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本日は解呪日和  作者: 朱潮 一初
新古書店街

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27/51

27.小鬼

「では、落ち着いたところでこれからの話しをしましょう」

 灯魄は三人を前にして話しを始めた。



「先ず、凛生彩には身の回りの世話と用心棒を兼ねて小鬼をつけます」

「……小鬼ですか?」

「はい・・・おいで」 灯魄が印を結びその印に息を吹き込むと、


 ―――ポン!―――シュ〜〜―――ポン!!


「おや?・・・ニ鬼来ましたか、一鬼のつもりでしたが・・・まぁ、いいでしょう。凛生彩の下に来たということはご縁繋がりの小鬼たちなのでしょう」


 凛生彩は… ポン!ポン!!という可愛らしい音とともに現れた小鬼たちの前でしゃがみ込み、口元を両手で覆いながら瞳を輝かせて灯魄を仰ぎ見た。

「……えっ、本当にいいのですか?」

「はい。凛生彩のために呼び寄せた小鬼ですから、今さら冥府に返すわけにはいきません・・・やはり凛生彩は驚きませんね」

「……この子達から【悪意】を感じないので……怖くないから驚かないですよ」

 視線を小鬼たちに移した凛生彩は、

「……かわいい〜!! 食べちゃいたいくらいかわいい〜!!……あなた達、本当に私でいいの?」

 緊張した様子の二鬼は控えめに頷いた。

「小鬼たちも同意していますので、名を与えてください」

 凛生彩は自分が名付けして良いのかと一瞬戸惑ったが、実はニ鬼に会った時に浮かんだ名がすでにあった。


「……名?えぇっと、最初に来てくれた子は《時雨(しぐれ)》」

 《時雨》と名を与えられた小鬼が ポゥと一瞬の間、金色の光に包まれた。


「後から来てくれた子は《福豆(ふくまめ)》」

 《福豆》と名を与えられた小鬼が ポゥと一瞬の間、銀色の光に包まれた。


「これからよろしくねっ!…《時雨》!…《福豆》!」


 名を与えられた小鬼は嬉しそうに、

 『凛生彩様、“しぐれ”の名をありがとうございました』

 ―ちょこんとお辞儀をした。

 『凛生彩様、“ふくまめ”の名をありがとうございます』

 ―もじもじとしながらお辞儀をした。


「……わっ、驚いたぁ。あなた達の声が頭の中で響いて聴こえるわ……念話ね」

『どぉかな?……私のも聴こえる?』

 小鬼たちは顔を綻ばせて大きく頷いた。


 琴と桜は一連の流れを見守りながら、静か?に念話で会話をしていた。

『小鬼が増えて賑やかになるわね』

 桜は琴を見た。

『えぇ、本当に。楽しくなりそうね』

 琴は桜を見て頷いきながら『《時雨》は黄身時雨から取ったのかしら?』

『えぇ、そう思うわ。“黄身”ではなくて良かった気がするわ』

『そうね。だったら《福豆》は? もし食べていたものから取ったのなら、一鬼は《時雨》よねぇ・・・そうするとあの場にあったもう一つは、私たちが食べた“豆餅”ではなくて?』

『そうよね。私たちが食べた“豆餅”よね・・・』

『『・・・?』』


 琴と桜はジィッと自分たち見ている、凛生彩の視線に気付かないでいた。

「琴さん、桜さん。名付けですが、《時雨》は安直ですが黄身時雨から取りました。お二人の予想通りでお恥ずかしい限りです……先ほどの黄身時雨は、今までに食べた中で断トツに美味しかったので、その感動のまま勢い(直感)で名付けた感じです。《福豆》はこの子から“ふくふく”した幸せな感じがしたのと、豆餅の“豆”を拝借して《福豆》です……ヘヘッ」

「「・・・なるほど」」


 琴、桜、時雨、福豆は、新たに生活を共にするモノ同士として目礼を交わしあった。



「意思の疎通が取れたようなので、これからの生活について話しをします」

 灯魄の声が室内の空気を一変させた。


 ――これから凛生彩もこのビルに住まう者として、ビルの裏口から出入りをしてください。裏口のドアには鍵はなくドアノブはついているだけで機能しません。呪文を唱えるとドアが開きます。しかし、この呪文はヒト属では発音ができませんので、唱えるのは小鬼たちにやらせます。

