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本日は解呪日和  作者: 朱潮 一初
新古書店街

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33/51

33.鎮魂

 琴と桜の姿が消え、部屋に一人残された凛生彩は描き終えた画をぼんやりと眺めていた。


 凛生彩は背後に気配を感じたが振り返ることはしなかった。

「良い画を描き上げましたね・・・ここからは私が引き継ぎます」

「よろしくお願いします」

 凛生彩は画から目を離さずに、そのまま数歩後退り仕事(お役目)を交代した。



 灯魄は凛生彩とすれ違いざまに彼女を一瞥したが、凛生彩と目が合うことはなくそのまま画の前に出た。

『この画に相当魂を込めましたね。術式も問題なし・・・彼女は何も変わってない。流石の集中力です。彼女の頑張りに私も応えなくてはなりませんね。久々に魂が震えます』


 灯魄は静かにスーッと刀印を結んだ指を画に真っ直ぐに向け、術式を発動させた。


 すぐに同調したのは龍神だった。

 灯魄は龍神に話しかけた。

『龍神よ。あの時分は、随分と目覚めが悪かったようですね』

『あぁ、気持ちよく寝ていたのに無理やり起こされれば誰でも怒るだろう?』

 呑気な口調で龍神は答えた。


『そうですか? それくらいのことで、あれだけの災害はやり過ぎでは?』

『目覚めて直ぐに、何やら嫌な悪意と嘆きや憤りを感じたからな・・・いつもなら仔細なこととやり過ごすのだが、( 贄を供えるから願いを叶えろ )と何とも横暴な要求に苛立ちを覚えた。加えて巫女の舞と奏者の音色が物悲しくてやり切れなくなったのだ。それに贄としてもあの状態の魂は不味そうだったからな。だからあの場を去った。その後の災害については預かり知らぬ』

 龍神は余裕の面持ちで答弁した。


『そんなことだろうと思いましたよ。人如きを懲らしめるために、あなたが力を行使したとは考えづらかったので・・・』

『ところで・・・何故我は呼び出されたのか、答えてくれ』

『あの儀式を執り行った祈祷師が、贄の娘と奉奏者の青年の願いを叶えるべく術式を仕込んでいました。その祈祷師からの依頼が、私の方にお鉢が回ってきましてね・・・術式発動にあなたの【赦し】が必要なのです』

 灯魄は淡々と話しを進めた。


『我には関係ない。断る』

『そういう訳にもいかないのですよ。あの時分、あなたは多くのものを破壊しすぎた・・・理に干渉しすぎました。なので、今回の依頼の協力をもってあなたの罪を見逃そうということに成りました。さぁ、選んでください・・・協力か消滅か』


 冗談話ではないのを灯魄の声色で龍神は悟った。

『・・・・・・・』

『私としては即消滅でいいと思うのですが、この依頼に必要不可欠な画を描き上げた娘の努力に報いるために、あなたには協力をおすすめします』

『ほほう、お主の愛し子か?』

 もしかしたら灯魄の弱点と成りうる情報かと龍神は食い付いてみたが、

『あなたは興味を持たなくていいですよ。あの娘に万が一のことがあれば遠慮なく一族郎党()消滅にしますので・・・悪しからず』


 ほくそ笑む灯魄に逆らうのは悪手。龍神は両手(もろて)を上げて降参した。

『わかった。協力しよう・・・これで良いんだな・・・【赦す】』


 凛生彩が描いた画の前で、刀印を結んだ指を前に突き出し肩の高さまで上げたまま、微動だにしない灯魄の後ろ姿を凛生彩は静かに視ていた。


 部屋の空気が僅かに揺れ、画かれた龍神の黒眼がギロリと動いた瞬間、

『・・・【赦す】』

 凛生彩の脳内に響くように低い声がこだました。


「赦されたの?」

 凛生彩の瞳からポロポロと大粒の涙が溢れ出て止まらなかった。

 悲しみの涙ではなく仕事(お役目)をやり遂げた安堵の涙。これで二人のご縁が引き合って繋がり、固く結ばれる喜びの涙だった。


 スーッと静かに灯魄の刀印が解かれ、室内の空気が緩和した。

 振り返り凛生彩を見た灯魄の瞳は、先程までの厳しいものとは違う優しい眼になっていた。


「凛生彩。お疲れ様でした」

 灯魄の声を聞いた瞬間、凛生彩は全身の力が抜け床にへたり込んだのを、いつの間に現れたのか、時雨と福豆が凛生彩の身体をしっかりと支えた。

 凛生彩はニ鬼にありがとうと声を掛けながら、

「………先生……無事に終わったのですか?」

「えぇ、凛生彩のお陰で滞りなく仕事(お役目)を遂行できました。龍神様の【赦し】を得て、術式は発動しましたので、二人はこれから縁を結び直すでしょう」

「……よかったぁ」

 ふにゃりと笑顔を零した凛生彩は、そのまま気を失った。


「時雨、福豆。凛生彩をゆっくりと休ませてください。目覚めるまで頼みましたよ」

「はい!」

「あい!」




 灯魄は時雨と福豆に凛生彩を任せて執務室に戻ってきた。


「お疲れ様でした。凛生彩さんは大丈夫でしたか?」

 桜が不安気に灯魄にお伺いを立てた。

「ええ、依頼の終了を確認した途端、気絶するように眠ってしまいました」


「・・・そうですか。凛生彩さんは眠れば元気になるでしょうか?」

 琴が落ち着かない様子で灯魄にお伺いを立てた。

「二人とも大丈夫ですよ。ゆっくり眠れば目覚めるでしょう。さすがに5日も根を詰めて画と向き合っていましたからね。ましてや依頼主の意識と同調しながらの作画は、相当神経を擦り減らしたことでしょう」


「そうですね・・・すごい集中力でした。お傍にお仕えしていて気迫が伝わってきました」

 桜は凛生彩の傍で食事や身の回りの世話をしていた5日間を思い出して‘ぶるり’と身震いをした。


「本当にすごい精神力でした。以前にニ鬼たちが凛生彩さんのことを『阿修羅様の化身』と言っていた意味が分かったような気がします」

 琴は5日間の死闘を振り返り遠い目をした。


「琴、桜。無事に依頼を終わらせることができたのは二人の支えがあったからこそ。凛生彩を支える役目を果たしてくれてありがとう」

「勿体ないお言葉、痛み入ります」

「よい経験ができました。お役目を与えてくださりありがとうございました」

 ニ死神は深々と礼を執った。


▷▷▷


 龍神様の赦しを得て、二人の縁結びを無事に終わらせた凛生彩はひたすら眠り続けた。凛生彩が眠り続けていた間の世話は、時雨と福豆が甲斐甲斐しく行っていた。その様子を視ていた灯魄はニ鬼の成長を喜んでいた。

「ニ鬼の成長は著しいものがありますね」

「はい。凛生彩さんを大切に思う気持ちの表れでしょう」

「愛ですね・・・ふふふ」


凛生彩が眠り始めて3日目の日の出と共に凛生彩は目覚めた。






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