第2話 【依頼】引きこもり少女を部屋から連れ出せ!
「……ということで、『何でも屋』記念すべき一回目の依頼です!」
僕は目の前にある立派なお屋敷を見上げ、ワクワクしていた。
屋敷の主は、この街でも有数の大富豪・フェルエ氏。
今日、僕の『メイドの何でも屋』(命名:某ドスケベ師匠)に舞い込んできた記念すべき最初の依頼人だ。
「頼む! 私の娘、ルノアを助けてやってくれ……!」
豪華な服を着たフェルエ氏は、僕の手を両手で握りしめ、涙目で懇願してきた。
「話を聞けば、娘のルノアさんはもう3ヶ月も部屋から出てきていないとか……」
「そうなのだ……。あの子は昔から本当におとなしく、繊細な子でな。魔術の才能があるせいで、周囲の期待や人間関係が怖くなってしまったようなのだ。近づいた者を遠ざける結界魔法が張られているせいで、誰も部屋に入れなくなってしまってな……」
フェルエ氏はハンカチで涙を拭い、続けた。
「依頼内容は二つ! 『ルノアの部屋に入り、完璧に清掃すること』。そして『彼女を部屋の外へ連れ出すこと』だ! 報酬は大金貨5枚……どうだろうか!?」
大金貨5枚……!!
それだけあれば、あのドスケベ師匠が勝手に買ったあのアホみたいに高い『至高のメイド服』のローンが、一気に二か月分は返せる!(ローンは24ヶ月ですけどね…はは…)
「引き受けました! 僕のメイドスキルと師匠直伝の技術、存分に見せてあげますよ!」
僕はお決まりの極上のお辞儀をバシッと決め、意気揚々と屋敷の二階へと向かった。
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ルノアさんの部屋の前に到着すると、そこはどこか切ない光景だった。
ドアには『ごめんなさい、はいらないでください』と、ちいさく丁寧な文字で書かれた紙。
そしてドア全体を覆うように、ぽわぽわとした淡い光の結界魔法が張られていた。
「うわぁ……すごく優しくて、でも寂しそうな魔法ですね……」
後ろで見守るフェルエ氏が青ざめた顔で呟く。
「誰かが力ずくで破ろうとすると、やわらかい光の泡に包まれてポイと遠ざけられてしまうのだ……レイ殿、怪我はしないと思うが気をつけてくれよ?」
「あ、大丈夫ですよ。この結界は無理に破ろうとするんじゃなくて、優しく解きほぐせばいいんですよ」
僕はポケットから杖(小さいやつです。杖は用途に応じて4種類。使い分けてます!)を出し、結界にそっと触れた。
師匠のスパルタ教育中、「結界の隙間を拭き掃除するような精密な魔力制御」を徹底的に叩き込まれた僕にとって、こういう繊細な魔力をほどくのはむしろ得意分野だ。
「えいっ、と」
ふわり。
清々しい光の粒となって、防護膜は優しく消えていった。
「「……え?」」
フェルエ氏と後ろの執事さんが目を丸くして固まっている。
ふふん、驚きましたか! 僕のメイド(?)スキルを舐めてもらっては困ります!
「お邪魔しますよ。」
静かにドアを開けて、僕はお部屋の中に足を踏み入れた。
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お部屋の中は薄暗く、カーテンが締め切られていた。
足元には溜まった本や紙くず。そして部屋の隅で、毛布を頭からすっぽりかぶった小さな影が、びくっと肩を揺らしていた。
「ひっ……! こ……来ないでください……」
蚊の鳴くような、消え入りそうな声。
直後、僕の方へ向かって『ぽんっ』と柔らかい風の球が飛んできた。
直撃しても痛くも痒くもない、まるでクッションを優しく投げられたような手応えのなさそうな魔法。
本当に、誰ひとり傷つけたくないんだなという気持ちが伝わってくる。
(服にホコリがついちゃうから回避しちゃおうかな……と思ったけど)
僕は避けるのをやめて、その温かい風の球を正面から優しく受け止めた。
「……痛くない魔法、ありがとうございます。お気遣い、嬉しいです」
「え……?」
毛布の隙間から、くりっとした大きな瞳がのぞいた。
ボサボサの髪に、おどおどとした表情の可憐な少女——ルノアさんだ。
【人物分析】
ルノアさん…白髮ロングで水色の目をしてる。ちょっとつかれた表情をしてるけど、すごい美少女さんだ。年齢は…僕より2,3歳位幼いくらいかな。ふ〜む、分析完了!
僕はその場で優しくフリルを揺らし、膝を折ってお辞儀をした。
「初めまして、ルノア様。本日よりお部屋のお掃除と、お茶のお相手を担当させていただきます、メイドのレイと申します」
「め、メイドさん……? でも……声が、男の子……?」
「あはは、細かいことはお気になさらず! ……それよりルノア様、女の子のお部屋にホコリが溜まっているのは、メイドとして見過ごせません!」
僕はさっとお掃除用のハタキを取り出し、足音を立てずにすばやく部屋の中を巡った。
サササ……。
「本棚を整理して、床のちりを風魔術でそっと集めますね」
シャーーっ。
「カーテンを少しだけ開けて……お日様の光をちょっとだけ取り入れましょう」
ほんの2分。
薄暗くどんよりしていたお部屋は、あたたかな日差しが差し込むピカピカで清潔な空間へと変貌を遂げた。
「すごい……一瞬で綺麗に……」
ルノアさんがぽかんと口を開けて見とれていると——
ぐ〜〜〜〜〜〜〜っ。
部屋の中に、とっても控えめで、でも可愛らしいお腹の音が響いた。
「あ……うぅ……っ」
ルノアさんは顔を真っ赤にして、小さくなって毛布に潜り込もうとした。
「ふふ、お腹が空くのは生きている証拠です。ルノア様、温かいものでも食べませんか?」
僕は持参していた魔法のポーチ(※)から、さっと手作りの品を取り出した。
※魔法のポーチ…某未来からのロボット系作品に出てくるほにゃらら次元ポケットみたいなポーチ。大体入るし、保温効果もバッチリ!
