第3話 【依頼?】 剣士の少年の相手をせよ!
ローン…返済まで…あと…大金貨…30枚…
僕が頭を抱えて叫んでいると、玄関のベルが控えめに鳴った。
「レイくん……おはようございます。あの、お礼に一緒にお茶をと思って……」
おずおずと入ってきたのは、前回の依頼で心の鍵を開けた元引きこもり令嬢、ルノアさんだ。手には可愛らしい焼き菓子の箱が握られている。
「ルノアさん! 昨日ぶりですね!どうぞこちらへ。今美味しい紅茶を淹れますね」
ドスケベ師匠のローン問題で荒んだ心が洗われるようだ。平和なお茶会が始まる——そう思っていた。
ズドォォォォン!!
「な、なんだぁ!?」
轟音と共に、表門が豪快に吹き飛んだ。手作りのクッキーを落としそうになりながら、僕たちは庭へと駆け出す。
煙の中から現れたのは、腰に名刀を差した凛々しい少年だった。前髪を風になびかせ、刺すような視線をこちらへ向けている。
「グレンツ・セルスティアの弟子、レイ・セルスティア! 我が師・剣聖バルドの名において、貴様に勝負を申し込む!」
「えーっと、誰ですか?」
「俺は剣聖バルドの一番弟子、カイル・クレイマン!」
……厄介な奴が現れてしまったようだ。
【人物分析】
カイル・クレイマン…黒髪。赤い目をしてる。軍服みたいな服を着ている。(ちょっとかっこいいと思ってる。)無駄に爽やかなイケメンだけど、なんか変な奴みたいだ。
「……あの、門扉の修理代って、僕の給料から天引きされるんですけど」
僕が死んだ目で引きつった笑顔を向けると、カイルは僕の姿——白髪、可憐な顔立ち、そしてフリフリのレースメイド服——をまじまじと見つめ、ガタガタと動揺し始めた。
「な、なんだその格好は!? 貴様、女……いや、骨格は男!? 新手の幻覚魔法か!? 騙されんぞ!」
「僕、男ですよ。それより門扉を——」
「問答無用! 剣聖流の一撃、受けてみよ!」
話を聞かない! カイルは鋭い踏み込みから、一瞬で距離を詰めて剣を振り下ろしてきた。元Sランク直伝の、目にも留まらぬ速さ!
(あぶなっ! 避けないと服に砂ホコリがついちゃう!)
僕はスカートの裾を優雅に翻し、ステップを踏むように間一髪で回避。
そのまま回避の勢いを利用して、腰のお掃除用ハタキ(風魔法付き)をササッと振るう。カイルの剣撃で散った庭の落ち葉が、魔法の風に乗って一箇所に綺麗に掃き集められた。
「な……何!? 攻撃を回避しながら庭の清掃を完了させただと……!?」
カイルが焦ったように連撃を繰り出す。「剣聖流・疾風切り!」
僕はハタキと短剣の柄を使い、カチン、カチンと軽やかに刃を受け流していく。師匠から「主人の周りのホコリを払いながら刺客を殺せ」と叩き込まれた身としては、余裕で対処できる範囲だ。
だが、すれ違いざま。僕の短剣の風圧で、カイルの軍服の肩が『ビリッ』と破れてしまった。
「くっ……斬られたか!」と死を覚悟するカイル。
「ああっ! 大変、服が破れちゃいました!ごめんなさい!」
僕はサッと胸元から『お裁縫セット』を取り出すと、交差するコンマ一秒の間に針と糸を走らせた。チクチクチクッ!
着地した時、カイルの破れた肩には、完璧な手さばきで「小さな花の刺繍」が施されていた。
「な……なんだこれは!? 傷一つ負わせず、破れた服をその場で完璧に直した……!?」
カイルは自分の肩を見つめ、ガタガタと震え出した。
「僕の命を奪うことなど容易いのに、あえて服を直し、慈悲を示したというのか……!? なんという気品、なんという圧倒的格差……!」
「違います! 単に服を汚したまま帰すのがメイドとして嫌だっただけです!」
ガクッとその場に膝をつくカイル。
「参りました……! レイ殿……いや、レイ師匠! 僕にその『武術と気品が融合した至高の領域』を教えてください!」
「いや弟子とか要りません! 僕はただの何でも屋メイドです!」
そこへ、陰で見守っていたルノアさんが歩み寄ってきた。……なんだか周りにバチバチと恐ろしい圧の防護魔法を漂わせている。
「……レイくんに気やすく触らないでください。レイくんは……私の専属メイドです」
(専属じゃないですよ〜早く自覚して〜…)
「なっ、なんだこの少女の放つ膨大な魔力と恐ろしい圧は……!? 異次元の魔導師か!?」
「ルノアさんも変な圧を出さないでー! カイルさんも目を輝かせないでー!」
カイルは一人で深く頷いた。
「なるほど、これが噂に聞く『グレンツ一門』の層の厚さ……! よし、僕も今日からレイ師匠の助手として修行させてもらいます!」
「話を聞いてくれない人がまた増えた……」
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「師匠! 本日の何でも屋の依頼は何ですか!? どんな強敵でも斬り伏せます!」
「……今日の依頼は『ドブ掃除と溝のドロ上げ』です」
スコップを持たされ、呆然と立ち尽くすイケメン剣士カイル。
さらに屋敷に戻ると、ドスケベ師匠が「おお! 男二人のメイド修業か! 新たな扉が開くな!」と、勝手に『男用メイド服』をローンで注文していた。
「師匠ーーー! 勝手に仲間(?)の服までローンで買わないでくださいーーーーっ!」
「師匠の師匠殿!お気持ちは嬉しいのですが私には師匠から頂いたこの軍服があるので」
「師匠が多いな〜!!」
僕の絶叫が秋晴れの空に響き渡り、僕の苦労人ライフはさらに混沌を極めていくのだった。




