冤罪で投獄? いいえ、脱獄不可能な監獄が「セーフハウス」に
「動くな! 凶悪犯ザックス! お前の暴挙もここまでだ!」
ルバート公爵家の門をノック(物理破壊)で粉砕した直後。
私は、駆けつけた総勢五十名を超える王都憲兵隊に完全包囲されていた。
彼らは盾を隙間なく並べ、魔法の鎖をじゃらじゃらと鳴らしながら、これ以上ないほど緊迫した表情で私を睨みつけている。
(あ、あれ……? もしかして、ただの宿代の取り立てなのに、門を壊したせいで強盗か何かに間違われてる……!?)
これ以上誤解を重ねて、お尋ね者になるわけにはいかない。
ここは大人しく従い、事情聴取できちんと誤解を解くべきだ。前世の社畜時代、身に覚えのないトラブルで取引先に呼び出された時も、まずは誠実な態度を見せるのが鉄則だった。
「分かりました。抵抗はしません。大人しく従います」
私はゆっくりと両手を挙げ、穏やかな声でそう告げた。
――が、私の超低音ボイスと、微塵の動揺も見せない不敵な立ち姿は、憲兵たちに【この程度の包囲など、いつでも皆殺しにできる。退屈だから一度捕まってやるか】という、絶対王者の余裕として伝わっていた。
「く、屈服したふりをするな! 魔法の拘束具を最大出力でかけろ!」
* * *
こうして私は、国家反逆、不法侵入、破壊活動などの「冤罪(※門を壊したのは事実)」により、王都で最も厳重とされる『大結界監獄』の最下層へ投獄されることになった。
頑丈な鉄格子の向こう側。
そこは、暗殺者、大強盗、凶悪な魔術師など、国を揺るがした本物の犯罪者たちだけが収容される地獄の底だった。
私が重苦しい足音を響かせて連行されてくると、他の独房の囚人たちがニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて、鉄格子を叩き始めた。
「ひゃはは! 新入りかぁ!」
「ずいぶんデカい図体してやがる。おい、俺たちの『洗礼』に耐えられるか――」
だが、囚人たちが私の全身を覆う筋肉、顔面の大傷、そして「はぁ、早く誤解を解いてギルドに帰りたいなぁ」という退屈そうな三白眼の眼光を視界に収めた瞬間。
シーン……と、監獄全体が冷水を浴びせられたように静まり返った。
「…………おい、嘘だろ」
「なんで『首狩りザックス』がここにいるんだよ……」
「俺らとは『格』が違いすぎる……目、目が合ったら魂ごと消されるぞ……っ!」
本物の悪党だからこそ、本能で理解してしまったのだ。
目の前にいるのは、小悪党の自分たちが束になっても逆立ちしても勝てない、本物の『バケモノ(レベル99の勇者)』であると。
囚人たちは一瞬で体育座りをし、独房の隅でガタガタと震え始めた。
一方、私が案内されたのは、鉄格子ではなく、厚さ一メートルの魔導鉄で覆われた特別独房だった。
「……あの、意外と中は綺麗なんですね。失礼します」
私はおとなしく部屋に入り、ベッドに腰掛けた。
ギルドの豪華な客室ほどではないが、静かだし、なんなら前世の残業三昧の日々に比べれば、何もしなくていい分、かなり快適な空間にすら思える。
「ふぅ……。静かでいいところだな。ちょっと仮眠でも取るか」
私がそう呟き、深く息を吐いた。
――だが、特別独房の様子を監視モニターの魔導具で恐る恐る観察していた監獄長は、その私の言葉を聞いて、顔面を真っ青にさせていた。
「『静かでいいところだ』……だと!? つ、つまり、この脱獄不可能と言われた我が大結界監獄すら、あ奴にとっては『ただの暇つぶしの宿』に過ぎないというアピールか……!」
さらに、ザックスがただベッドに横たわっただけで、彼が放つ無意識の『神聖魔力(勇者のオーラ)』が、監獄全体に張られていた絶対の結界魔法をじわじわと中和し、書き換え始めていた。
「ば、バカなっ! 国王陛下の魔力を数代にわたって注ぎ込んだ結界が、寝返りを打たれただけで解除されていくぞ……!」
監獄長は恐怖の限界に達した。
もし、この怪物が本気で暴れだせば、監獄どころか王都が消滅する。
「お、おい! 今すぐ特上のステーキと最高級のワイン、それから極厚の羽毛布団を特房へ運べ! 全力で『おもてなし』するのだ! 機嫌を損ねられたら、我々の命はないぞ!」
* * *
それから数時間後。
「あの、ザックス様……。お口に合いますでしょうか……?」
涙目の看守たちが、台車に載せた最高級のフルコース料理を、特別独房の中に恭しく運び込んできた。
さらに、ベッドの上には、王室御用達レベルのふかふかの羽毛布団が敷かれている。
「えっ? これ、俺が食べていいんですか? ありがとうございます!」
私は大喜びでステーキを頬張った。
前世のコンビニ弁当とは比べものにならない美味さだ。あまりの幸福感に、私はにっこりと満面の笑みを浮かべ、看守たちに感謝の視線を送った。
――ズササササササッ!!!
しかし、その「最凶の微笑み」を見た看守たちは、一瞬で「生殺与奪の権を握られた!」と悟り、その場で一斉にスライディング土下座を決めたのだった。
「ひぃぃぃっ! 美味しそうに食べていただけて光栄ですぅぅぅ!!」
こうして、脱獄不可能とされた王都の最高セキュリティ監獄は、私がただ大人しく囚われていただけで、戦わずして世界一ラグジュアリーで快適な私の『別荘』へと変貌を遂げてしまうのだった。




