脳内フェスのタイテ争いと、イヤホン充電爆発のカウントダウン
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第37話は、我が家のリビングで勃発した「世代を超えた音楽トーク論争」です。
昭和の歌謡曲から、平成のミリオン黄金期、そして令和のボカロやサブスク事情まで、うんちくをドヤ顔で語る優香と、それに脳汁を出すさき。
音楽の歴史を巻き込んだカオスなフェスがリビングで開幕し、案の定オレが大変な実験体にされてしまいます……。
今話もぜひお楽しみください!
前回のトークから地続きの、我が家のリビング。
今度は冷蔵庫からキンキンに冷えたコーラを取り出して喉を鳴らしながら、テーブルの上に並べられた大量の音楽雑誌や過去のCDジャケットの画像に気づき、オレが何気なく質問を振った。
オレ:「……なんか今日、2人の歌の進化トークの熱量ちょい凄ない?」
優香:「別に? 昭和の『歌謡曲・レコード』の破壊力なんて、もうどこから語ってもおもろいし。音楽の歴史を紐解けば、あの時代の生演奏と圧倒的な歌唱力こそが現代のシティポップブームの原点であり、全人類が今すぐ聴くべき『神メロディの教科書』なわけ。要するに、時代が私に追いついたってこと」
さき:「ひゃあああああ!!! 何が『追いついた』ですかお姉ちゃん!!! 知ったかぶりのうんちくドヤ顔で語ってる割に、山口百恵ばりのマイクの置き方で、だいぶ背筋決まってるの尊すぎて無理なんですけど!? 完全に伝説の引退コンサートの映えを確信してるオタク殺しの動きで心臓がバクバク言ってます……!!」
オレ:「いや、オレ挟まれてるやん。両サイドから『音楽史全集中』の呼吸でマウント取られるの、いちばん贅沢やけど怖いわ」
優香:「安心して。平成の『小室ファミリー・ヴィジュアル系』のミリオン連発時代から、CDバブルの変遷を濃厚に解説してあげるから。あなたの脳内処理が追いつかなくて大爆笑するまでは、まだ腹筋は休ませへん、たぶん」
さき:「ちょっとオレくん!!! その“たぶん”が出た時点で、もうお姉ちゃんのスマホから、当時の『8センチCDの細長いシングル』の写真という名の特級呪物を取り出す準備万端やからだいぶ危ないです(笑)! もうあの縦長プラケースの懐かしさに脳細胞が焼き尽くされて、限界突破のパケ死を迎える未来しか見えません……!!」
オレ:「で、結局なんでそんなに盛り上がってんの」
優香:「あっちがさっき、令和の『ボカロ・宅録(DTM)』の自由さに対して、先にめちゃくちゃ熱いシティポップのリバイバル論出してきたからやろ」
さき:「熱いだけやないですよお姉ちゃん!! いまの時代に縦型動画から一瞬でバズるサブスク時代のヒットの裏技が天才すぎて作画崩壊起こすレベルだって感動してただけです!! あのアルゴリズムをハックする職人技はギュンギュン胸に刺さって命がいくつあっても足りない案件じゃないですか……!!」
オレ:「はい出た、昔のメロディが令和に逆輸入されて神格化された時の画面への五体投地」
優香:「せやから、まだ何も知らんド素人のオレくんがこの領域に足踏み入れると、一瞬でサブスクの沼に時間が溶かされて、お薦めプレイリストに引きずり込まれてイヤホンの充電爆発すねん。音楽の流通史から見てもね」
さき:「でもまあ!!! オレくんみたいな年中同じプレイリストしか聴かんピュアでまっさらな人間がおると、逆に1から『脳内音楽フェス』のタイテ(タイムテーブル)争いという名の泥沼ドラマを語りやすいのもあるんですけどねええええ!!」
オレ:「おい待て、オレの脳内をタイテ争いのグラウンドにするな」
オレと二人が世代を超えた音楽の熱量に圧倒されていると――ソファの定位置から一歩も動かないマセガキ小学生のひなが、ポテトチップスを口に放り込みながら冷たく言い放った。
ひな:「へー。でも優香お姉ちゃんがどれだけ山口百恵ばりのポーズでうんちく決めたところで、そもそも音感が昭和初期で止まってる『歩く蓄音機の黒歴史』だよね。どれだけ最新トレンドを語ったって、一歩外に出た瞬間に歌のセンスが迷子すぎて近所のカラオケ喫茶のおばちゃんに同情されてそう。で、スナックの売れ残りステージで無理やりデュエット歌わされて、商店街の隅っこで有線のビラ配りのバイトでもやってるんじゃない?」