前世の経験と異世界の食材、そして師匠の厳しい味覚チェックをくぐり抜けた、僕特製の『かぼちゃのミルクスープ』と『ふんわりパン』だ。
ルノアさんの前にそっと置くと、甘く優しい香りが部屋中に広がった。
「……食べて、いいの……?」
「もちろんです。どうぞ」
ルノアさんは小さな手でスプーンを持ち、おずおずとスープを一口含んだ。
「……っ! ふわふわして……あたたかくて……すごくおいしい……」
ぽろぽろと、ルノアさんの目から大きな涙がこぼれ落ちた。
「わたし……外の大きな音や……人がいっぱいいるところが怖くて……。ずっとここから出られなくて……自分はダメな子なんだって……」
「そんなことないですよ」
僕はルノアさんの隣にそっと腰掛け、優しく語りかけた。
「僕も昔、自分の居場所がなくて、誰にも優しくしてもらえずにお腹を空かせて倒れそうだったことがあります。閉じこもっていると、どんどん心が暗くなっちゃいますよね」
「レイさんも……?」
「はい。でも、お腹いっぱい美味しいものを食べて、お日様にあたって……そうやって少しずつ元気になるだけでいいんです。外が怖いなら、まずは誰もいない静かなお庭の木陰で、僕とお茶を飲むだけでも十分ですよ」
「静かなお庭……レイさんと、ふたりで……?」
「はい。僕がずっとそばについていますから」
ルノアさんは涙を袖でゴシゴシと拭くと、小さな手で僕のメイド服の袖をキュッと掴み、こっくりとうなずいてくれた。
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こうして、ルノアさんは半年ぶりに部屋を出て、お屋敷の木陰で静かにお茶会を楽しんだのだった。
「おおお……ルノア! ルノアが……! ありがとう、本当にありがとうレイ殿!」
フェルエ氏は陰から涙を流しながら見守り、約束通り大金貨5枚の入った袋を僕に手渡してくれた。
よっしゃーーー!! 依頼大成功! これでローンの返済ができるぞー!
そう思ってウキウキしていた、その時だった。
「あの……レイ、くん……」
お茶会が終わり、ルノアさんが控えめに僕の裾を引っ張ってきた。
呼ばれ方が「レイさん」から「レイくん」になってる。なんかちょっと照れるなあ。
なんて思いながらも、
「はい? なんでしょう、ルノア様?」
「わたし……レイくんがいなくなったら、また怖くなっちゃうかも……」
「えっ?」
ルノアさんは上目遣いで僕をじっと見つめ、消えそうな声で、でもしっかりと固い決意を込めて言った。
「お願いです……わたしの専属メイドになって、ずっと……ずっと私のお部屋に一緒にいてください……。レイくんがいてくれるなら、わたし、ずっとお部屋にいても幸せです……」
「えええええええーーーーーっ!? 部屋から出せるようになったと思ったのに、今度は僕と一緒に閉じこもる気ですかーーーーっ!?」
萌え袖の手でぎゅっと腕を抱きしめてくる大人しいルノアさんに、僕は困惑して悲鳴を上げた。
(た、助けて師匠ーーー! おとなしくて大人しい子ほど、一度心を開いたら激重になっちゃうタイプでしたーーー!!)
……まあ、そんな僕の悲痛な心の叫びも虚しく。
帰宅後、大金貨5枚を手にしたドスケベ師匠は「おお! 素晴らしい成果だ! ではこの金で、ルノア様のお部屋に飾るための至高の『男メイド等身大タペストリー』を注文するとしよう!」と笑顔でローンを増やすのであった。
え?え?えーーーーーーー!?!?!?
僕の借金生活とカオスな何でも屋の日々は、まだまだ始まったばかりです……
◇ルノアとはどうなった?◇
ルノアが専属メイドになって欲しいというお願いをした後。
「え、えっとですねルノアさん。僕は訳あってお金を稼がないといけなくてですね…」
「じゃあわたしがぜんぶ払う!」
確かに。ルノアさんに頼って借金を返済することも可能かもしれない。だけど…
「いえ、お断りします。僕の師匠の借金ですから、僕が責任持って返済します。ルノアさんのお気持ちは嬉しいですが、年下の女の子に甘えすぎてはいけないです。」
「わかった…。でも!わたしレイくんと一緒にいたい!」
いやあ照れるなあ。女の子にこんな事言われるの何年ぶりだろう。えへへ…
「ありがとうございます。じゃあ僕たちは今日からお友達…ですね!」
「友達…うん、うん!ともだち!」
ルノアさんはずっと飛び跳ねて喜んでくれました。
ってことで、ヒロイン枠?ってやつなんですかね?
何でも屋初めての依頼で女の子のお友だちが出来ました!




