初めての魔法。
「……ん」
目を開けた。
天井。
知らない。
当たり前だ。
恐らくここは異世界だ。
「……ここって異世界ってやつか?」
声が出る。
普通に出る。
「転生?転移?」
首を傾げる。
「しちゃったってこと?」
……うん。
たぶんそうだな。
いや冷静か俺。
メンタル強すぎだろ。
とりあえず。
横を向く。
「…………」
美少女。
近い。
いや近い近い近い。
近すぎる。
鼻が当たる距離。
「……大丈夫。俺は冷静だ」
反対側を向く。
「…………」
おっさん。
髭。
めっちゃ髭。
髭が当たってチクチクする。
「近えよ」
思わず言った。
すると。
その距離のまま。
美少女が口を開く。
「ニコ様」
「きゃっ、名前呼んじゃった……」
(小声)
でも。
距離が近すぎて。
全部聞こえる。
「お加減はいかがですか?」
「……あんたら誰ですか?」
やっと言えた。
まともな質問。
すると。
美少女が胸に手を当てる。
「私はアトラス・グランガーデンと申します!」
元気。
めっちゃ元気。
「ニコ様の教えを広める者です!」
「やめろ」
「こちらは――」
隣のおっさんを見る。
「私はキノッツォ・ソンチョと申しますな」
やっぱりそれっぽい。
「ニコ様の側近を務めさせていただいております」
「今日あったばかりだし、頼んでない。」
「光栄の極みですなあ!!」
話が通じない。
知ってた。
言葉は同じはずなのに通じない。
「……」
俺は天井を見た。
異世界。
確定。
やべえ信者。
確定。
黒歴史。
確定。
「……はは」
笑うしかない。
なら。
やることは一つだ。
異世界テンプレ。
「スッッッテぇぇーーータス!!」
両手を広げる。
「オーーープン!!」
――――何も起きない。
「……あれ?」
静寂。
「……もう一回」
気を取り直す。
「全てを灼く神炎よ」
アトラスが目を輝かせる。
キノッツォが頷く。
「紅き紅き世界を顕現せよ」
二人とも、期待の目。
「ゴッッッッッッドフレーーーーーーイム!!」
――――何も起きない。
「…………」
静寂。
めちゃくちゃ気まずい。
「……」
アトラスはキラキラした目。
キノッツォは期待満々。
「…………」
無理。
耐えられない。
「うおおおおおおお!!」
俺は外に飛び出した。
「ちょ、ニコ様!?」
「お待ちください!!」
知らん!!
知らん知らん!!
もう無理!!
恥ずかしすぎる!!
俺はそのまま走った。
村の家々を抜け。
森に入る。
木々の間を。
ただひたすら走る。
「はぁ……はぁ……」
止まる。
息を整える。
「……落ち着け」
冷静に。
冷静にだ。
そのとき。
ガサッ。
音。
「……?」
振り向く。
そこにいたのは。
――――ゴブリン。
緑色。
小さい。
でもゴブリンはニヤリと笑う。
近づいてくる。
「……うわっ」
普通に怖い。
武器なんてないし。喧嘩なんてあんまりしたこともない。
逃げるか?
いや――
そのとき。
頭に、よぎった。
黒歴史ノート。
俺が書いた設定。
“暗黒大邪神ニコは万物を見通す神眼を持つ”
たしか。
ーパーフェクトジャッジー
「……」
俺は息を吸った。
「パーーーーフェクトーーーージャッッッッッジ!!」
――――世界が、変わる。
視界に。
文字が浮かぶ。
【神代 虹来】
レベル:1
体力:10
魔力:9999
【ゴブリン】
レベル:8
体力:40
「出たァ!?」
出た。
出た出た出た。
マジで出た。
ゴブリンが。
こっちを見る。
すごい目で。
(……こいつヤバいやつでは?)
って顔で。
「いやいやいや」
いける。
これはいける。
だって俺。
邪神だぞ?
たぶん。
「……金属性、極大適正。これって俺のノートの...所謂精神魔法...だよな。」
視界に出てる。
これだ。
これ使えば。
なんとかなる。
はず。
たぶん。
きっと。
「アブソリュート・ウィル!!」
叫ぶ。
瞬間。
ゴブリンの足元に。
魔法陣。
光。
眩しい。
ゴブリンが動く。
一歩。
二歩。
そして。
――――片膝をついた。
「……え」
頭を下げる。
完全に。
臣下の礼。
「え?」
成功した?
マジで?
「……うわ」
これ。
ヤバい。
楽しい。
「ニコ様!!」
声。
振り向く。
アトラスたちが走ってくる。
そして。
ゴブリンを見る。
「まさか……」
顔が変わる。
「村の近くにゴブリンが……!?」
「危険ですぞ!!離れてくだされ!」
でも。すぐに俺の様子に気付く。
そして。
ゴブリンを見る。
ゴブリンが”従っている。”
その光景を見て。
「――――ああ!!」
アトラスが叫ぶ。
「ニコ様は、村の危機を察知し!!」
「救うために外へ!!」
「出られたのですね!!」
「違う」
とは言えない。
絶対に。
言えない。
「流石ですなあ!!」
「これが神の御業……!!」
「…………」
俺は、空を見た。
「……あーー」
そして。
小さく呟いた。
「まあ、そういうこと」