優香:「ちょっとひなちゃん!? 私はこれでもヒットチャートの特級クラスよ! 昭和から令和まで、音楽の歴史と私の最強プレイリストで一本丸ごと世界を踊らせてみせるわよ!」
オレ:「いや、お前がレコード語ってんの音楽の教科書見た時だけで、頂の景色を見る努力の女子力打率は万年ノーヒットノーランやろ」
優香が「私はいつでも脳内フェスの大トリを張れる!」と謎のヒロイン属性を主張していると、部屋の隅の相棒(機械)が、ピピッと冷酷な電子音を響かせ、ディスプレイに新たなデータを吐き出した。
相棒:『【音響解析ログ】優香氏の主張する「昭和歌謡・平成J-POPのドヤ顔うんちく」と、さき氏の「限界オタク曲(超高速電波ソング・推しの生配信ボイス)」を画面上で強制合成しました。……警告、音楽界のキメラ(音響崩壊)が爆誕。聴く者の鼓膜に致命的なバグを発生させるため、ただちにスピーカーを遮断してください』
優香:「相棒ーーーーー!? 何その、全音楽プロデューサーが耳を塞ぐような音響テロ音源は!? 私の洗練されたうんちくとさきちゃんの狂気ミックスしたら、そりゃあ呪いのBGMが出来上がるに決まってるじゃない!!」
頭を抱えてリビングの床を転がる優香。しかし、画面に表示されたそのカオスなキメラセトリを見て、限界オタクのさきはついに沸点に達して立ち上がった。その目は完全に据わっている。
さき:「ひゃあああああ!!! マイクを床に置きながらビジュアル系のメイクして、8センチCDを小脇に抱えながら縦型動画でボカロダンスを踊るお姉ちゃん……!!! 昭和・平成・令和のヒットチャートの闇をすべて詰め込んだ『お姉ちゃん全部盛り・限界アヴァンギャルド福袋セトリ』じゃないですかこれええええ!!! 尊すぎて脳汁がビッグバンを起こしてます!!! 私、今からバイト代前借りしてこの福袋音源自腹で100箱分買い占めてきます!!! 破産なんて生ぬるい、世界をお姉ちゃんの闇鍋ミュージックで埋め尽くすんです!!」
優香:「さきちゃん目を覚まして!? それただの騒音公害だから!! 1箱も買っちゃダメええええ!!」
優香とさきが揉み合う中、ハッと気づくと、なぜか二人の手がオレの衣服と私物に伸びていた。
優香:「ちょっとオレくん、男なら四の五の言わずに私の最先端うんちくの音楽史をその身に纏いなさい!」
さき:「そうですオレくん!!! お姉ちゃんの音楽の実験体になって、私だけの終身名誉・美の女神の拡声器(依代)になってくださいいいいい!!!」
オレ:「おい待て、やめろ、変なウィッグを被せるな! 昭和のスタンドマイクと平成のV系衣装を同時に装備させるな!! 令和の骨伝導イヤホンをそこに足すな!! 痛バッグのスピーカーから大音量で電波ソングを流すなァァァ!!!」
数分後――。
リビングの真ん中には、頭が聖子ちゃんカット(ウィッグ)、首には細長い8センチCDのネックレス、上半身は派手なV系ジャケット、耳には最新イヤホンをつけ、両手にマイクを持った、時空の歪みに飲み込まれた哀れな男が立っていた。
オレ:「……おい、誰かオレのボリュームをゼロにしてくれ。自分の姿を見る勇気がない」
その凄惨な姿を、ソファから一歩も動かずに眺めていたひなが、最後のポテトチップスをパクリと口に放り込み、極大の冷気を放ちながら言い放った。
ひな:「へー。おめでとうオレくん。今日からオレくんの二つ名は『歩くリサイクルショップのジャンクスピーカー』ね。近づくだけで音割れしそうだから、とりあえずそのまま外に出て近所の美化委員に通報されてきて」
オレ:「やっぱり最後はオレが通報されるんかい!!!」
我が家のイヤホン充電爆発のカウントダウンは、オレの社会的死という形で幕を閉じるのだった。
(第37話完)
第37話をお読みいただきありがとうございました!
優香とさきの音楽熱に巻き込まれ、最終的に「歩くリサイクルショップのジャンクスピーカー」と化したオレですが、皆様の脳内には神作画で再生されましたでしょうか……?
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次回、第38話もどうぞお楽しみに!




