19.証人
「依那さん、千壽さん。申し訳ありません。閉店の時を迎えました」
桜は二人に帰宅を促した。
「ここで帰ってしまったら、もうお二人に会えない気がします」
桜の手を握り、首を横に振りながらイヤイヤをする依那に、
「心配には及びません。いつでも見守っています。時期がくればまた会えますよ」
依那は助けを求めるように千壽を見たが、
「依那、困らせたら駄目だよ。時期がくればまた会えると言ってくれているんだ。その言葉を信じて二人で生きていこう」
「わかったわ。わがままを言ってごめんなさい」
「いや、依那のわがままは可愛いから大丈夫だよ」
二人の甘い空気を残したまま、琴は千壽と握手を交わしながら、
「千壽さんにだけ裏話です。実は栞の碧竜の鱗ですが、竜人の“番”から発想を得たと主様からの伝言です・・・ふふふ」
千壽は一瞬だけ手に力が込もったが、
「……すべて合点がいきました。よろしくお伝えください」
勇者張りの凛々しい笑顔で主様に言付けを頼んだんだ。
桜は依那を優しく抱擁しながら、銀製の髪留めと金のバングルに手を伸ばし、自らの【願い】を込めた・・・〈依那を守って〉
二人と魂迎行者は再会を約束した。
コロ~ン コロ~ン コロ~ン・・・ドアベルの音が鳴り止む瞬刻、琴と桜は【寂】を持った。
琴と桜が居間に戻ると、そこには灯魄が待っていた。
「お疲れ様でした」
「「ありがとうございました」」
「依那は強い子です。大丈夫ですよ」
灯魄は桜を労った。
「千壽は優しい子です。大丈夫でよ。今回は頑張リに応えて諸々見逃します」
灯魄は琴を労った。
琴は灯魄の『・・・見逃す』を聞いて身体の緊張が解けた気がした。
『千壽がうっかり“守護天使”発言をしたときから怖かったんだよなぁ・・・よかったぁ』
琴は丁寧に礼を執った。
「では、これからのことを話ししましょう。座ってください」
琴は解れたばかりの身体に、再び緊張がくるのを感じた。
『あぁ、先ほどの依那のイヤイヤ感はこんな状態だったのか・・・』
この瞬間、琴は【察】を持った。と同時に、何時の頃からか感覚を共有していた桜も【察】を持った。
「「嫌です!」」
二人は揃って否を唱えた。
「まだ何も言っていませんよ・・・」
そのまま言葉を続けずに黙ったまま琴と桜を視ていた灯魄は、二人の抵抗を楽しんでいた。
『どうやら【不安】持ったな』
自我を持つと話し合いができるようになる。ただの傀儡ではこうは行かない。
黙ったままの灯魄に気付き、二人はハッとした。
「申し訳ありません。生意気を言いました。依那の魂を迎えにいくお役目がありますので、即消滅だけはご勘弁を」
「申し訳ありません。千壽に会う約束をしてしまったので、即消滅だけはご勘弁を」
二人は揃って頭を垂れた。
「何も心配はいりません。先ずは座りなさい。話はそれからです」
「「はい」」
琴と桜はしおらしく言うことを聞き席についた。
二人が灯魄の言を待つ中、灯魄は静かに語りだした。
「これからのことですが、琴と桜にここを任せて私は次へ行こうと考えています」
琴と桜は一瞬身動ぎしたが言を吐くのを我慢した。
―― 待てができるのは優秀な証。
灯魄は話を続けた。
「今すぐのことではありません。いずれはその様になると心して、これからも邁進するように」
「発言をお許しください」
桜が恐る恐るお伺いを立てた。
「許す」
「ありがとうございます。もし灯魄様がここを私共にお任せいただいた後、二度と灯魄様との御目通りは叶わないのでしょうか?」
「二人はその事を懸念していたのだね。私は元々、ここ《縁紡ぎ》だけではなくて、他の地域、違う世界にも拠点があるので、必要とされる場所に行くだけです。もし、ここ《縁紡ぎ》に私のやるべき事、仕事があれば立ち寄るよ」
「そうなのですね。それを聞いてほっとしました。灯魄様に安心してお任せいただけるように研鑽を積んで参ります」
琴と桜は静かに立ち上がり、姿勢を正して深々と頭を下げた。
「一区切りしたようだし、私は執務室に戻るよ。この後しばらく留守にするから《縁紡ぎ》は二人に任せます。ただし結界はこのままにして、こちらで全て把握できるようにしておくから、二人で出来ることをやってみるといい」
「「わかりました」」
執務室に戻った灯魄は、各地から届いた書類に目を通した。
『至急案件なし・・・特殊案件なし・・・』
ふと顔を上げた灯魄は意識を外に向けた。
「そろそろあの娘が迷い込んできそうだな」
ぼそりと呟き、残りの仕分けを終わらせて傀儡に指示を出した。
「それぞれに届けるように」
目の前から書類の束が物音を立てずに静かに消えた。傀儡は意思を持ち合わせていない・・・当然、返事はない。
賑やかな空気に慣れすぎたかもしれないと灯魄は月を見た。
「・・・ここが潮時か・・・」
今宵は下弦の月が浮かんでいる。あれを錬金するには丁度いい。
「あの娘が辿り着くまで、しばし冥府に戻るとしよう」
灯魄は誰にも告げずに《縁紡ぎ》をあとにした。
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コロ~ン コロ~ン コロ~ン・・・ドアベルの音が鳴る。
「「いらっしゃいませ。喫茶室《縁紡ぎ》へようこそ」」
琴と桜が来客を迎える。
「すいません。一人ですが大丈夫でしょうか?」
「ええ、お好きなお席へどうぞ。今メニューをお持ちします」
桜は彼女に一声をかけ、琴がお冷やを運んできた。
琴と桜は念話で話をしていた。
『この娘は誰のご縁かしら・・・』
『ここに辿り着いたのだからきっと誰かとご縁があるのでしょう』
『そうね。おもてなしをいたしましょう』
『ええ、おもてなしをいたしましょう』
琴と桜は気づいていなかった。
その娘が二人の念話を聞いていたことを・・・・・・
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独りの娘子と《縁紡ぎ》のご縁が繋がりました。
皆様が生き証人と成りましたことを、ここにご報告いたします。
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