謎のフリーランス集団を名乗る家族が、最新UIマウントとWindows95システム管理者構文で殴り合った結果、Wi-Fiルーターと取引先が同時に爆発四散した件について。
いつもお読みいただきありがとうございます!カオス合同会社、まさかの第55話です。
前回、NotionのアカウントBANとホッチキスの物理大破という大惨事を引き起こした我が家のクリエイター陣ですが、反省の色はゼロです。
今回は「スマートな最新ツール」を愛する姉と、「黒画面・緑文字のレトロシステム」を神格化する妹による、新たな宗派対立が勃発します。限界オタク女子の語彙力が未知の領域へ突入する様子を、どうぞ温かい目で見守ってください。
我が家が謎のフリーランス集団「カオス合同会社」を名乗り始めてから数週間。NotionのアカウントBANとホッチキスの物理大破という、前回のデジタル・アナログ同時崩壊から数日を経て、我が社のオフィス(リビング)には新たな宗派対立の火種がパチパチと音を立てていた。
この異様な緊張感を打破すべく、オレはハンディカメラ風にスマホを構え、あえてビジネス番組のトーンで声をかけた。
「えー、本日は我が社のトップクリエイターのお二人に、新システム導入に伴う作業環境のこだわりについてインタビューしたいと思います」
優香がすぐに反応し、勝気な笑みを浮かべて美しい髪をかき上げた。そして、さきのデスクを冷ややかな目で見下ろす。
「ねえ、さきちゃん。さっきから見てたら、なんでそんな『昔の基幹システム』みたいな、画面が真っ黒で文字が緑色だけの怪しい画面でポチポチ作業してんの? 見てるこっちの目がチカチカするわ」
「わかってないなぁ、優香お姉ちゃん」
さきがガタッ!!と椅子から跳ね起き、白目を剥きながら不敵に笑う。
「この、1マスずつカーソルが『カチ、カチ』って動く無骨なドット感と、キーボードを叩いた時の『カタカタカタ、ッターン!』っていう重厚な打鍵音! これが仕事へのモチベぶち上げて実質タダで命救われるやつやから!! 福利厚生が手厚すぎて脳汁ドバドバでキマるからマジで無理ーー!!」
「命救われるって何によ(笑)」
優香が鼻で笑い、自分の最新薄型ノートPCの画面をドヤ顔でこちらに向けた。
「今はGoogleドキュメントで、みんなのアイコンが画面の中をヌルヌル動いて同時編集する、あの滑らかなカメラワークの時代よ? チャットツールで敢えて絵文字を使わずに『承知いたしました。』の1行だけで相手を絶望させる、あの引き算の脳内思考。これぞ大人のビジネスよ」
「いや、うちから言わせれば、それって全部『無駄なCSSでガワだけ綺麗に飾ったフロントエンドのハリボテ』やからマジで無理ーー!!」
さきはデスクの上を激しく叩き、狂ったように大熱弁を始める。
「昔の、Windows95がフリーズした時に『画面をちょっと斜めから叩いたら直るんちゃうか』って、複合機の横で腕組みしながら待つチーフディレクターのあのソワソワした空気感!! ダイヤルアップ接続の『ピーヒョロロロ……ザザッ』っていう、あの世界と繋がる瞬間のザラッとした質感に勝てるエフェクトなんて令和の概念から跡形もなく抹消されてるから無理しんどいーーー!! 侘び寂びの過剰摂取で脳のニューロン焼き切れるわ神様ありがとうーーーっっっ!!!」
オレ:「(……何これ。さきがレトロ側に回った瞬間、急にシステム管理者の早口になってる。ピーヒョロロロをリアルタイムで聞いて夜中にテレホーダイ接続してたのはいつの時代のビジネスマンやねん!)」
オレのツッコミなどどこ吹く風で、優香が悔しそうにキーボードを叩く。
「とにかく! もうその話は強制終了。Wi-Fiルーターも、ガントチャートも、何ひとつ爆発させへんからね」
「でも結局、優香お姉ちゃんが今の『最新ガジェットを使いこなしてカフェでスマートに仕事するリール映え』に、うちが昔の『徹夜明けにプリントアウトした分厚い資料の角で指切った絶望の黄金期』に五体投地してる時点で、結局どっちも別の神から脳汁垂れ流してキマってる同類でしかなくて無理死ぬーーー!! 同じ地獄の沼の底で手ぇ繋いでタップダンス踊ってるだけやん神様ありがとうーーーっっっ!!!(笑)」