 灯魄は二鬼に呪文『*****』を教えた。二鬼は『承知した』と頷いた。


 ――凛生彩の部屋は東側に用意しました。後で二鬼に案内してもらってください。トランクルームに預けてある荷物の運び込みですが、二鬼に手伝ってもらってください。


 ――喫茶室《縁紡ぎ》の仕事をお願いすることがあります。凛生彩に仕事を頼むときは琴と桜が声をかけてください。

 琴と桜は『わかりました』と頷いた。


 ――私の仕事を手伝ってもらうことがあります。その時は私が声をかけますので、できる範囲で結構ですのでよろしくお願いします。

 凛生彩は瞳を大きく開け、「期待に応えられるように頑張ります」と拳を握り気合を入れた。


「大まかに言えばこのような感じなので、わからない事はその都度聞いてください」

「はい。これから末永くよろしくお願いします」

 凛生彩は一人一人と目を合わせ、丁寧に礼を執った。


「では、二鬼は部屋の案内をお願いします。部屋には最低限の必要な物は揃えてありますので、凛生彩は疲れたでしょうから部屋で休んでください。私はしばらく執務室にいますから何かあれば声を掛けてください」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて部屋にいってきます!」



 早速、時雨と福豆の案内に従って、凛生彩は今日から住むことになった東の部屋について行った。


 木製のドアの前で二鬼は立ち止まり、「こちらです」と時雨がドアを開けた。

「お邪魔します……」控えめに声を掛けながら室内に入った凛生彩は、自分が想像していた遥か斜め上にある室内の様子に驚きを隠せなかった。凛生彩のために用意されていた部屋は、凛生彩が探していた物件のどの部屋よりも広くて立派だった。


 室内に入ってすぐの部屋は、リビングダイニングになっていた。

「これって、最低限っていうより、最高なんだけど……全てが丁度いい感じの広さと大きさで私が望んでいた通りの部屋だわ! 時雨、福豆。すごいわ……」

 凛生彩は時雨と福豆の手を取ってブンブンと振り、喜びを表現した。


 ダイニングテーブルやカウチソファは落ち着いた色合いで、質のいい物だと一目でわかった。

 窓から室内に差し込む陽光はレースのカーテン越しに柔らかく注ぎ込み、夜には窓を覆うであろう萌黄色のカーテンが丁寧にかけられていた。

「どれも私好みのものばかりで、とても落ち着く部屋だわ」

 ダイニングには仕事用の机とチェアも用意されていた。

「ここにパソコンを置いて、横に本棚もあるから仕事が捗りそうね。このチェアはとても座り心地がいいわ」

 凛生彩は少し離れたところで自分を見守ってくれている時雨と福豆に笑顔を向けた。二鬼もにこりと笑顔を返した。


「キッチンの大きさも丁度いい……冷蔵庫などの家電や食器類も全部揃ってるわ……」

 一通りキッチン周りや収納を確認していると、凛生彩の袖を時雨が引っ張り別のドアの前へと案内した。

「このドアを開ければいいのね」時雨は頷くと、「わかったわ」凛生彩は促されるままドアを開けた。

 その部屋にはベッドとクローゼットが設えあった。

「このベッドはセミダブルサイズくらいかしら……寝相が悪いのを知られていたのね……『このベッドに入るのはお風呂に入ってからでないと……寝るのが楽しみだわ』……ふふっ」

 ベッドに飛び込みたい衝動を我慢して、「お風呂とトイレの場所を案内して」と福豆にお願いをした。


 案内されたトイレには手洗い器が設置されて清潔感があった。脱衣場には洗濯機が置かれ浴室を開けるとゆったり足が伸ばせるであろう大きさのバスタブが設置されていた。


 この部屋はまさに至れり尽くせりの、過不足ない完璧な空間だった。



「先生は休んでいいと言ってくれたけど、ゆっくり過ごすためにトランクルームの荷物を取りに行きたいんだけど、付いてきてくれる?」

「時雨と福豆は片手を上げ「「了」」と短い返事をくれた。

「そうと決まれば、先生に伝えてから行きましょう」


 凛生彩が部屋を出ようとドアを開けたところに琴と桜が立っていた。

「主様は先ほど冥府に渡りましたので留守にしています。主様から『気をつけていってらっしゃい。夕飯は歓迎会を兼ねて皆で食べましょう』と言付けです」

「……歓迎会ですか……嬉しいです。では、時雨と福豆と一緒に荷物を取りに行ってきます」

「「お気をつけていってらっしゃいませ」」


 琴と桜に見送られビルの裏口から出た凛生彩は、時雨と福豆と一緒に新しい一歩を踏み出した。







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