第1話 はじめまして。ご主人様!
僕の名前はレイ・セルスティア。
現在、師匠のもとで、男メイドをしています!
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コホン、
では詳しく経緯を説明しましょう!
僕は元々日本に住んでいたごくふつーの中学生でした。
て言っても、家の中は全然普通じゃなかったんですけどね。
父と母は、僕が12歳の頃、交通事故で死にました。
僕は親戚に引き取られましたが、それはもう冷たい人達で、僕は除け者扱いでした。
飯は自分で作れ、金は自分で稼げ、と。中学生なのに働けるわけないじゃないですか!理不尽すぎるぅー!
僕は生きるのが少し嫌になっていました。
でもある朝、目覚めるとー、
『異世界転生』していたんです!
びっくりでしょう?僕も最初は驚きました。
しかも、水たまりに映った自分の姿を見て、さらに二度見。
なんと、前世の冴えない顔立ちから一転、透き通るような白髪に、くりっとして、美しい目。
水たまりを覗き込みながら、僕は思わずガッツポーズを決めました。
なんと、「めちゃくちゃかわいい系の男の子」に生まれ変わっていたのです!
でも、これは神が僕に与えてくれたチャンスでは?と思いました。
友達が学校で話していた、『異世界転生して、無双する!』的なやつでは!?、と。
じゃあ無双して魔王でも倒したかって?
いやー、異世界人生も山あり谷ありですよ。
なんと、早速僕に、と、て、つ、も、な、く、大きな問題がふりかかったのです!
お腹が減ったのです!!!
これは大問題だなと。腹が減っては戦はできぬ、ですよ。
お腹が減ったらなにか作りましょう!前世では自分で家族のご飯を作らされることが多かったですから!
って、食材がなーい、!
冷蔵庫に入ってたニンジンは?ジャガイモは?シュークリームは?
どこに消えたの〜〜!!って、転生したら冷蔵庫なんてないか。
じゃあ外食にでも行きましょう!外食なんていつぶりだろう!?
カレー?オムライス?チャーハン?シュークリーム?(僕の好物です。えへへ…)
今日くらいは贅沢しちゃおうかな〜〜
って、お金がなーい、!
どこに消えたの〜〜!!って、この世界のお金なんて持ってるわけ無いか。
(そもそもオムライスもチャーハンも異世界にあるわけ無いですね…)
ってことで異世界転生からわずか2時間、
僕の胃袋が限界を迎えてしまいました!
道端でばたん、と空を見上げて、
(え、どうやって生きていけばいいの…)
と放心状態になっていました。
まあ、ここで終わってたら僕は今いませんよ!(メタい…)
現れたのはわが救世主…
グレンツ・セルスティア師匠です!
真っ白な髪に、仕立ての良い貴族のような高級な服。
腰には見たこともない重厚な剣を差し、鋭い眼光からは「タダ者ではない」雰囲気がバチバチに出ていました。
後から知ったのですが、師匠はかつて伝説とまで言われた元Sランク冒険者で、今は隠居して大きな屋敷で優雅に暮らしている元・英雄だったのです。
(うわ、なんかすごく怖そうなお金持ちが来た……)
それが、僕の彼に対する第一印象でした。
僕がぐーっと情けない音を鳴らしてお腹を押さえていると、師匠は僕を見下ろし、厳格な声で言い放ちました。
「……何をしている。命を無駄にする気か」
師匠は呆れたように息を吐くと、ポケットから布に包まれたパンを取り出し、無造作に僕の膝元へ投げつけました。
「食え。そして立て。ワシの屋敷へ来るのだ」
温かいパンの味と、誰かに引き上げてもらった感触。
前世では味わえなかった「人に優しくされる温もり」に、僕は鼻の奥がツンと熱くなりました。
それが僕と師匠の、すべての始まりでした。
行くあてのない僕を屋敷へ連れ帰り、
「今日からお前はレイ・セルスティアだ。ワシの家族としてここに置く」
と居場所をくれた師匠。
言葉は厳しいけれど、本当の父親のように僕を気遣ってくれる、根はすごく温かい人。
神様、仏様、グレンツ様!
……と、感動してたのも束の間。
屋敷に着いた翌朝、僕はまた、と、て、つ、も、な、く、大きな問題に直面することになります。
なんと、なんとですよ。
あでやかなレースとフリルがふんだんにあしらわれた、完璧な「メイド服」を差し出されたのです!
「……着ろ、レイ」
「えっ? 師匠、僕、男ですよ!? どこからどう見ても男の子です!」
「問答無用! ワシの長年の夢は、真の気品と美しさを兼ね備えた『完璧なメイド』をこの手で仕立て上げることなのだ。男だから何だというのだ! その神秘的な白髪、愛くるしい顔立ち、そして線の細い体躯……お前には究極の『男メイド』としての才能が満ちあふれておる!」
「才能の使いどころが完全に性癖じゃないですかーーーっ!?」
「黙れ! 街にいるような普通の美少女などワシの眼中にない! ワシが求めているのは、男だからこその、可憐さと気品の奇跡的な融合なのだ!」
叫び声も虚しく、冷徹な師匠の前に僕の意見なんて1ミリも通りませんでした。
そう、僕を拾ってくれた救世主・グレンツ師匠は、元Sランク冒険者という凄まじい経歴を持ちながら、その裏に重度の「男メイドフェチ」という業の深い性癖を隠し持つ、ドスケベオヤジなのです!
