやらせてもらってます。以後お見知りおきを!」

 右手を差し出した秋葉に凛生彩が手を伸ばそうとして、凛生彩は灯魄に腕を掴まれて止められた。

「凛生彩・・・秋葉は‘マブダチ’ではないですし、握手も必要ないですよ」

「……えっ?」

 凛生彩を庇うように灯魄は二人の間に体を割り込ませて、

「凛生彩に変なことを吹き込まないでくださいよ」

「え〜〜長い付き合いなんだから‘マブダチ’でいいじゃんよ〜」

「……ふふっ。お二人は仲良しなんですね」

「何処が?」「だろう!」

 二人の返しは違っても、息がぴったり合っていると凛生彩は感じた。

 それから度々灯魄に仕事の依頼に来る秋葉と凛生彩は顔を合わせるようになっていた。




 凛生彩は秋葉が座るのテーブルにコーヒーカップを置き、自分の席に座ると、

「先生からの伝言で、少し待ってて欲しいそうです」

「・・・そうなんだ。珍しい」

「えっ、珍しい……ですか?」

「うん。主様から待つように言われたの初めてじゃないかな? 依頼としては難しくなかった気がするんだけどな・・・まっ、いいか……凛生彩さんとゆっくり話もできるしね!」


 悪戯っぽくウインクをする秋葉に若干引き気味になった凛生彩は、

「私と話しして楽しいですか? 特に面白い話はできませんよ」

「いいの、いいの。同じ空間で同じ時を過ごすのが良いんだよ」

「……秋葉さんがいいなら……そうしたら私から質問をしても良いですか?」

「おっと、俺に興味持ってくれた?」

「いえ、秋葉さんと言うより、先生とどのように知り合ったのかと思って……先生と琴さんや桜さんの関係とは少し違うような気がして……初めてお会いしたときに『マブダチ』と言っていたので、先生は否定していましたけど……」


「・・・・・・・・」


 顎に手を添えたまま首を傾け、考え込んだ秋葉を見て凛生彩は慌てた。

「唐突にごめんなさい。答えられなかったらそれでいいので、流してください」

「ううん。そうじゃなくて。今までどんな風に知り合ったか考えたことなかったから・・・気付いたらそこに存在(いた)したからさ。距離が近くなったきっかけは覚えてるよ。それでいいなら話すけど・・・」

「聞いておいて何なのですが、私が聞いて大丈夫な話ですか?」

「多分?大丈夫?・・・これから凛生彩さんも同じような案件に関わるかもしれないしね」


 秋葉は体を凛生彩の方に向けて、ゆっくりとした口調で昔話を語り始めた。




 ◁◁◁



 コロ~ン コロ~ン コロ~ン・・・ドアベルの音が鳴る。


「喫茶室《縁紡ぎ》へようこそ」

 桜が出迎える。


「こんにちは。今日は二人で」

 秋葉が連れを伴い《縁紡ぎ》へやって来た。


「お好きな席へどうぞ・・・お冷をお持ちします」

「おぅ!」

「ここは馴染みの店なので・・・この席にしましょう。どうぞ・・・」

「……あっ、ありがとうございます」

 秋葉の連れは落ち着かない様子で店内を見渡し、秋葉に勧められた席についた。席についてもカバンをひざの上にのせ、ギュッと持ち手を持ったままでいった。


「お冷やをどうぞ・・・こちらがメニューです」

「……あっ、ありがとうございます」

 緊張しているのか、か細い声で連れが桜に会釈した。


 秋葉がメニューを連れに見せながら、

「何にしますか? ここは何でも美味しいですよ」

「……あっ、私はアイスコーヒーで……」

「桜さん、アイスコーヒー2つ!」

「承知しました。お待ちください」

 桜と入れ替わるように琴がアイスコーヒーを和盆に乗せてキッチンから出てきた。

「琴さん、こんにちは。ちょっとだけお邪魔するよ」

「いらっしゃいませ・・・ごゆっくりどうぞ」


 テーブルにアイスコーヒーを二つ置き、琴はキッチンの奥へと入っていった。


「どうぞ。飲んで気持ちを落ち着かせて・・・話しを聞いて欲しいなら聞くけど」

「えっ、でも……」

「いきなり過ぎたね。では、自己紹介を・・・名前は秋葉です。《MAKAFUSHIGI》の探索者と言うか、《MAKAFUSHIGI》から依頼を受けた品を納品する仕事をしています。今日は《MAKAFUSHIGI》に納品をして帰ろうとした時に、貴女の・・・えぇっと・・・?」

「あ、兄です」

「そうすると貴女は彼の妹さん?」

「……はい」

「今までお兄さんの依頼でいくつか商品を《MAKAFUSHIGI》に納めている関係で、間接的ではあるけど、彼のことは知っています」

「…………そう、ですか……」

「《MAKAFUSHIGI》の前でお兄さんと揉めてたようだけど・・・質問とかあればどうぞ。答えられる範囲でなら答えるので・・・」

「それなら質問をいいでしょうか?」

「どうぞ・・・」

「あの、先ほど『兄の依頼で』と言っていましたが、兄は《MAKAFUSHIGI》で何を買っているのでしょうか?」

「あぁ、そこ? 何をというのは具体的には答えられないけど、大まかに言えば【御札】だね」

「御札?……ですか?」

「そう、御札。神社とかお寺にある御札のようなものだよ」

「何故それを兄が……」

「理由は知らないけど、注文の品は御札のようなモノだね。別にやましい御札ではないから問題はないはずだよ」

「そんなっ!問題だらけなんですっ!!」

 前のめりになり声を荒らげる彼女に秋葉は穏やかな声で、

「まぁまぁ、そんなに興奮しないで……理由を聞いてもいいかな?」

 すいませんと言いながら、彼女は椅子に座り直して姿勢を正した。


「兄は元々おかしいと言うか、変な人なんです」

「・・・変な人?」

「はい。特に最近酷くなっていて……初めのうちは『明け方に従兄弟が遊びに来た』と言い、次は『明け方までずっと従兄弟と話をしていた』、そのうち『一緒に行こうって迎えに来てるから、行かないといけない』……ってしきりと言うようになって……実は従兄弟は10年に亡くなっていて……居るはずがないのに……最近は『行かないと』って言って家を出て行こうとするんです。病院にも連れて行ったのですが『ストレスだろう』と……親戚に頼んで今は交代で見張っている感じです。日が昇ると寝てくれるのですが、昼頃に起きだしたかと思ったら頻繁に外出するようになって……心配で今日はつけてきたんです。《MAKAFUSHIGI》に入った兄が変な宗教にはまったのではと思って……問いただそうとして、店の前で揉めてしまいました」

 項垂れる彼女に、

「そういう事なら、うってつけの人がいるけど紹介しようか?」

 秋葉の提案に彼女は訝しげに首を振った。

「………」

「そうしたら、もし助けが必要なときは《MAKAFUSHIGI》で注文して・・・そうだなぁ、【秋葉に相談依頼】で発注してくれればいいから。店には伝えておくよ」

「…………はい」


 彼女に帰り支度を促した秋葉は、

「琴さん、桜さん。彼女を送ってくるよ」

「「はい」」


 コロ~ン コロ~ン コロ~ン・・・ドアベルの音が鳴る。






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