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本日は解呪日和  作者: 朱潮 一初
新古書店街

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16/51

16.応報

 チリン~チリン~チリン~……ドアベルが鳴る。


 ベル音を合図に、本日出勤している杜江つむぎが静かに囁くように声をかける。

「いらっしゃいませ〜《MAKAFUSHIGI》へようこそ〜」


「こんにちは、杜江さん。囁やいてどうしました?」

 千壽一礼は棚を整理していたつむぎに遠慮がちに声をかけた。


 つむぎが目線でカウンターを指した。


「店長、頼むよ〜」

「いや、そう言われましても……」

「俺って常連じゃ〜ん。頼むよ〜〜。後生だよ〜〜」

「え〜っと。私がどうこうできる問題ではなくてですね……」

 まるで生産性がなく、進歩もなく、噛み合わない話をいい大人がただダラダラと垂れ流し、淀んだ空気が店内中に漂っていた。


「店長が困ってるなぁ」

「ええ、あのやり取りをかれこれ1時間近くやってますので……」

「それはすごいなぁ。で…あの客は何を頼んでいるのですか?」

「…実は」つむぎが答えようとした瞬間、


 バンッ!


 カウンターを両手で激しく叩きながら、男性客は店長に詰め寄った。

「何でだよ…バンッ! 何で入手不可なんだよ …バンッ!バンッ! 今までは大丈夫だったのに、何で今回は駄目なんだよ…バンッ!バンッ!バンッ!」

 


「さすがにこれはひどいな……俺が止めてこようか?」

 千壽がカウンターに向かおうとするのを、つむぎは首を横に振り制しした。


「大丈夫ですよ。そろそろ終わらせますので……」

 『護符を生み出した(灯魄)の責務として、最期のけじめを付けにいきますか』

 つむぎは千壽にここを動かないように言い、自分はゆっくりとカウンターに近づいた。


 つむぎがカウンターに意識を向けると、店長が男性客に対して、今日何度目かの説明を始めていた。

「もう一度説明しますが、この張り紙のここ…【注:仕入れ担当(探索者)の矜持を優先、気分次第で入荷不可の商品もあり】と書いてある通り、今回の依頼は探索者の判断により入手不可能商品となります。もしどうしてもご所望でしたら、他を当たってください」


「ふざけるな! 何が探索者の矜持だ。この護符がないと…俺は…呪われて……」


 つむぎは男性客の様子を見ながらさらに近づいた。

『わずかに残っていた理性が失われている。あれだともう人間と呼べないな・・・』


 自分が気に食わない相手に【護符】を使って呪いを放っていた男性客は、【呪い返し】を受けていた。


『護符の使用方法について説明を受けたはずだけど。まあ、ああゆう(やから)は他人の話に耳を傾けるわけがないから理解できないか・・・』


【呪い】は術を受け取る相手がいてはじめて行使される呪術であり、相手の【守護】が強固だったり、理の外側にいる鈍感な人間などには呪術は掛らない。目標(ターゲット)を見失った【呪い】はブーメランのように放った人間に戻ってくる。しかも戻ってきた呪いの効力は倍加している。因果応報。


『それとも店長が説明し忘れたかな? それもあり得るか・・・』


 男性客はいよいよ正気を失くし、よだれを垂らしながら大声で喚きだした。


 

 つむぎは素早く男性客の背後に回り込み、柏手を強く打った。


 ――パンッ――


 柏手と同時に男性客は白目をむき、身体が重力に負けて床に転がった。


「店長、直ぐに外に放り出してください」

「……はい」

 店長は無表情のまま、つむぎの指示に従い男性客の両足を持ち上げ、ズルズルと引きずって店の外に放り出した。


 『後処理は傀儡(死神)に任せましょう』



 チリン~チリン~チリン~……ドアベルが鳴る。




 目の前で繰り広げられた一連の流れに千壽の思考が停止した。

 店に居るのはつむぎと無表情の店長と思考停止の千壽だけになり、店内は水を打ったように静かになった。


 ―パンッ―


 つむぎが柏手を打つと、店長と千壽の顔に赤みが差し、瞳に力が戻ってきた。


「「……はあ〜」」

 二人は大きく息を吐き目を瞬かせた。


「杜江さん、いま一瞬の間の記憶が飛んだ感じがしたのですが……」

 千壽は自分の違和感に戸惑っていた。


「そうですね。ほんの一瞬の間ですので、生きていく上では子細なことです。忘れたことを忘れてください」


「……そうですね。子細なことで自分に無関係であれば、気にかける必要はないですね。ハハハ…ハハハ……」

 千壽はつむぎが関係する出来事に対して、『深く追求しないのが長生きの秘訣』だと魂が叫ぶのを聞いた気がした。



 千壽は、はたと気付いてしまった。自分が《MAKAFUSHIGI》に来た理由を忘れていた…と。

『これは大切だから忘れたら駄目なやつでしょう』

 千壽は内なる自分に駄目出しをして、一人苦笑した。


「杜江さん、今日はお願いしてた商品を取りに来たんです」

「はい。届いていますよ。少しお待ちくださいね」

 商品を取りにつむぎは店の奥へと入っていった。


「そうだ、店長の存在も忘れてた」

「やだなぁ千壽さんは。心の声が口から出てますよ。……って、あれ? さっきのお客さんは帰ったのかなぁ・・・うんうん・・・あれ?なんの用事だったかなぁ?まぁいいか・・・うんうん」

 店長は何事もなかったように予約票の整理を始めた。










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