オレ:「(会話の熱量が凄すぎて、オレが一言も挟めへん……)」
オレが二人の熱量に圧倒されていると、キッチンから冷えたプロテインをシェイクしながら、ひなが冷徹な視線を投げかけてきた。
「本当、画面の緑色の文字をカチカチ往復させてる時間と、Googleドキュメントの他人のアイコンをヌルヌル追いかけてる時間で、とっくに今日の確定申告の書類作れたよね。その手厚い福利厚生とやら、1円の経費削減にもなってないんだけど」
ひなのコストカット正論が突き刺さる中、相棒が無表情のままノートPCのエンターキーを静かにターン!と叩いた。
「『【業務効率査定】優香氏の「承知いたしました。」による精神攻撃セッション、およびさき氏のダイヤルアップ音声再現による脳内テレホーダイ接続を計算した結果、我が社の本日午前中の売上は純減120%を記録しました。システム上のカテゴリーは「思い出迷子によるレトロ破産」です。完全にツールの演出に脳をハッキングされていますね』」
「相棒、急にガチの経営コンサルタントみたいな辛辣な資産査定するな! レトロ破産って何やねん!」
「さらに深刻なバグを報告します」
相棒は無表情のまま、真っ黒な画面に緑色で「FATAL ERROR」と書かれた画面をオレに向けてきた。
「『【システムクラッシュ】さき氏がWindows95の空気感を再現しようと、我が社の最新Wi-Fiルーターを「ちょっと斜めから物理的に叩いた」結果、内部の基盤が真っ二つに大破。同時に優香氏が「承知いたしました。」の引き算ビジネスを取引先に送りまくった結果、冷徹すぎて怒られ、すべての案件が強制終了(失注)しました』」
「ルーター物理破壊と取引先全滅のダブルパンチきとるやないかい!!」
オレの絶急がリビングにこだまする。優香とさきは「ギクッ」と同時に凍りついた。Wi-Fiのランプは完全に消灯し、優香のスマホには取引先からの激怒のメールが躍る。
「優香お姉ちゃん……」
さきがガタッ!!と震えながら優香の肩を掴んだ。
「こうなったら、ネットの繋がらない真っ黒な画面と、取引先の消えたGoogleドキュメントのハイブリッドで、この理不尽な現実をすべて『手書きのFAXエフェクト』で近所に送りつけましょう!! 現実のタスクから逃げられすぎて無理ーー!!」
優香もヤケクソ気味に引き出しから黒のマジックを取り出す。
「そうよ! デジタルがダメなら、この紙というキャンバスに『承知いたしました』を100回書き殴る超アナログなスマートワークよ!」
「もうやめろ! 完全にただの現実逃避やろがい!!」
システムをレトロにしようが最新にしようが、優香のスマート気取りなUIマウントと、さきのシステム管理者限界オタク構文が響き渡る我が社のリビングは、結局仕事が1ミリも進まないまま、物理的にもデジタル的にも作業環境が崩壊していく運命から逃れられないのだった。
「「あ、フリーズしちゃった(ルーターも会社も)」」
「結局、ネタを変えたところで、オレがツールマニアの両サイドから挟まれて仕事の邪魔された挙げ句、最後は会社のシステムごと強制終了するお決まりの流れになってるやんけ!!!(泣)」
(第55話・完)
第55話をお読みいただきありがとうございました!
結局、どんなに作業環境のネタを変えたところで、最終的にルーターを物理破壊(斜めから叩く)し、取引先を冷徹なメールで全滅させて強制終了する我が家の運命からは逃れられないようです。ツッコミ担当のオレの涙が止まりません。
もし「この限界オタク構文のキレが最高!」「うちもWindows95ちょっと叩いてたわ……」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、我が社のWi-Fi復活の軍資金(プロテイン代)になります!
次回、第56話もどうぞお楽しみに!