その後、僕は長時間メイド服を脱ぐと発情するとかいう、とんでもない呪いを師匠にかけられました。
前世の不遇な境遇から抜け出せたと思ったら、まさかこんな性癖の罠が待っているなんて……
人生って本当にうまくいかないものです。
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そこから始まったのは、地獄のようなスパルタ教育でした。
ただ、元冒険者である師匠の教育は、普通のメイド修行にとどまりませんでした。
「レイ! 紅茶の温度が1度高い!茶葉の香りが壊れる!淹れ直せ!」
「は、はいっ!」
「そして次は剣術だ! ワシの踏み込みをかわしてみろ! 完璧なメイドたるもの、主の身に危険が迫った時は、スカートの裾を優雅に翻しながら敵を斬り伏せねばならん!」
「メイドの仕事に剣術入ってませんよね!?」
「だまれ! ついでに全属性魔法の詠唱も叩き込む! 掃除、洗濯、料理、魔術、剣術など……すべてをこなしてこその『完璧』だ!」
立ち振る舞いやお掃除術はもちろんのこと、師匠直伝の凄まじい剣術と魔術まで、徹底的に叩き込まれる日々。
朝から晩まで、師匠の厳しい叱責と剣撃の音が屋敷中に響き渡ります。
前世では誰も僕に何かを教えてくれるなんてなかったから、厳しい訓練もどこか嬉しくて、僕は必死にしがみつきました。
そして、月日が流れること数年。
気付けば僕は、どんな頑固な汚れも一瞬で消し去り、どんな高級お茶会でもミスなく給仕をこなし、並の魔物なら3秒で一刀両断できる、完璧すぎるスキルを持った「完全無欠メイド(♂)」へと仕上がっていたのです。
鏡に映る、優雅にお辞儀をしながら腰の短剣に手をやるフリル姿の自分を見るたびに、
(……あれ? 僕、なると思ってた『カッコいい冒険者』とは、ずいぶん遠いところに来ちゃったな…)
と、遠い目になるのが日常になっていました。
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「……というわけでですね、師匠」
僕は、目の前にある「請求書」の紙切れを指でつつきながら、引きつった笑顔を浮かべていた。
そこには、恐ろしい桁の数字が躍っていた。
原因は明白だ。昨日、師匠が『伝説の糸で織られた、限定生産の至高のメイド服』なるものをオークションで破格の値段で落札したからであった。
「ワシの長年の夢だったのだ! あのフリルの透け感、そしてお前の肌に沿う完璧なシルクの質感……! あれを着たお前を拝めるなら、屋敷の金蔵が空になろうと安いもの!!」
「安くないです!! 今月の食費どころか、来月の税も払えませんよ! 高いパンどころか、道端の草をむしって食べる生活に戻っちゃいます!」
「ぬぐ……。しかしレイよ、お前が冒険者ギルドで依頼を受ければ、Sランク級の魔物を狩って一発逆転など容易いではないか」
「無理に決まってるでしょう!? 僕には『長時間メイド服を脱ぐと発情する』っていう、師匠のかけた頭のおかしい呪いがあるんですよ!? このフリルとレース全開の格好でギルドに行ったら、色んな意味で社会的に死にます!!」
「あと……戦闘なんてすると……せっかくの服が汚れてしまいます……」
そう、文句を言いつつも、仕立てのいいこの服を汚したくないと思ってしまっている自分がいた。
師匠は一瞬驚いたように目を丸くしたあと、ふっと満足そうに鼻を鳴らした。
どうする? このままじゃ餓死まっしぐらだ。異世界転生して数年、またもお腹を空かせて倒れるなんて冗談じゃない。
(格好はメイド服のまま……でも、自分のスキルを活かして、とにかく稼げる仕事なら何でもやるしかない!)
うーんと唸ること数分。僕はポンと手を打った。
「……よし! じゃあ僕は【何でも屋】を開業します! 料理、掃除、家庭教師、要人警護……需要があるなら何でもこなして、ガッポリ稼いできますよ!」
「ほう……! 出張男メイドの何でも屋か! 主のあらゆる望みを叶える可憐な使い魔……うむ、ロマンだ!!」
「性癖の語彙力だけは本当に豊かですね師匠……」
こうして、僕の異世界生活は「無双する冒険者」でもなく、「ただの屋敷メイド」でもなく、『何でも屋メイド』として街の、いや国のあらゆる問題を解決しまくるカオスな日々へと突入したのでした!




